〈 「遺体は血まみれ」「舌を切り取られていた」車の助手席から見つかった“21歳女性の遺体”女子大生モデルを襲った「前科9犯の男」(平成23年の事件) 〉から続く
整体院のモデル募集という嘘で21歳の女子大生を呼び出し、惨殺した元服役囚の男。前編では驚愕の自首劇と助手席に残された凄惨な遺体の真相を追ったが、なぜ男は死後に遺体をズタズタに切り刻んだのか。
その陰には、男の中に芽生えた「恐ろしい欲望」が存在していた。裁判で明かされたのは、性犯罪を繰り返してきた「前科9犯」の異質な素顔と、「被害者が両親に連絡してと言っているように見えた」という身勝手極まる弁明だった。
遺族が涙ながらに訴えるなか下された判決とは? なお、プライバシー保護のため、登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目)
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モデル事務所に片っ端から電話
最初は10代前半の女性を希望し、「整体院で身長が伸びる研究をしている。成長期の女の子の足を撮影したい」などという口実で電話をかけていたが、未成年者は保護者の立ち会いが必要になることが分かると、成人女性にターゲットを変えた。
西森は出版社に「モデル事務所を教えてほしい」と電話をかけたり、ネットでモデル事務所の連絡先を調べ、12社ぐらいに派遣を依頼したが、第三者の立ち会いを条件に出されると、「撮影の気が散る」「自分の技術を盗まれたくない」「施術室が狭い」などと言って頑なにそれを拒み、ようやく単独で出張してくれるところを見つけ出した。それがA子さんの在籍するモデル事務所だった。
「顔マッサージのメニュー表を作りたい。予算は2万~3万円。撮影は2時間ほどでいい。ビジュアルのいい若い女の子を頼む」
担当者はA子さんを含む4人のモデルをピックアップしてリストを送り、事件前日に西森から「A子さんでお願いしたい。午後2時に駅まで迎えに行く」という連絡を受けた。
依頼に不審な点はなく、撮影日や宣伝写真を示す「本番日」「コンポジ」などの専門用語も違和感なく使い、担当者は普段からモデルを扱う仕事に慣れた客だと思い、西森の企みに気付かなかった。
「少しでも声を出せば、首を切ります」
A子さんは事務所からその連絡を受け、メイクを済ませた上で時間通りに出張した。
「クライアントの西森社長ですね。今日はよろしくお願いします」
事件当日、西森とA子さんは駅で落ち合った。西森の企みも知らず、A子さんは疑うことなく、車に乗った。西森は車の中で「自宅でできる背骨矯正の方法がある」などと話して興味を引きつけ、A子さんに「サービスで教えますから」と言って喜ばせた。
自宅に着くと、「体を固定するから」と言って、A子さんを寝かせて後ろ手に縛った。「ちょっときついんですけど……」と戸惑うA子さんに対し、いきなりこんな紙片を見せたのだ。
〈今日のたった2時間、私の指示に従うだけで家に帰れますし、命の保証もします。少しでも声を出せば、首を切ります。2分で死にます〉
A子さんは悲鳴を上げてのけぞった。あまりにも暴れるので、西森はわいせつ行為どころではなくなり、「このままでは警察に通報されてしまう」と焦り、用意していたナイフをA子さんの首に突き刺した。
A子さんは首の動脈を切断され、大量の血が噴き出し、十数分で絶命した。西森はオロオロし、A子さんの遺体を車に乗せて、その場から逃げ去った。
遺体を切り裂いた理由
人気のない山道の入口に着くと、西森は精神安定剤をビールと共に流し込み、「どうせ死ぬんだから」とA子さんの衣服をナイフで切り裂いた。
A子さんの裸体を見ているうちに、「今度こそ自分の思い通りにしたい」という欲望が芽生え、ハサミで乳房を切り取った。
さらに唇や舌を切り取り、ナイフで腹部を切り裂き、下腹部を切り取った。西森は一人で悶絶し、征服感に酔いしれた。
それで気が済むと、切り取ったものを手元に残し、A子さんの遺体を山中に投げ捨てた。しかし、現場を離れた途端、「誰かに遺体を発見されるかもしれない」と不安になり、再び現場に戻って、遺体を引き上げた。あらためて彼女の遺体を助手席に乗せ、代わりに切り取ったものを投げ捨てた。
その直後、西森は自宅近くに住む母親にこんな電話をかけている。
「お袋、オレはもうダメだ……。自殺する。どこか遠いところへ行くよ」
母親は驚き、西森の妹にあたる娘に連絡し、「自宅を見に行ってほしい」と頼んだ。西森の妹が様子を見に行ったところ、大量の血痕を発見し、警察に届け出たのだ。
一方、西森はウロウロしただけで死に切れず、A子さんの所属事務所に本名や自宅住所を教えていたため、いずれ犯行はバレると考え、翌日未明に警察署に自首した。西森の身柄は管轄署に引き渡され、殺人容疑などで逮捕された。
「わいせつ目的ではなかった」
調べに対し、西森はわいせつ目的の犯行だったことを認めていたが、途中から調書への署名を拒否して、「わいせつ目的ではなかった」と供述を変遷させた。
「背骨を矯正してあげようとしたが、被害者に誤解されて騒がれたので、黙らせようと脅しでちらつかせたナイフでとっさに刺してしまった。
遺体を傷つけたのは、薬とビールで気が大きくなっていたから。死ぬのは怖くなかったが、彼女の遺体を見ているうちに『お父さんとお母さんに早く連絡して欲しい』と言っているように見えて、それができるのは自分しかいないと思い直し、警察署に自首することにした」
前科9犯だった男のその後
西森は23歳の初犯以降、のぞき目的の住居侵入、下半身を露出した公然わいせつ、女性を縛っての強制わいせつ、客室乗務員の制服の窃盗、児童を裸にさせて撮影した児童ポルノ製造など、性犯罪だけで前科9犯。7度目の服役を終えた8カ月後、今回の事件を起こしたという札付きだった。
検察側は「撮影を偽装したわいせつ目的であったことは明らか。『メニュー表の作成』と言いながら、ビデオカメラしか用意していない。邪悪な性的欲求から、幸せな家族を一瞬にして悲しみのどん底に突き落とした。根深い歪んだ性癖に基づく、卑劣で残忍で非人道的な犯行だ」と糾弾し、無期懲役を求刑した。
A子さんの遺族は、公判中に何度も泣きながら退廷し、「死刑にならずに出てきたら、今度の標的は皆さんや家族、恋人、友達かもしれません。一生、刑務所から出さないでください」と訴えたが、最後まで「自首」したことが有利に働いて、西森は懲役27年を言い渡された。
「押収された紙片などから、わいせつ目的だったことは優に認められる。わいせつ行為が未遂だったとはいえ、計画的で卑劣な犯行だ。何の落ち度もない被害者の命が奪われた結果は極めて重大である。しかし、刺したのは1回だけで、残虐とまでは言えず、自首している上、公判でも殺人を認めていることに照らせば、無期懲役刑は重いと言わざるを得ず、有期刑を選択するのが相当である」
納得できない遺族は控訴を求めて署名活動したが、検察側は「より重い判決を得るだけの立証は困難」として控訴しないと発表した。
これを受けて、西森は控訴期限ギリギリに弁護士にも相談せず、自ら控訴を申し立てたが、18日後には控訴を取り下げて判決が確定した。取り下げた理由は不明である。
遺族がモデル事務所を提訴
その後、遺族はモデル事務所を相手取り、安全確保を怠ったために事件に巻き込まれたとして、1億円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
事務所側は「モデルは個人事業主であり、事務所の仕事は依頼者との仲介役にすぎない」と反論した。
だが、遺族の鋭い追及には背中を丸めるばかりだった。
遺族「二度と同じことが起きない対策を取ったと、胸を張って言えますか?」
社長「危険はなくなったと考えるが、胸を張って言えるかは正直、分からないとしか言えません」
遺族「他人事だと考えていませんか?」
社長「これまでも犯罪は起きておらず、危険だとの認識はなかった」
事件はその後…
遺族にとって追い風になったのは厚生労働省の労働保険審査会が、今回の事件を「労災」と認める裁決を下したことだ。これで地元の労働基準監督署が下した遺族補償などの不支給決定が取り消された。
審査会は「契約書には正当な理由なく出演は拒否できないと明記されている」として、「事務所の一方的な指示の下、A子さんには業務の諾否の自由がなかった」と指摘した。
さらにA子さんが事務所の指示でパーティー会場の受付やテレビ番組の聴衆役、競艇のラウンドガールなど、本来のモデル業務以外の仕事もこなしていたことを重視。「事務所との間に使用従属性があった」として、労働者と認定した。
結局、訴訟は和解が成立した。和解条項は事務所側が謝罪し、再発防止のため所属モデルの安全確保に取り組むことが明記され、遺族が強く望んでいた内容が反映された。和解金額は明らかにされていない。
事務所側は「弊社のマネジメント案件において、このような痛ましい事件が発生したことを心よりお詫び申し上げます。モデルの安全確保には万全を期し、全社を挙げて再発防止に努めます」とコメントした。
(諸岡 宏樹)