自民党の石破茂衆議院議員が2025年10月に首相の座から降りて1年近くになろうとしている。約1年という短命に終わった石破政権だが、現在も“保守本流”の政治家として現政権の在り方や国際情勢について物申す論客でもあり続けている中、「首相だった自分」をどう評価しているのだろうか。ジャーナリストの深月ユリア氏がシンポジウムで意見を交えた石破前首相の考えや思いを「肉声」としてリポートした。
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石破茂前首相が8月28日、都内で行われた筆者が代表を務める有志団体「命を守るシェルター協会」主催のシンポジウム「命を守る政治―危機の時代に問われる国家の責任―」に登壇した。首相経験者には生涯SP(警護官)が付くとされ、この日も数人のSPが同行した。4月に専修大学で開催した際のSPは十数人おり、その当時に比べると、今回はその少なさに驚かされたが、石破氏は首相就任前にはSPなしの1人で会場入りすることもあっただけに、やはり立場の変化を感じさせる光景でもあった。
冒頭、石破氏は「100年前に起きたことと、今起きていることは似ていませんか」と静かに問いかけた。第一次世界大戦、スペイン風邪、ロシア革命、大恐慌、そして第二次世界大戦へと続いた歴史を挙げ、「一つ一つ起こっていることを見ると、何か似ていませんか」と改めて指摘し、「いかにして人と命を大事にするような政治が行われるかということは、結局のところは国民一人一人の意識にかかっている」と強調した。
議論の中心となったのは、有事や災害時に避難する「シェルター」についてだ。石破氏はかねて、日本のシェルター整備の必要性を国会で訴え、首相在任中は防災庁の創設を主導した。「日本は地下鉄が充実しているから、地下鉄をシェルターにすればいい」という見解もあるが、石破氏は「地下鉄があればいいわけではない。トイレとキッチンとベッドがないとシェルターにならない」と説明し、「理念だけで言ったって駄目なんで、どれだけ予算をかけ、どれだけ法律を作るか」と現実的な制度設計の必要性を説いた。
会場が最も盛り上がったのは質疑応答だった。参加者から「総理大臣として100点満点なら何点ですか」と問われると、石破氏は「53点」と即答。「大学でABCDって(評価が)付くじゃないですか。40点以下だと単位が付かない。(自分の場合は)さすがに単位は取れるが、A・Bは付かないよね」と自虐を交えて自己採点し、会場は大きな笑いに包まれた。
さらに、一人の参加者が「テレビから悪い波長が出ている。テレビの電波は停止すべきではないですか」と質問。石破氏は苦笑し、場内は再び爆笑。それでも、石破氏はその“珍問”にも真摯(しんし)に対応し、「最近の政治は“ショート動画”だと思っていて、『1分で結論を言え』ということになりました。安全保障みたいな最も複雑な問題を1分でしゃべれますか?そうすると話はどんどん極端な方に振れていく」と問題提起した。
また、石破氏は「今はSPさんが付いているので、なかなか、電車にも乗れないんだけど、役職に就いていない時は地下鉄とかになるべく乗るようにしていました。(その時、感じたのは)本を読んでる人が1人もいませんでした。新聞を読んでる人もいません。みんなスマホの画面見てます」と電車で得た実感を明かした。
その上で、同氏は「アルゴリズム(※閲覧や検索の傾向に従って“見たいもの”だけが表示されること)で自分の気に入る情報ばかり集まるようになるから、テレビよりももっとSNSの方が、今おっしゃるような現象は加速しつつあるだろう」と指摘。「小学校、中学校はとにかく本読めということだと思う」と読書の重要性を訴えた。
終盤、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長が米トランプ政権の制裁対象となったことについて、筆者が質問した。石破氏は「日本は自国の主権においてICCに入り、日本人が所長を務めている」と前置きし、「ICCから脱退しろと言われるのなら、これを内政干渉と言わないで何だというお話だ」と明言。「日本国は日本国の決断としてこれをやっているものであって、そういうことは筋が違いませんか」と国家主権の立場から持論を述べた。
歴史、防災、情報社会、そして国際法。「命を守る政治」をテーマとし、約2時間に及んだシンポジウムには、石破氏の実直さとユーモアが随所ににじんでいた。
(ジャーナリスト・深月ユリア)