大阪市内に迷い込み、3月に保護されたニホンジカの「シカやん」について、奈良公園(奈良市)を中心とする地域に生息するシカと遺伝子型が一致したことがわかった。神戸女学院大などのチームによるDNA調査で判明。奈良のシカと科学的に裏付けられた。大阪までの長距離移動は公園内のシカの急増が要因とみられる。(長尾尚実)
シカやんは、推定2~3歳の雄。大阪市内の市街地に姿を現し、3月25日に市職員が捕獲した。
奈良公園から西に移動してきた可能性が指摘されたが、実際にどこから来たのか不明だった。奈良県の山下真知事が「(奈良での)受け入れは難しい」と表明し、大阪府能勢町の民間の宿泊施設「能勢温泉」で保護されることになった。シカやんと命名され、敷地内の一角で飼育されている。
調査は、読売新聞の依頼で、シカのDNA分析に実績のある同大の高木俊人・専任講師(分子生態学)らが実施。本紙が宿泊施設の許可を得た上で、5月に高木さんが施設を訪れ、シカやんのフンを採取した。
奈良、和歌山、三重、京都の4府県に生息するシカは18の遺伝子型に分類され、分析の結果、奈良公園やその周辺に生息する集団の遺伝子型と一致。この集団は1000年以上にわたって独自性を保ってきたことがわかっている。
国の天然記念物に指定されている奈良公園の野生シカは近年、生息数が急増。一般財団法人「奈良の鹿愛護会」は16日、今年の頭数が昨年より222頭増加して過去最多の1687頭に上ったと発表した。観光客らの過剰な餌やりが原因の可能性がある。
シカやんが捕獲された地点と奈良公園は約25キロ離れている。調査に参加した奈良大の立沢史郎教授(保全生態学)によると、シカやんのような若い雄は、繁殖相手を求めて長距離を移動する習性があるが、数十キロ移動するケースは珍しいという。
公園東側の三重や京都の山あいに向かう雄の姿も確認されており、立沢さんは「このまま奈良公園のシカが増加すれば、第2、第3のシカやんが出る可能性がある」と話した。
チームは近く、科学技術振興機構が運営する査読前論文の投稿サイト「Jxiv」で今回の調査結果を公表する。
管理地区外のシカは駆除対象、大阪府担当者「奈良県と情報共有して対応」
奈良のシカは古くから、「神の使い」として大切に守られてきた。文化庁によると、天然記念物としての指定地域は明確にされていないが、奈良県は、奈良公園を中心に「保護地区」を設け、病気やけがをしたシカの治療や交通事故対策などを進めている。
保護地区から離れたシカについては、平成の大合併以前の旧奈良市の域内を「管理地区」に指定し、食害による農林業への被害防止を目的に捕獲などを行っている。
管理地区の外に出たシカは、野生のクマやイノシシと同様、鳥獣保護管理法に基づき各府県が捕獲や駆除を判断する対象となる。奈良県の担当者は「大切な文化財ではあるが、現時点では、見つかった所在地のルールに従って、どうするかを判断してもらうしかない」と話す。
大阪府の担当者は「奈良のシカが大阪まで来たと確認されたケースはこれまでなかった。奈良では天然記念物として保護されている側面もあり、奈良県と情報共有して対応していきたい」としている。
今回、調査を行った高木さんは「奈良県と近隣府県がシカを共同管理するルール作りが必要だ」と指摘している。