【琵琶湖死体遺棄事件】元風俗店員の女に判決『無期懲役』ホスト依存で借金膨らみ1億円近くに…資産家社長殺し琵琶湖に遺棄「依存症みたいになっていた」ホスト通いの実態とは【判決詳報】

会社経営の男性を殺害し、キャッシュカードを奪ったうえ、琵琶湖に遺体を遺棄した罪に問われた元風俗店店員の女の裁判。大津地裁は6月16日、無期懲役の判決を言い渡した。
なぜ彼女は「強盗殺人」という罪を犯すに至ったのか。
判決で「自己中心的で厳しく非難される」と断罪された犯行の背景には、借金を重ねてまでホストクラブへ通い詰める「ホスト依存」の実態があった。
元風俗店店員の女 強盗殺人や死体遺棄などの罪に問われる
6月8日、大津地裁で行われた裁判員裁判の初公判。
腰のあたりまで伸びた黒髪を一つに束ねた女は、かけていたメガネの位置をしきりに直すなど落ち着かない様子で座っていた。
女は元風俗店店員の市橋由衣被告(29)。判決文によると、市橋被告は2024年1月、自身の客だった男と共謀し、愛知県あま市の不動産会社社長の男性(当時55歳)の首を絞めて殺害。キャッシュカードを奪ったうえ遺体を琵琶湖に遺棄するなどした。
裁判を振り返りながら、彼女が凶行に及ぶまでの経緯をつまびらかにしていく。
裁判の2日目、市橋被告のことを親し気に「ゆい」と呼ぶ男が法廷に現れた。
「助けるためにお金を…」元客の男に総額1000万円以上を貢がせる
男は市橋被告の元客で、共犯者である加藤徹被告だ。市橋被告と共謀して、不動産会社社長の男性を殺害し、遺体を遺棄した罪などに問われている。
事件の3年前、客として訪れた風俗店で市橋被告と出会った加藤被告。市橋被告に誘われて、次第に店の外でも会うようになっていった。
検察官「交際関係にはありましたか?」

加藤被告「私のなかでは交際していたと思っています」

検察官「どうしてそのような表現を?」

加藤被告「ゆいが借金をしていて、助けるためにお金を渡していた」
市橋被告は奨学金や両親の借金を理由に何度も金を要求してきたという。
加藤被告は貯金を取り崩し、本業のほかに副業を4つ掛け持ちして、月400時間働いた。ときにはアルバイト先で金を横領してまで”市橋被告のための金”を作った。最終的に渡した金は総額1200万円に及ぶという。金を貢がされていた形だ。
加藤被告はなぜ、これほどの大金を貢いでいたのか。男は市橋被告への思いを吐露し、彼女との間に交わしていた“あるもの”について明らかにした。
「ひと言で言えば好意があった」「一緒になれれば、お金は返ってこなくていい」
検察官に「どんな気持ちでお金を渡していたのか」と問われると、男は次のように話した。
加藤被告「ひと言で言えば好意があったからです。付き合って1年してから、”婚姻届”を記入しました。ゆいからも『将来の旦那だろ』と言われていたので、そのために頑張って働いていた。一緒になれれば、お金は返ってこなくていいと思っていた」
二人の間には、将来を約束するかのように”婚姻届”が交わされていたという。加藤被告は自身の判子も押していた。「結婚できる」と思っていたのだ。
逮捕・起訴され、己の人生を破滅させられてなお、「市橋被告への好意に変わりはない」とはっきりと述べている。
しかし、その一途な想いは、のちに証言台に立った市橋被告の手によって踏みにじられることになる。
ホストクラブに通い詰めた女「行かないと生きていけなかった」
裁判の3日目。薄いピンクのトレーナーを着た市橋被告が証言台に立った。時折、言葉を詰まらせながら語ったのは“ホスト依存”になったきっかけだった。
大学に進学したものの、経済的な理由で中退。在学中に「お金(給料)がいいから」と風俗店で働き始め、息抜きでホストクラブに通い始めたのはそれからすぐのこと。これが、総額1億円近くに上る借金地獄への入り口だった。
弁護人「どうしてホストクラブに通う?」

市橋被告「どうして?」

弁護人「何のため?」

市橋被告「何のため…。行かないと生きていけなかった」

弁護人「楽しいから?」

市橋被告「いや、寂しいから」
「依存症みたいになっていた」 稼ぎを超えるホストへの費用に”パパ活”で重ねた借金
風俗店での稼ぎは多くて月に250万円ほど。しかし、ホストクラブに費やした金は1か月で500万円に達することもあったという。
そんな大金を、彼女はどうやってまかなっていたのか。
市橋被告「”パパ活”です。働いていたお店のお客さんに店の外でも会って、お金をもらっていました」
加藤被告と会って金を貢がせていたのも、ホスト遊びの資金を捻出するための“パパ活”の一環だった、ということなのだろう。
弁護人「(ホスト通いを)やめようとは思いませんでしたか?」

市橋被告「お金が大変だったけど、依存症みたいになっていた」
市橋被告が抱える個人相手の債務は9927万円にまで膨らんでいたが、当時の彼女は自分がどれだけの借金を背負っているのかわかっておらず、また、借りている感覚すらなかったという。
犯行のきっかけも”ホスト”
それでも、お金が足りなかった。
事件の1か月ほど前、2023年12月。
世間はクリスマスシーズンで、お気に入りのホストクラブでクリスマスイベントが開かれるとあって、市橋被告は“推し”のホストから「オリシャン(=オリジナルシャンパン)、おろして」と頼まれたのだ。
オリシャンは1本150万円。“パパ活”では用意できず、知人から200万円を借りた。返済期限は当初、12月26日。しかし金繰りの目途が立たず、1月14日まで延長して数万円ずつ返していくことにした。
しかし、“切羽詰まった”状態であることに変わりはない。
強盗殺人『好きな人のためなら、できちゃうかも』
そんな時、あるニュースと出会った。
市橋被告「名古屋であった強盗殺人事件のニュースを見たときに、加藤被告が『俺ならできるかも』と言っていた」
「強盗殺人」という凶悪犯罪が二人の行く末として現実味を帯び始めた瞬間は、拍子抜けするほどに些細な会話が発端であったようだ。
弁護士「ニュースを一緒に見ていた?」

市橋被告「電話で話していた。(加藤被告は)『好きな人のためならできちゃうかも』と言っていた」
ホスト遊びで金策に窮した女の手詰まりと、男が女に寄せていた好意。2人の間に「強盗殺人」という選択肢が降ってわいたのだ。
資産家の男性が狙われたわけ「お金が家に置いてあるのは…」
なぜ2人は不動産会社社長の男性を狙ったのか。
被害男性もまた、市橋被告が働く風俗店の客だったのだ。市橋被告はこの男性からも約2400万円を借りていて、弁護士を通じて返済を迫られていた。
さらに、市橋被告は被害男性の自宅にもたびたび訪問していたという。
最初はターゲットではなかったが、「お金が家に置いてあるのはあの男性だ」という考えが頭をよぎった。毎回、玄関は施錠されておらず、間取りも知っていた。
そして、女と男は、被害男性の家に向かった。
検察側「自己中心的で利欲的」無期懲役を求刑
愛知県あま市にある男性の家に押し入った市橋被告と加藤被告。
男性が帰宅すると首を絞めて殺害し、琵琶湖に遺体を遺棄。さらに奪ったキャッシュカードなどから現金400万円を引き出した。
その3週間後、2人は男性の会社の口座から現金を引き出した窃盗の疑いで逮捕された。その後、男性を殺害した疑いで再逮捕されている。
検察側「残忍かつ執拗」「自己中心的で利欲的で酌量の余地がない」
裁判の4日目。求刑を前に裁判官が被害男性の娘の心情を読み上げた。
被害男性の娘「離れて暮らしていても大きな出来事です。2年という月日がたっても、事件について考えます」「失われた命は戻りません。自分のしたことに向き合い、責任の重さを受け止めてほしいです」
検察側は論告で、市橋被告がホストで豪遊した結果、知人から重ねていた借金の返済が滞りがちになり、推しのホストが所属するホストクラブ経営者にそのことが発覚しそうになったことなどから、被害男性から金品をとろうと計画したと指摘。「残忍かつ執拗な犯行でそれなりの計画性がある。自己中心的で利欲的で酌量の余地がない」などとして無期懲役を求刑した。
市橋被告「娘さんの言葉を忘れずに、今後反省していきたい」
一方の弁護側は、犯行前日、被害者が家にいたため強盗を思いとどまったことなどから「はじめから被害者の命がどうでもいいと思っていたわけではない」と主張。また、ホスト依存症になっていた側面があると述べたうえで「社会復帰の道を残すことが重要」として、懲役20年が相当と意見を述べた。
この日の裁判の終盤、裁判官から「言いたいことはありますか?」と尋ねられた市橋被告は「娘さんの言葉を忘れずに、今後反省していきたいと思います」と消え入るような声で述べた。
“ホスト依存”のすえ…言い渡された判決
裁判は5日目を迎え、最終日。判決で大津地裁(畑口泰成裁判長)は「ホスト依存により強盗殺人という犯行の重大悪質性がわからなくなっていたとか、犯行に及ぶことが止められなくなっていたなどとも認めがたい」と強く指弾。
また、「自らに対する加藤被告の好意を利用して、随所で自らの手を汚さないように行動しようとし、卑怯である」などとして、市橋被告に無期懲役を言い渡した。
初公判では頑なに一つに束ねられていた黒髪は、この日は力なく肩へ下ろされていた。
「本気ではなかった」市橋被告が語る”婚姻届”の真意
市橋被告は当時、加藤被告が自身に向けている好意に気づいていたという。加藤被告は金を渡してくれるだけでなく、洗濯物に嫌いな虫がついていたとき、仕事終わりにわざわざ取りに来てくれたそうだ。
そんな加藤被告と記入した「婚姻届」だが、市橋被告は他の男性客とも取り交わしていたという。共犯者となった彼は、唯一無二の男ではなかったようだ。
弁護士「加藤被告と結婚しましたか?」

市橋被告「はい。話したのは私からです。本気ではなかったです。今は反省していますが、お金のタイミングが良かったら結婚していたかな」

弁護士「他にも婚姻届を書いていた人は?」

市橋被告「渡した記憶が、何人か」

弁護士「結婚しようと思っていた?」

市橋被告「条件次第で結婚していた」
身勝手な依存の果てに、他人の命だけでなく、従順な男の人生まで生贄に捧げた末に受けた「無期懲役」という判決。その重みを、彼女は今、どう受け止めているのだろうか。
なお、判決から8日後、市橋被告側は判決を不服として、控訴している(6/24付け)。