山下法相は29日午前の閣議後記者会見で、SNS上の誹謗(ひぼう)中傷に対する損害賠償請求額の引き上げなどに向け、民法改正の研究会を設置すると発表した。プライバシーを含む人格権の侵害が深刻化する中、被害者が勝訴しても慰謝料が低すぎるとの指摘が出ていた。悪質性を慰謝料に反映できるように整備する方向だ。
設置するのは、損害賠償の要件となる民法の「不法行為」見直しに関する研究会(座長・山本敬三早大教授)。民法の専門家や弁護士ら10人で構成し、30日に初会合を開く。研究会での議論を踏まえ、法相が法制審議会への諮問を判断する。
現行の民法では、損害賠償額の算出基準について明確な記載がなく、裁判官が判例に基づいて判断している。研究会では、被害内容や行為の悪質性などを賠償額の算定要素とし、どのように民法で明文化するかが論点となる。損害賠償は「被害の穴埋め」が原則だが、海外で導入されている損失を超える懲罰的損害賠償の仕組みを導入するかどうかも議題となる。
法務省が4月に公表した調査結果によると、SNSやネット上の名誉毀損(きそん)に関する損害賠償請求訴訟118件のうち、慰謝料の最高額は349万円で中央値は30万円だった。被害に比べて金額が低く、救済が不十分との声がある。
研究会は、死者の人格権保護も検討する。人格権は本人だけが持ち、死亡により消滅するとされている。死者の名誉を傷つけるSNS上の投稿などに対しては、遺族が持つ「(死者に対する)敬愛追慕(けいあいついぼ)の情」が侵害されたとして、損害賠償請求が可能だ。しかし、出版物などの差し止め請求に関しては十分な判例がなく、現状ではハードルが高い。
子どもの性被害に関する損害賠償請求権の消滅時効の見直しも取り上げる。民法上の時効は被害認知から最大5年。未成年者が事実を打ち明けられないまま、泣き寝入りするケースもあると指摘される。刑事訴訟法では18歳になってから刑罰の時効を起算していることから、民法でも18歳から起算することを検討する。
民法の不法行為に関して一連の見直しが実現すれば、1896年の制定以来の抜本改正となる。