福岡県の南東部に位置するうきは市は、桃や梨、ぶどう、柿などの栽培が盛んなことから“フルーツ王国”として知られる。その地で、2年続けて同じ農園が大量の盗難被害に遭う異例の事件が起きた。
高級品種の梨『幸水』を狙った犯行
「7月12日から17日の間に、高級品種の梨『幸水』を約5000個盗まれました。梨は1本の木からおよそ100個採れるんですが、うちにはその木が100本あり、そのうちの半分、およそ200万円の被害を受けたんです」
そう語るのは、5代続く梨農家の佐々木浩喜さん(54)。もともとは福岡市で会社員として働いていたが、15年前、仕事中のけがで農業を続けることが難しくなった父親に代わり、家業を継いだという。家族で真心をこめて育てた作物が大量に盗まれたが、この農園が被害に遭ったのは今回が初めてではない。
「去年の7月18日から25日の間にも、同じ『幸水』を約7500個盗まれました。そのときも被害届は出しましたが、犯人は見つかっていません。去年の被害で鍵付きの金網の柵と人感センサーも付けたのに、今年も盗まれて本当にやり切れないですね。もう犯人には怒りしかないですよ」(佐々木さん、以下同)
犯人はいったい、どのような手口で5000個もの梨を盗み出したのか。
「うちの梨畑は軽トラックも途中までしか入れず、その先は急勾配なので、梨専用の運搬車でも5000個を運ぶには3往復は必要です。また、梨を摘んでケースに詰めて運び、さらに大型トラックへ積み替える。若い人が5人いても5時間はかかると思います。昨年も今年も、複数人の計画的な犯行なのは間違いないでしょう」
さらに佐々木さんは、現場を知る人物の可能性にも言及する。
「畑の場所や、うちの事情を知っている人間なのかもしれません。ただ、犯人は絶対に近くの農家ではないと思います。農家なら、人が育てた農産物を盗むのがどれだけ許せないことかわかっていますから。
今回の事件を聞きつけて、熊本県の農家さんが“何か力になれることはありませんか?”とわざわざここまで来てくれて、応援してくださっているんですね。やはり農家は、こういったやるせない気持ちを理解してくれるんですよ」
浮かび上がる犯人像
元大阪府警刑事で現在は犯罪ジャーナリストとして活動する中島正純氏は、現場の状況から“内部事情に詳しい人物の犯行”と分析する。
「梨は枝の軸を残して非常にきれいにもぎ取られており、明らかに素人ではありません。5000個もの梨を一人で盗み出すことも不可能です。果物は傷つきやすく、商品価値を落とさず運ぶには扱い方を熟知した複数人が必要になります」
そのうえで中島氏は、犯人像として3つの可能性を挙げる。
「1つ目は農園の内部事情を詳しく知る人物です。農園は細い道の奥にあり外部からわかりづらいため、この場所に梨農園があることがわかっている人物、さらに『幸水』だけを狙っていることから、幸水が植えられている場所を把握している人物の可能性があります。
2つ目は同業者です。京都では九条ネギを盗み、自社の商品として販売していた農家が逮捕された前例があります。
そして3つ目は外国人窃盗グループです。過去には盗んだ農産物を海外へ密輸した事件もあり、今回も転売や海外流出を目的としている可能性があります」
事件を担当する捜査関係者も、現場や流通ルートを中心に捜査を進めている。
「現場の状況や防犯カメラ、JAなどの流通ルート、フリマアプリを含め、あらゆる可能性を視野に捜査しています。5000個ともなれば相当の人数が必要になりますし、夜間に計画的に実行された可能性が高いとみています」
防犯対策の現状
その一方で、今回の事件には不可解な点があるという。
「ひとつ気になるのは、なぜ市場価値の高い、すぐに食べられる梨ではなく、成熟度が7割ほどの加工にしか適さない梨を狙ったのかという点です。梨の日持ちは2週間ほどでさほど長くもありませんし、そこにどんな意図があったのかは、いまだ不明です」(捜査関係者、以下同)
佐々木さんの農園で昨年も盗難事件が起きたことを受け、地元では再発防止に向けた対策も進められてきた。
「うきは市、うきは署、JAが連携し、JAでは防犯カメラ13台を設置しています。ただ、耕地は非常に広く、JAに加盟していない農家もあります。すべてをカバーするのは難しく、最終的には個々の農家にも防犯対策をお願いしているのが現状です」
しかし、対策が取られながらも2年連続で発生した盗難事件。被害を受けないためには、ほかにどのような対策が必要なのか。
「防犯カメラは犯行後の捜査には役立ちますが、その場で犯人を追い払う力は限定的です。本当に侵入を防ぐには、センサーライトによる強い光や大音量の警報装置を組み合わせることが重要です。“光と音”で犯行を断念させ、“防犯カメラ”で証拠を残す。この二段構えが最も効果的な対策と言えるでしょう」(中島氏)
全国では農産物盗難が年間約2000件発生しているのに対し、検挙率は半数以下にとどまるという。丹精込めて育てた実りを安心して収穫できる日常を取り戻すためにも、一日も早い犯人の逮捕が待たれる。
週刊女性2026年8月11日号