「大阪都構想」の3回目の住民投票に向けた大阪府・大阪市の制度案作りが進む中、都構想の実現時に「大阪市が廃止される」ことの解釈を巡り、推進派、反対派のイメージ戦が本格化してきた。市の廃止が前面に出ることは反対理由となりやすいためで、投票用紙に記載する文言を巡っても、攻防が激化しそうだ。(林興希、猪原章)
「広域行政は府・市合併。基礎自治は特別区に再編。これが本質だ」
大阪府の吉村洋文知事(大阪維新の会代表)は14日、都構想の仕組みについて、府庁で記者団にこう説明した。最近は「大阪市はなくならない」と強調する場面も目立つ。住民投票で賛成多数となっても、大阪市域の住民サービスやコミュニティーは維持されるとの認識を示したものだ。
都構想の手続きを定めた大都市地域特別区設置法の第1条は「この法律は、道府県の区域内において関係市町村を廃止し、特別区を設ける」と規定する。
このため、反対派の市民は6月15日、市の説明や資料で「市はなくならない」「府・市合併」との表現を用いないよう求める陳情書を大阪市議会に提出した。
同30日の市議会では陳情書を踏まえ、反対派の公明党市議が「『廃止』を避け続けることはとんでもない」と維新側を批判。横山英幸市長(維新代表代行)は「わかりやすい説明のため、廃止という文言は使うべきではないというのが私のスタンスだ」と答弁し、議論は平行線をたどった。
維新側が「廃止」との表現を避ける背景には、負のイメージを払拭(ふっしょく)する狙いがありそうだ。
「廃止」を巡る論争は、過去2回の住民投票でも繰り広げられてきた。1回目では、市長だった橋下徹氏が「都構想は役所の仕組みを変えるもので、廃止・解体ではない」と訴えた。2回目は反対派の政党などが「日本から、大阪市がなくなる日。それを阻止できる最後の日」とのキャッチフレーズを使い、市民感情に訴える戦略を打ち出した。
読売新聞が2回目の住民投票時に実施した出口調査では、反対理由の中で「市がなくなるから」(34%)が最多だった。維新市議は「市への愛着が強い市民ほど『廃止』という言葉の影響を大きく受けていた」と振り返る。
こうした攻防は、住民投票の投票用紙の文言にも波及した。投票用紙の記載内容は大都市法施行規則に基づき、市選挙管理委員会(定数4)が決める仕組みとなっているためだ。
1回目は「大阪市における特別区の設置」に賛成、反対を記すよう有権者に求めた。反対派の大学教授らは2回目を想定し、投票用紙に「廃止」を明記するよう求める陳情書を2018年に市議会に提出。維新以外の賛成多数で採択された。
これを受け、2回目は「大阪市を廃止し特別区を設置する」となった。推進派、反対派の双方に「『廃止』が入ったことで勝敗に影響した」とみる向きは多い。
3回目の記述は、府・市両議会で制度案が可決された後、市選管が協議して決める。選管委員は現在、維新の元市議が2人、反対派の自民、公明両党の元市議各1人で構成されており、判断が注目される。
大阪経済大の秦正樹准教授(政治心理学)の話「吉村氏の『大阪市はなくならない』という発言をある種の比喩的表現ととらえれば、うそをついているとまでは言えない。ただ、都構想に詳しくない人が、市そのものが残ると誤解する可能性がある。首長などの公職者は、そうした層に与える影響を考えて丁寧に発信すべきだ」
◆大阪都構想=大都市地域特別区設置法に基づき、政令市の大阪市を廃止して複数の特別区を新設する都市再編策。東京都をモデルに、広域行政は大阪府に一元化し、身近な住民サービスを特別区が担う。賛否を問う住民投票が2015年と20年に行われ、いずれも僅差で否決された。