【困惑】なぜ住宅地のすぐそばに?急増する巨大データセンター、AI需要の裏で起きている地域住民の葛藤と共生への模索

スマートフォンやAIの普及により、膨大な情報処理を担う「データセンター」が生活に不可欠となっています。しかし近年、住宅地近くでの建設計画に周辺住民から困惑の声が上がっています。なぜ生活圏のすぐそばに建設されるのでしょうか。(読売テレビ 報道局:河越 幸平)※年齢・内容などは取材当時のものです。
大阪府北部に位置する箕面市。緑豊かな住宅街の上空から見下ろすと、阪神甲子園球場の約3.5個分に相当する広大な空き地が広がっています。実はこの場所に、2棟の巨大なデータセンターが建設される予定となっています。
間谷地区で暮らす久乗さんは、良好な環境に惹かれて約40年前に隣接する大阪大学箕面キャンパス(2021年に移転)のそばへ移り住みました。しかし…
(間谷地区在住・久乗さん)
「せっかく環境がいいから引っ越してきたのに、こういう建物(データセンター)が建ってしまう。失望というか、裏切られたような(気持ち)。箕面市に…できれば転居したい。でももうこの年ですしね。それも無理かな…」
住民たちの不安は、白い壁に囲まれた高さ約31メートルの巨大なデータセンターが建設されるということです。読売テレビが独自に入手した資料によれば、大学キャンパス跡地の約10万平方メートルがその建設予定地となっています。住宅街のすぐ近くに、巨大な壁がそびえ立つような圧迫感や身体などへの影響を近隣住民は懸念しています。
「データセンター」とは、生成AIなどの複雑な情報処理を行うための施設です。私たちが日常的に使うパソコンやスマートフォンは、動画視聴や検索などの処理を端末内だけで完結させているわけではなく、世界中に点在するデータセンターを経由して機能しています。生活が便利になる一方で、施設の周辺では困惑の声が広がっています。
すでに京都府精華町では、大型のデータセンターが稼働しています。建物の周囲には、電力を供給する設備やサーバーを冷却するための装置が並んでいます。3年前に撮影された映像には、非常用発電機の試験運転時に黒々とした煙が立ち上る様子が記録されていました。現在は点検時に防音壁を設置するなどの対策が取られているとのことですが、近隣住民からは不安の声も漏れています。
(近隣住民)
「音の問題が出るのかわからないですけど煙が出たりするのはあまりよくない」
(隣町の住民)
「環境的にどうなのかなって。ちょっと気にはなっています」
実は大阪・梅田にも窓がほとんどない無機質な外観が特徴的なデータセンターが存在します。総務省のデータによれば、25年11月の時点で全国に242棟のデータセンターが存在し、その約9割が東京や大阪の周辺に集中しています。
データセンターの内部はどうなっているのか。今回、大阪府堺市の工業地帯にある通信大手KDDIの「大阪堺データセンター」を訪ねました。今年1月、シャープの液晶パネル工場跡地に新設された施設です。その内部、薄暗い空間の先に広がっていたのは、データセンターの心臓部ともいえるサーバー群です。阪神甲子園球場1.5個分の敷地に、AIの学習に不可欠なサーバーがずらりと並びます。
(KDDI・稲葉浩行センター長)
「サーバーの中にはGPUと呼ばれる、AIの頭脳部分が入っています。このサーバーの処理能力は80億人の人間が5年半かけて計算するものをこのサーバー1台で1秒間で終えることができます」
企業や研究機関は、AIに大量のデータを読み込ませて高度な学習や推論を行わせています。こうした複雑な計算処理には莫大な電力が必要で、最大で一般家庭 約1万2000世帯分の電力を消費します。
更に必要なのは電力だけではありません。熱を持ったサーバーを冷やすために“大量の水”が使われており、施設内には水を通す管が張り巡らされています。その管をたどった先、屋上には巨大な“冷却塔”が設置されていました。
(稲葉センター長)
「中央にあるのが冷却塔です。気化熱を使って(温度を)下げた水をさらに下のデータサーバーに持って行きます。これくらいのボリューム(ファンの音)はしますが、音の漏れがないようにボードを立てたりとか、遮音の設備で対策をします。われわれとしては、そこまで周辺の方に大きな迷惑をかける音量ではないと思っています」
この施設は稼働開始から半年以上が経過していますが、これまでに周辺からの苦情は寄せられていないといいます。
騒音や環境への影響を考慮するのであれば、郊外に建設すればよいのではないかと思われますが、専門家は都市部の近くにデータセンターが必要な理由を次のように解説します。
(大阪大学・下西英之教授)
「都市から遠いところにデータセンターを作っちゃうと、(データの)往復に時間がかかります。“自動運転”や“ロボット”などデータ遅延があるとリスクが伴うものにとっては、やはりそのデータセンターを都市の近くに作らないと危ないとか、いろんな弊害が出てくる」
一方で、住宅地に隣接する大阪大学箕面キャンパスの跡地で進む建設計画については、住民側も対応を求めています。データセンターに関する勉強会を主催するなど活動を行ってきた間谷自治会の植澤会長は、市に対して明確な説明を求めています。
(間谷自治会・植澤自治会長)
「箕面市として、音の問題、騒音の問題、低周波の問題、またビル風の問題(などが起きないこと)をしっかり科学的根拠をもって提示してもらいたい。『安心してください』という言葉をぜひいただきたい」
自治会は、まちづくりを主導する箕面市に対し、住民の意見を真摯に聞き、十分な説明責任を果たすよう要望しています。上申書を受け取った箕面市の担当者は次のように述べています。
(箕面市役所財産活用課・西山央課長)
「『データセンターがどういうものかわからない』というのがベースにあるので、事業者には再度の説明、可能な限り詳しく(住民へ)説明するように指導している」
(建設する事業者「ESR」)
「箕面市および関係機関と連携しながら、地域住民と適切な情報共有を行っていきます。インターナショナルスクールのほか地域貢献施設を建設することなどを通じて地域コミュニティに持続的な利益をもたらすことを目指しています」
箕面市によれば、跡地利用の公募に参加した5つの事業者は、すべてデータセンターの建設を提案したといいます。市が事業者と結ぶ定期借地契約の期間は70年におよび、その間に752億円以上の収入が見込まれています。
なぜ住宅地のすぐそばにデータセンターを建設することが法的に可能なのでしょうか。
実は、建築基準法において『データセンター』という用途は明確に定義されていません。そのため、「事務所」などの扱いで申請することが可能となっています。「工場」として扱う場合と比べて建設可能なエリアが広がり、結果として住宅地の近くにも建てることができるのです。この現状について、都市計画の専門家は警鐘を鳴らします。
(京都大学・大庭哲治教授)
「法律が現状に合っていないがために問題が色々と起きている。社会的な需要、地域の需要を確保しながら、しっかりルール化や明示化をすることが日本において重要で大切なこと」
データセンターと地域社会はどのように共生していくべきなのでしょうか。そのヒントを探るため、香川県綾川町を訪ねました。豊かな自然と田畑が広がるこの町であるユニークな取り組みが行われています。
中学校の敷地内に残る旧体育館の建物。この中に、AIを稼働させるためのサーバーが設置されています。廃校の内部にサーバーを置き、AIや機械学習に不可欠な環境を提供しているのです。香川県は先端技術を持つ企業を積極的に誘致し、地元の若者が定着して働ける環境の整備に注力しています。
かつて理科室だったという部屋には、黒板や備品棚が当時のまま残されていました。ここで働く職員は6人と決して多くはありませんが、確実に地元での雇用を生み出しています。
この廃校を管理する企業は、施設が地域に受け入れられるよう、地元住民を対象としたプログラミング教室などの講座を定期的に開催しています。
(ハイレゾ・小堀敦史執行役員)
「住民の方々と仲良くしているような企業じゃないと、そういったサービスを普及していく上でも障害になってしまう可能性があるので、地域と一体化して進めていく必要がある」
地元の住民たちは、この新しい施設をどのように受け止めているのでしょうか。
(近隣住民)
「まだ事業内容を理解していない人の方が多い、浸透していないのが現状」
(近隣住民)
「孫はそれ(AIの利用)が当たり前の状況。時流やから受け止める方向でしかない」
(京都大学・大庭哲治教授)
「ポイントは『何のためにデータセンターが必要なのか』で、自治体の中には産業誘致で“データセンター来てください”というところもありますが、目的意識が整理されていないまま、立地誘導をしていたり、手をあげたりしている事はある意味で怖い」
AIの需要拡大などを背景に、全国で急増するデータセンター。自治体にとって財政の強化や産業の振興は重要ですが、それが一部の住民の生活環境に過度な負担を強いる理由にはなりません。時代に即した新たなルール作りが急務となっています。
(読売テレビ「かんさい情報ネット ten.」2026年9月8日放送)