「大手ほどユルいんだよ」“あまりのビッグネーム”に逃げだす地面師も…《被害額55億円》「積水ハウス地面師詐欺事件」を手掛けた「主犯格の胆力」

「大手ほどユルいんだよ」――被害額55億円に上る「積水ハウス地面師詐欺事件」。ビッグネームを前に逃げ出す仲間も出る中、なぜ主犯格・カミンスカスは堂々と本名で突っ込み、大手企業を騙し切ることができたのか。
地面師のパシリとして現場に立ち続けた実行犯・カトウの告白から、事件の舞台裏と主犯格の異様な「胆力」の正体に迫る。ジャーナリストの河合桃子氏の新刊『 地面師連絡役カトウ: 積水ハウス55億円詐欺事件、ある実行犯の告白 』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/ 続きを読む )
◆◆◆
偽名と本名
ここに至ってなお、メンバーの一員であるカトウは詐欺が成功するとは信じられずにいた。その感覚とは裏腹に、積水ハウス社内では海喜館の土地を購入するための準備が進み、「不動産稟議書」が作成されて、各部署への確認も異様なスピードで進んでいた。
17年4月13日には中間業者のIKUTAオーナーであるAを介して、カミンスカスが積水ハウスの東京マンション事業部のC営業次長らと初対面した。場所はその当時、積水ハウスが販売を開始していたマンション「グランドメゾン江古田の杜」の販売所があった代々木だった。午前中にAが積水ハウスに「海喜館の土地を70億円で買い取ってほしい」と話を持ちかけ、同日午後、海喜館の地主側代理人としてカミンスカスが打ち合わせに合流したのである。
カミンスカスは「合同会社B3303」という会社の「代表取締役 小山操」と書かれた名刺を渡し、「不動産業者です。海老澤さんから相談を受けています」と挨拶をした。
この時、「今回は仲介には入らず海老澤さんからコンサル報酬をもらいます」といった説明をしていたようだ。カミンスカスの知人はこの会社名についてこう解説してくれた。
「B3303っていう文字並びには意味があります。BはブルーのB。小山(カミンスカス)さんは青が好きで、特に夜の水商売などの女性に自分のことを“ブルー”と呼ばせてました。数字の3303は『ミサオサン』って意味です(笑)」
登記情報を見ると実在する会社で代表はカミンスカス(小山操)になっているが、その言葉遊びのような社名の意味は積水ハウスやAに説明されたのだろうか。
そもそも、カトウほか少なからぬ地面師が偽名を使うのに対して、なぜカミンスカスだけは本名で臨むのかという疑問が浮かぶ。カトウは言う。
「前周りは、不動産のやり取りにおける“仲介”の役割。不都合な情報は『売主から聞かされてない』『知らなかった』と言って通せば、仲介が罰されることはない。前周りは『地主が偽者と知らなかった』と言って逃げられるから、堂々と本名で突っ込むんです。
とはいえ、実名を出すわけだからやっぱり詐欺師はやりたがらない。その絶対やりたくないことを平気でやったのが小山さんというわけです」
積水ハウスが前のめりに
私は服役中のカミンスカスと手紙のやり取りをしているが、初めて対面した時の積水ハウス・C営業次長の様子をこう記している。
《C営業次長は「セキスイのCが買うと言ったら買います。」と言って買う気まんまんでした。》(2025年6月19日消印)
C営業次長の言葉の通り、17年4月18日には、当時の阿部俊則社長も海喜館を視察。積水ハウスサイドの動きが前のめりになってきていた。
「大手ほどユルいんだよ」
この日、カトウは土井の指示で午前11時に新橋駅のSL広場でなりすまし地主の長谷川と待ち合わせた。商談を行う際はだいたいこの広場が待ち合わせ場所となり、カトウは浅川に「汽車ポッポのところだからね」と伝え、浅川が長谷川に連絡を入れていた。この日は海喜館の土地をめぐる商談で千代田区の弁護士事務所に向かったそうだが、「相手がどんなかは覚えてない」と言う。
午後にも商談があると聞かされていた。午前の商談を終え、長谷川を連れて戻ってきたカミンスカスは午後の打ち合わせ先をこう告げたという。
「西新宿の積水ハウスの東京事業部に向かって。住所はここ」
カトウ自身が積水ハウスの名を聞いたのは、その時が初めてだった。これまで何度か商談があったが、相手が誰かは聞かされないことのほうが多かった。自分の役割は長谷川と道具の管理であり、商談相手が誰だろうと関係なかったからだ。しかし、いきなり飛び出たビッグネームにカトウは驚きを隠せなかった。
「そんな大手に話を持っていって大丈夫なんですか?」
「大手ほどユルいんだよ」
カミンスカスは、大手の会社ほど騙しやすいと説明したという。その根拠は示されなかったが、堂々と言い放たれた言葉をカトウははっきりと記憶していた。
打ち合わせは午後3時、積水ハウスの東京マンション事業部があった西新宿のホウライビル5階(後に別ビルに移転)で行われた。臨席したのは積水ハウスのC営業次長らと中間業者のA、B、そして積水ハウスとA双方の司法書士、さらにカミンスカスと長谷川が参加した。なりすましの長谷川は積水ハウスと初めての顔合わせとなった。
面談の場では本人確認書類としての偽造パスポート、改印して出した本物の印鑑登録証明書、住民票の元本及び偽造の権利証のコピーなどが提示された。実はこの日の面談には、事前に「地主と内縁関係のマエノ(宮田)も来る」と伝えていたが、本人は姿を見せず、長谷川は「喧嘩をした」と苦しい言い訳を強いられた。
実際のところ、宮田は商談相手が大きくなっていくことに恐れをなし、数日前に「前周りから抜けたい」と自身の上司である橋田に訴え、これ以降は後方支援という形で関わることになっていったのだ。
積水ハウスほどの大手との面談になってもチームに一体感はなく、共有されたのは「大手は騙しやすい」という軽薄でアバウトな認識であり、そのなかで途中離脱するメンバーもいたわけだ。
しかも、面談の席で長谷川は現住所を直筆する際にミスを犯した。
〈 「名前を一文字でいいから変えて」地面師グループが「偽名」を使っていた理由は「積水ハウス側」にあった…《地面師55億詐欺事件》で見えた積水ハウス“驚きの社風” 〉へ続く
(河合 桃子/Webオリジナル(外部転載))