高市政権の経済政策はなぜ評判が悪いのか? 支持率急落を招いた“変節”…「高市トレード」が「高市ショック」に変わった背景

高市政権の支持率が急落している。報道各社の世論調査で内閣支持率は軒並み下落し、10ポイント以上も減少した調査も。首相本人は「原因がわからない」と強がるが、人心の離反は明らかだ。7月には高市内閣として初めて「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を閣議決定したものの、直後に円売りが進む「骨太ショック」も見られた。なぜマーケットは株高に沸いた「高市トレード」から、「高市ショック」に180度転換したのか。そこには市場にもてあそばれる首相の姿が浮かび上がる。
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国民の高市首相に対する評価が一変した理由
昨年10月の内閣発足から1年を待たず、国民の高市首相に対する評価が一変した。一時は支持率が7割超という高水準にあったものの、直近の各種調査を見ると厳しい視線が向けられていることがわかる。
読売新聞が7月24~26日に実施した世論調査によれば、内閣支持率は57%で6月調査時から12ポイント下落し、政権発足後最低だった。不支持率は13ポイント増の34%だ。
その他の世論調査でも同じような傾向が見られる。
朝日新聞の調査(7月18、19日)は支持率が前回調査時から7ポイント減の53%、不支持率は8ポイント増の35%。日経新聞の調査(7月24~26日)は支持率が10ポイント減の58%、不支持率が10ポイント増の37%。
共同通信の調査(7月25、26日)では支持率が2.1ポイント減の53.7%、不支持率は5.8ポイント増の33.7%だった。
高市首相の経済対策がここまで評判が悪い背景
支持率急落の要因については、様々な見方がある。最も下落幅が大きかった読売新聞は皇室典範改正などの重要法案や政策に関して首相の説明不足があったと指摘した上で、物価高への国民の不満が影響したとみられるとしている。
実際、読売の調査では皇室典範改正などについて首相の説明が十分だったと思うかについて質問し、「思わない」が62%を占めた。また、物価高に対する政府の対応を「評価しない」は71%に達し、前回調査から15ポイントも上昇したと報じている。
読売の調査をもとにした分析に異を唱える人は少ないだろう。だが、筆者には高市首相の経済対策がここまで評判が悪い背景には、プラスアルファの要因があるように映る。
その最大のものは、高市首相の言うことがころころと変わってきた点にあるのではないか。つまり、国民や市場からすれば「信頼性」の問題である。
ころころ変わる高市「減税論」のいい加減さ
まず首相が掲げてきた飲食料品の消費税ゼロ化について指摘したい。
高市氏は1月19日の記者会見で、物価高対策としての効果を見据え、2年間限定で税率を「ゼロ」にすることを自民党の衆院選公約とする意向を表明した。この時に首相は「ゼロ」が自らの悲願であったとまで言及している。
自民党は2月の衆院選で「飲食料品は、2年間に限り消費税の対象としないことについて、今後『国民会議』において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します」と公約し、歴史的な大勝をつかんだ。
たしかに選挙後、野党にも呼び掛ける形で「国民会議」はスタートしたが、いつの間にかゴールは「税率1%」にすり替えられてしまったのだ。
レジシステム改修などに一定期間がかかるとする高市氏は「十分な負担軽減をいち早く的確な形で届けるため、実現に向けて強い思いをもって取り組んできた」と説明したが、来年4月からの「税率1%」化は首相の言動とは異なるものだ。
そもそも、首相は昨年10月に自民党総裁に選ばれた際の会見で、食料品の消費税率ゼロ化に関し「選択肢として放棄するものではないが、すぐに対応できることを優先したい」と慎重だった。
同12月23日の日経新聞インタビューでは「選択肢としては排除しないが、物価高対策としては即効性がないと判断をした」とも答えている。
市場や事業者にも悪影響を与えかねない
首相や与党の最高責任者に就いた後、政治家が“変節”する例を挙げればキリがない。
だが、それならば高市氏はなぜ消費税ゼロ化に慎重姿勢だったインタビューの約1カ月後の記者会見で「悲願」とまで言ったのか。そして、物価高対策に即効性がないと言っておきながら、今さら「負担軽減」を持ち出したのか解せない。
時の最高権力者が決断を下したのであれば、来年4月から飲食料品の消費税率は「1%」に2年間限定で変更されるのだろう。だが、信頼性という観点から言えば「2年後」に本当に税率を元に戻すことはできるのか不安になる。
その時にインフレが加速していたらどうするつもりなのか。首相の言動がコロコロと変わることは市場や事業者にも悪影響を与えかねない。
骨太ショックについても触れよう。6月に公表された「骨太の方針」原案には何と書いてあったか。
金融政策の具体的手段に首相が言及する異例の会談
そこには、日本銀行について「『強い経済』の実現のためにも安定的な物価上昇の実現に資する適切な金融政策運営を伴うことが非常に重要」「日銀法第4条及び政府・日本銀行の共同声明の趣旨に沿って政府と緊密に連携」と記載されていた。
だが、7月に閣議決定されたものは「日銀の独立性」に配慮し、「日銀法第3条に基づき、金融政策の具体的な手法については日銀に委ねられる」との文言が付け加えられている。
さらなる円安進行や長期金利の上昇を招きかねないと事務方が加筆したのかもしれない。だが、時事通信は8月5日、首相が5月に植田和男・日銀総裁と会談した際、「長期金利の上昇を抑えるため、必要に応じて国債を買い入れるよう求めていたことが4日、分かった」と報道。金融政策の具体的手段に首相が言及する異例の会談だったと報じている。
政治には「表と裏」があるのだろう。たしかに日銀は6月の金融政策決定会合で政策金利を1%に引き上げるとともに、国債買い入れの減額措置停止を決定した。首相は利上げに難色を示していたとされ、両者にはすきま風が吹く。
多くは既存事業の焼き直し感が否めない「日本成長戦略」
歴史的な円安は28年ぶりの日米協調介入によって急激な円高に転じたが、円ドル相場が落ち着いていくのかといえば「否」だろう。背景にある日本と米国の金利差に加え、「責任ある積極財政」を掲げる高市政権への不安も国内外には存在する。
骨太の方針と同じく閣議決定された「日本成長戦略」は、首相が注力する経済安全保障の強化や危機管理投資、AI(人工知能)など先端技術に対する積極投資といった「高市カラー」が並ぶものの、多くは既存事業の焼き直し感が否めず、総花的で新味を欠く。
財源の裏打ちが怪しいものもあり、さらなる長期金利の上昇を招きかねないリスクを負っているとの見方は消えない。円安進行や金利上昇という“爆弾”は、高市政権に今後もつきまとい、常に市場の動向をにらみながらの政権運営を強いられることになるだろう。
皇室典範改正や経済安全保障の強化、スパイ防止法など高市首相が取り組む課題は国家にとって重要なテーマである。だが、その時々で国民に必要性を十分に説明してきたと言えるのか。
「高市トレード」から「高市ショック」へ
なぜ自らの言動が“変節”してきたのかについて市場や国民とコミュニケーションを図ってきたのか。そして、一向に止まない物価高騰に対して来年春からの「飲食料品の消費税率1%」化だけで対応できると本気で考えているのか。
自ら発信したい点はSNSなどで時間を割く首相だが、市場や国民との「対話」は限られているように映る。その姿勢が今後も「独りよがり」と見られれば、支持率下落の波はさらに高くなっていくのかもしれない。
「高市トレード」から「高市ショック」へ――。市場が首相に突きつけたのは、政策の中身以上に「言動の一貫性」への疑問符である。
消費税ゼロ化から一転しての「税率1%」化、骨太方針原案の書き換え、日銀への異例の関与。いずれの根底にも、掲げた旗をいつの間にか下ろす「信頼性」の揺らぎが横たわる。
国民が求めているのは巧みなSNS発信ではなく、なぜ考えを変えたのかを正面から語る誠実な「対話」だ。物価高という難題にその場しのぎで臨む限り、市場も民意も首相から静かに離れていく。
人心の離反を「原因がわからない」で片付けているうちは、支持率下落の波がさらに高まることを、首相は覚悟すべきだろう。
文/竹橋大吉