2024年、北海道江別市で集団暴行を受けて大学生が死亡した強盗致死事件の裁判員裁判で、遺体を司法解剖した医師が「腎臓の一部が裂けるような状態」「心臓にも出血があった」と証言しました。
強盗致死などの罪に問われているのは、大学生だった川村葉音(21)被告ら3人です。
1日の公判では、被害者の長谷知哉さん(当時20)の遺体を司法解剖した医師が検察側、弁護側、裁判官などからの証人尋問で証言しました。
最大約1.2リットルの血液を失血
【検察側の解剖医への証人尋問】
Q:2024年10月27日に長谷さんの司法解剖を? A:はい。
Q:死因は「外傷性ショック」と判断? A:はい。
Q:外傷性ショックとは? A:外傷によって出血が多量に生じ、ショック状態になる。全身に血液を送れなくなったり、全身の細胞や臓器が酸素などを使えなくなったりして亡くなる状態。
Q:健康な成人男性では、どの程度の失血で外傷性ショックに至る? A:全身の血液の20%~30%程度かと。
Q:今回の被害者の体重などから、全身の血液量はどの程度と考えられますか? A:体重のおよそ13分の1が血液量とされているため、今回はおよそ4リットル前後かと。
Q:その20%から30%、つまり800cc~1200cc程度の血液が、暴行によって血管外に出たという理解でよいですか? A:そうです。
Q:被害者の遺体で、最も出血が多かった部位はどこ? A:頭部と顔面です。
Q:頭皮下の損傷は、どのような状態でしたか。 A:皮膚の下で出血していて、血が非常に厚みを持っている状態でした。血腫、つまり血が固まった状態も見られました。
Q:頭部には急性硬膜下血腫やくも膜下出血が見られましたね。急性硬膜下血腫は、どのような力で生じたと考えられますか。 A:頭部や顔面に強い力が加わり、頭部が強く揺さぶられるような力がかかって、中の血管が切れて発生したと考えます。
Q:くも膜下出血は、どのような力で生じたと考えられる? A:同様に、頭部や顔面に対する強い打撃によって、脳の表面の血管が損傷し、頭部が激しく揺さぶられることで生じたと考えます。
「数十回以上は頭部を打撃されている」
Q:急性硬膜下血腫やくも膜下出血は、それ自体で死因となる程度のものでしたか。 A:それ自体では、まだ死に至るものではありませんでした。
Q:なぜそう言える? A:出血量は多かったものの、脳ヘルニアのように、出血で脳が強く圧迫され、本来ある場所から違う場所に飛び出すような状態がなかったためです。
Q:急性硬膜下血腫やくも膜下出血は、脳の機能に影響を与える程度? A:はい。出血量も多かったため、意識障害を起こす程度だったと。
Q:頭部や顔面には、何回くらいの暴行があったと考えられますか。 A:頭部全体にかなり多量の出血があったため、数十回以上は頭部を打撃されているかと。
Q:頭部・顔面の次に出血が多かった部位はどこですか。 A:背部、背中です。
Q:背中の出血の程度はどのようなものでしたか。 A:頭部ほどではありませんが、ほぼ背部全体にわたって、皮下組織や筋肉に出血している状態。
Q:背中の皮下出血や筋肉内出血は、どのような暴行で生じたと考えられますか。 A:背中を殴る、蹴る、踏みつけるといったことで生じたかと。
Q:前面を殴られたり蹴られたりして転倒したことで、背中にこのような出血が生じた可能性はありますか。 A:転倒でも背中に出血することはありますが出血量は非常に少ないものですので、今回は背中を直接暴行されたと考えられます。
「腎臓の一部が裂けるような状態」
Q:背中側の臓器に損傷はありましたか。 A:右腎臓と、その近くにある腰椎に損傷がありました。
Q:右腎臓はどのような状態でしたか。 A:腎臓の一部が損傷し、裂けるような状態になっていて、腎臓の周りに血液が溜まっていました。
Q:右腎臓の損傷は、どのような暴行から生じたと? A:腰の右側を強く蹴られる、あるいは踏まれる。
Q:腰椎の横突起の骨折は、体のどのあたりにある部分ですか。 A:体のかなり深い位置です。背骨なので、体の奥。
Q:その腰椎横突起の骨折は、どのような暴行から? A:腰の部分を強烈に蹴られる、踏まれるといったことかと。
Q:背中の損傷は、それ自体で死因となる程度のものでしたか。 A:かなり重症ではありますが、それ単独では死因にはなっていないと考えます。
Q:胃粘膜に黒色の点状出血がありましたが、これは何が原因と? A:暴行によって体にかなりの出血やけがが生じており、その体へのストレスの結果として、胃粘膜から出血が生じたと考えます。
Q:腕や足にも出血や損傷はありましたか。 A:特に腕を中心に、暴行を受けた際に防御したと考えられる傷が。腕には広範囲に皮下出血が。
心臓からも出血「すべて死因にかかわる」
Q:被害者の心臓はどのような状態でしたか。 A:左心室の内側に出血が見られました。
Q:心臓の内側の出血は、何が原因と考えられますか。 A:体からどんどん血液が失われても、心臓は最後まで動き続けます。血液を絞り出すように心臓が動くとき、心臓の内側どうしがぶつかり合うような形になり、心臓の内側の膜に出血が生じたのかと。
Q:今回、頭部、背中、胸腹部、手足など全身から出血していましたが、死因である外傷性ショックに関係のない出血はありますか。 A:いいえ。出血という時点ですべて死因にかかわります。
Q:なぜ、すべての出血が死因にかかわると言えるのですか。 A:今回の外傷性ショックの主な原因は、体の中の血液が血管の外に出てしまったこと。出血している場所は、すべて死因に関与するということ。
根性焼きの傷「あった」
Q:解剖時の被害者の顔の形や輪郭は、健康な男性と比べて変形していましたか? A:非常に腫れ上がっていて、顔面から頭部が膨らんでいる印象がありました。
Q:それは、頭部や顔面の皮下組織内に多量の出血によって顔の形が変わった? A:はい。出血によって皮膚が表面に押され、膨らんでいる状態。
Q:被害者の額には皮下出血や表皮剥脱がありましたね。場所は? A:額の真ん中より少し上、髪の生え際で赤くなっている部分が。
Q:その額の傷は、どのような原因で生じたと考えられますか。 A:少し表面に凹凸のある場所に頭が叩きつけられて生じたと。
Q:被告の1人が「ライダーキック」と言いながら被害者の背中に飛び蹴りをする動画を見ていますね。その際、被害者が転倒して額を地面にぶつけたことで、この額の傷が生じた可能性は? A:十分考えられます。
Q:被害者の体に、火のついたタバコを押し付ける、いわゆる「根性焼き」の跡と判断できるものはありましたか。 A:はい。
Q:どこに? A:右脇の下、左肩、左胸の横から後ろ側、左太ももの後ろなどに、円形のやけどと思われる部分がありました。
Q:タバコではなく、火であぶられたような痕跡はありましたか。 A:はい。髪の毛の一部が焼けているように見えた部分と、背の一部にも毛が焼けた部分があり、太ももの内側にはライターによるやけどと思われる部分も。
強盗前の暴行で死亡した可能性「低い」
Q:第1暴行、その後の午後11時47分までを第2暴行、そこから翌日午前1時22分ごろまで第3暴行と呼んでいます。被害者の顔面の写真を見ると、午後11時24分ごろの写真、午前1時すぎの写真にかけて、顔の形が膨張しているように見えます。これはなぜですか。 A:頭部や顔面にかなり多量の出血をしたことによって、腫れ上がった状態になっているためです。
Q:第1暴行の動画や音声から、第1暴行の時点で被害者の脳機能に障害が生じていたか判断できますか。 A:会話の内容や声の大きさから、正常に会話できていると考えられ、大きな脳機能障害はなかったと思う。
Q:第2暴行の音声では、被害者がお金を要求されている場面が。その話し方などから、脳機能に障害が生じていると感じられる部分は? A:特にはありません。
Q:第2暴行を受けている時点で、脳機能に障害を及ぼすほどの顔面や頭部の出血はなかったと考えられますか。 A:そう思います。
Q:第3暴行で、被害者が土下座していた動画の時点では、脳機能に何らかの障害があったと考えられますか? A:はい。姿勢を維持できなくなっているように見えましたし、話し方もやっと話している様子でした。意識障害が生じていてもおかしくないと考えます。
Q:第3暴行時、被害者は髪の毛などに火をつけられたりしましたが、大きく動いたり抵抗したりする様子はありませんでした。理由として考えられることはありますか。 A:頭部や顔面、その他の出血もあり、かなり弱っていて反応が鈍くなっていたと考えられます。
Q:第1暴行は約6分間で、その間、顔面や胸部に暴行を受けていました。この第1暴行だけで被害者が死亡した可能性はありますか。 A:低いと思います。
Q:なぜそう言えるのですか。 A:第1暴行の時点で死亡するような外傷を受けていたとすれば、第2暴行や第3暴行の時には、ほとんど意識を失っているような状態になっていたと考えられます。しかし、その後も普通に会話できているため、第1暴行の時点で死ぬような外傷を受けたとは考えにくいです。
18歳高校生男の“ライダーキック”腎臓を損傷させた可能性
【裁判員の証人尋問】
Q:頭や顔が腫れ上がるほどの出血があったということですが、頭部だけで全体の出血量のどの程度があったと考えられますか。 A:全体の出血量の6割から7割ぐらいだったと。
Q:背中の右腎臓の損傷についてです。(当時18歳の高校生の男)の「ライダーキック」の動画を見たということですが、このライダーキックによって損傷した可能性はありますか。 A:はい。背中への強い打撃によって生じたと考えられるから。
Q:第3暴行が終わった後、すぐに救急車を呼んで病院に運び、処置をしていれば、被害者が助かっていた可能性はありますか? A:可能性はあると思います。
【裁判官の証人尋問】
Q:被告人の話の中で、被害者の歯が折れていたという話題も出ていましたが、その点は? A:今すぐには思い当たりません。ただ、口がかなり腫れて切れたりしていたので、歯が折れている可能性も十分あると思います。
裁判長からも質問 助かった可能性
【高杉昌希裁判長の証人尋問】
Q:第3暴行が終わった後に救命措置が行われていれば命が助かった可能性があるという話でしたが、どの程度の可能性だったと? A:速やかに救急の専門的な病院に運ばれて、輸血などが行われていれば、十中八九、高い確率で助かっていたかと。ただし、脳機能には障害が残った可能性はあります。
Q:生命が助かるかどうかという意味であり、健康な状態に戻るかどうかとは別の話ですね? A:はい。
Q:右腰椎横突起の骨折は、例えば路上で普通に転んだようなことで生じるものですか。 A:転倒して少しぶつけた程度ではならず、その部分に集中的に強い打撃が加わり、背中側から組織がのめり込むような力がかかってできるようなものです。
Q:第1暴行だけで死亡につながる外傷が生じたわけではないという根拠をまとめると? A:被害者の顔などの損傷の状況や動画などから。第1暴行や第2暴行の時点では、被害者は普通に会話できていました。その時点で撮られた画像では、外傷もほとんどない状態でした。また、その時点では被害者も防御できていたと考えられ、意思疎通も問題なくできていました。 そのため、第1暴行や第2暴行で死亡するような外傷を負っていたとは考えられません。一方で、第3暴行では、途中途中の画像などから、急速に顔などの出血が広がり、弱っていく様子が見てとれる。ゆえに第3暴行が非常に重要だと考えられます。
Q:とはいえ第1暴行、第2暴行からの蓄積もあったという理解でよいですか? A:はい。出血していることが死亡につながっているわけですから、第1暴行、第2暴行でも、当然、出血は生じていて、蓄積がありました。