恐怖忘れてがれきの下へ潜り込み 「自分がやらないと」 高齢女性を救った19歳の使命感

激震に見舞われた熊本県八代(やつしろ)市で、1人の若者が倒壊家屋の下敷きとなっていた高齢者2人の命を救った。頻繁に余震が起き、救助隊の手も回らない状況下。知識はあっても実際に誰かを救ったことはない。でも「自分がやらないと」―。使命感がただ体を動かした。
熊本市に住む安齊俊聖(しゅんせい)さん(19)は建築現場での仕事を終え、同僚と車で帰宅中、車体が大きく左右に揺さぶられたことに気づいた。外に出て辺りを見渡すと、住宅が次々と屋根から崩れ落ち、土煙が舞い上がっていた。
救助隊もさすがにまだ来ない。以前から自衛隊出身の友人から防災技術を学んでいた安齊さんは、救助に関する知識は人より詳しいとの自負があった。ただ現場での活動経験はなかった。
そんな中、あちこちで助けを求める声が聞こえる。「このままじゃ助かる命も助からない」。躊躇(ちゅうちょ)はなかった。
1階部分がつぶれた木造住宅を中心に一軒ずつ確認して歩いた。すると、高齢女性が足をがれきに挟まれ、取り残されているのを見つけた。近くに住むとみられるベトナム人グループが救出を試みていたが、焦りからか、女性をがれきから引っ張ろうとしていた。
長時間の圧迫を受けた筋肉が壊死(えし)し、解放後に毒素が全身に回る「クラッシュ症候群」を引き起こせば、ショック死に至る恐れもあった。足の変色具合や状態を見極め、周囲のがれきを一つ一つ取り除き、安齊さんを中心に慎重に女性を救い出した。近隣住民によると、女性は病院へ搬送されたが、命に別条はなかったという。
別の木造民家では、崩れ落ちた家屋の中に80代女性が生き埋めになっていた。目の前には助けを求める親族がいた。発災から数時間が経過し、すでに消防や警察も駆け付けていたが、救助の手が回っていない状況だった。
安齊さんはがれきの中に潜り込んだ。「ここにいます…」。女性のかすかな声を頼りに暗闇の中を進んだ。「巻き込まれれば(自分が)死んでしまう可能性もあったが、自然と体が動いた」。使命感が恐怖を忘れさせた。
奥まって外からは見えないような場所で女性は机の下に潜り込み、わずかな空間で命をつないでいた。「水が欲しい」。そう求めた女性の口元に、安齊さんは水を含ませた脱脂綿を運んだ。
余震でさらなる倒壊の危険も残る中、借りたチェーンソーで散らばった支柱を切り出し、崩れた屋根との隙間に補強用の新たな支柱を入れ込んだ。安全を確保した上で女性を救出。この女性も病院へ搬送されたが、目立ったけがはなく、翌日には退院したと親族から感謝の電話があった。
大規模災害の発生時には、その道のプロである救助隊でさえも全ての現場を迅速に対応できるわけではない。だからこそ、地域住民らの自発的な助け合いが命を救う最大のカギとなる。
ガラス片が散乱する家屋へ何度も潜り込んだその両腕には、多くの生傷が残ったまま。地震発生から4日が経過した今も、支援物資を詰め込んだリュックサックを背に、被害が大きい街を見回っては物資の供給に汗を流している。「多くの尊い命を助けるために『命を懸けろ』とまでは到底言えない。ただ、自分にもできることが何かあるという気持ちを持ってもらえれば」(鈴木源也)