「メス1匹で繁殖」外来ザリガニ侵食拡大…すでに沖縄で定着、生態系や農業にダメージの恐れ

メス1匹で繁殖する特定外来生物のザリガニ「ミステリークレイフィッシュ」がここ1~2年、野外で相次いで確認されている。沖縄では既に定着し、愛媛では少なくとも600匹以上が見つかった。ペットの個体が流出したことなどが考えられ、専門家は他地域でも生息している可能性を指摘する。生態系に悪影響を及ぼしかねず、国は危機感を強めている。(矢野恵祐、桜木剛志)
那覇市中心部にある天久(あめく)ちゅらまち公園の池はネットで封鎖され、「立ち入り禁止」「利用制限」とのプレートが何枚も掲示されている。憩いの場にそぐわない様相なのは、ここでミステリークレイフィッシュが見つかったからだ。
2024年8月、子どもが池でザリガニを釣り上げた。「アメリカザリガニではなさそう」と沖縄県内の環境省の施設に連絡があり、ミステリークレイフィッシュと判明。同省の出先事務所が池を調べると数十匹が捕獲された。幼体もいたため繁殖していると判断し、国内初の「定着」事例になった。公園近くの小学校のビオトープで数十匹、同市に隣接する浦添市でも見つかった。事務所はペットなどが人為的に放たれたとみている。
発見後、公園を管理する那覇市は池の立ち入りを制限した。今年秋、根絶に乗り出す。1ミリ程度の網目のネットを通して水を抜いた後、底の泥をセメントで固めてコンクリートで蓋をし、水を入れ直す大がかりな作業を行う。市公園管理課の羽地(はねじ)朝哉さんは「驚異的な繁殖力があり、広がれば取り返しがつかない。徹底して駆除する」と話した。
環境省などによると、ミステリークレイフィッシュはアメリカザリガニ科に分類され、成体の体長は最大約10センチ。体にまだら模様があり、「マーブルクレイフィッシュ」とも呼ばれる。オスはいない。水温8~30度で生存でき、メスが1回あたり数百個の卵を年数回産むとの調査結果もある。
突然変異で生まれたとされ、原産国は不明だが、1995年にドイツでペットとして広まった。日本では2000年前後に流通し始め、ペットショップなどで1匹500~1000円程度で売られた。
野外に広まるとアメリカザリガニ同様、在来の動植物を食べ、他の生き物の生息環境を奪い、生態系にダメージを与える。水田に穴を掘って稲を切るなどの農業被害をもたらす恐れもある。沖縄以前には06年に北海道、16年に愛媛県で各1匹野外で見つかったが、定着確認には至らなかった。
同省は20年、外来生物法に基づく特定外来生物に指定し、輸入や飼育を禁じた。だが昨年5月、沖縄に続き松山市内の泉で2匹が見つかった。16年と同じ場所だった。愛媛県が8月~今年1月に実施した捕獲調査では計625匹もの個体が確認され、関係者に衝撃が走った。5月にも5匹捕まえた。県生物多様性センターは「定着している可能性は極めて高い」とし、個体数と生息範囲の調査を進める。
現状では、多数のミステリークレイフィッシュがいたのは沖縄、愛媛にとどまる。だが、ザリガニの生態に詳しい金沢大の西川潮准教授(保全生物学)は、「繁殖力の強さと環境適応力の高さから、生息域が広がっていても不思議ではない」と話す。認知度が低い現状を指摘し、周知と啓発の必要性を強調する。
同省はアメリカザリガニに間違われ見過ごされている可能性もあるとし、今年度、見分け方や発見時の通報先を記したチラシを刷新した。更に自治体が駆除時に使える補助金を増額し、対策を強化させる。担当者は「これ以上の定着は阻止しなければならない。疑わしい個体がいたらすぐ連絡してほしい」と話している。
飼育は原則禁止、違反なら罰金も
外来種のザリガニでは、北米原産のウチダザリガニが北海道などに定着し、ミステリークレイフィッシュと同じく特定外来生物に指定されている。
いずれも取り扱いは厳しく規制されており、飼育や放流、譲渡は原則禁止。これらに違反すると法人で最大1億円、個人だと同300万円の罰金か、3年以下の拘禁刑が科される。
戦前に食用ウシガエルの餌として米国から輸入された後に逃げ出し、全国に定着したアメリカザリガニは条件付き特定外来生物で、飼育や無償譲渡は許可が不要など、規制が異なる。