富士山の登山者が今夏、24万人超(環境省の速報値)に達し、山梨・静岡両県による登山規制導入前の水準を上回る見通しとなった。山頂直下の登山道では、ご来光目当ての登山者による混雑が続いており、登山者やガイドからは転倒事故や体調悪化などを危ぶむ声が相次ぐ。(小峰翔、木村誠)
8月16日午前3時頃。満天の星の下、富士山の登山道4ルート(山梨・吉田、静岡・須走、御殿場、富士宮)のうち、登山者が最も多い吉田ルート(8合目で須走ルートと合流)の9合目付近では、山頂を目指す登山者らが列をなしていた。手を伸ばせば触れられるほど間隔が詰まり、人が滞留する場所もあった。
東京都日野市の女性会社員(43)は、9合目辺りから背中に何度も衝撃を感じた。自身のリュックサックに後ろの人がぶつかったためで、「互いにバランスを崩し、転倒してしまうかもと怖かった」と漏らした。米フロリダ州から来た男性会社員(41)も「人々がドミノ倒しのようにならないか、不安だった」と振り返った。
9合目付近では、山梨、静岡両県が配置した5人の誘導員が「止まらずに前に続いて、スムーズに登ってください」「(足元が不安定な)ガレ場では落石を誘発したり、転倒したりする恐れがあります」などと登山者に声をかけ続けた。登山道を区切るロープを越えて先を急ごうとする男性は「戻ってください!」と注意された。
富士山の登山ガイドらでつくる「富士吉田市案内人組合」の組合長で、ガイド歴約50年の田代広久さん(70)は「規制導入後も、ご来光目当ての登山者が集中する日の出前は混雑しやすい」と話す。
国や山梨、静岡両県などによる「富士山世界文化遺産協議会」は、登山者の密度を4段階に区分し、登山者の間隔が30センチ未満となる「1平方メートル当たり1・25人以上」になると、前方の登山者が転倒した場合に巻き込まれる危険性がある「混雑」が生じるとしている。
山頂付近では今夏も土日祝日を中心に、同協議会の指標による「混雑」が発生したといい、田代さんは「転倒の危険性が増すだけでなく、無理に追い越そうと登山道を外れた人が落石を起こしたり、厳しい天候下に長時間さらされて体調を悪化させたりするリスクも高まる」と懸念する。
同組合は、1列でしか通れない狭い登山道を拡幅するよう山梨県に求めるが、自然公園法に基づく特別保護地区になっていることもあり、実現していない。
富士山の安全な登山方法などの協議に長年関わってきた東京大の山本清龍准教授(公園計画)は「富士山の混雑対策は数十年前から議論されてきたが、今も十分には解消できていない」と指摘した上で、「1日の上限を設けるだけでなく、日中の登山を推奨するなど分散化を図る必要もある」と話している。
日の出前 4割弱…人流データ調査
読売新聞は、位置情報調査会社「ロケーションエーアイ」(東京)の協力を得て、吉田ルート(8合目で須走ルートと合流)の9合目から山頂直下の登山道における時間帯別の登山状況について、スマートフォンの位置情報を基にした人流データから調べた。
1日の全人流に占める時間帯別の割合を算出した上で、山梨県による登山規制導入前3年間(2019、22、23年)と導入後3年間(24~26年)の各平均値を比較した。コロナ禍で閉山した2020年と登山者が例年の半分以下だった21年は除外した。
その結果、いずれも日の出(午前4時20分頃~5時10分頃)前の午前2~4時台が4割弱を占め、日の出前に集中する傾向に変化は見られなかった。
分析に用いた人流データは、個人が特定されないよう匿名化されている。