「消防隊への誹謗中傷が凄くて…」八潮市の道路陥没事故から1年9カ月「エアコン60台以上が故障」「家が傾き住めなくなった人も」被害者の会代表が語る住民の苦悩

昨年1月、埼玉県八潮市で県道が陥没し、走行中のトラックが転落して運転手の男性(当時74)が亡くなった事故からおよそ1年9カ月。現場周辺の住民たちは、事故後に漏れ出した硫化水素による悪臭や金属製品の腐食、復旧工事に伴う騒音や振動など、さまざまな問題に悩まされてきた。こうした住民の声を行政に届けようと、昨年12月には被害者の会「虹の架け橋」が発足した。代表の木下史江さんが、事故後の被害の実態や活動への思いを語った。
【画像】道路陥没から1年9か月、現場の“今”と当時
消防隊員らへの誹謗中傷も…消防の格好で近隣を歩けなかった隊員
2025年1月28日午前9時50分ごろ、埼玉県八潮市の6差路の交差点中央部が突如として陥没した。長さ約8メートル、幅約4メートル、深さ5メートルの穴が開き、走行中のトラック1台が転落。救助活動は難航し、事故からおよそ3カ月後の5月2日、運転手の男性が下水道管内から発見され、死亡が確認された。
今年7月には、男性の遺族が県に対して慰謝料など約1億2500万円の損害賠償を求めて提訴している。
「虹の架け橋」の代表を務める木下さんは、当時の状況を振り返る。
「当時、ご遺族の方たちは救出作業の現場にいらしていましたが、本当に不安な日々を過ごしていたと思います。また、運転手の男性も意識がありながら救出を待つというのはどんなに怖かったのだろうと思いますし、ご遺族にとって納得のいく形になってほしいと心から思います」
事故当初、難航する救助活動に対しては批判も相次いだ。地元の草加八潮消防局が出動して救助にあたったが、穴の中で土砂崩落に巻き込まれ、隊員2人が負傷。建設用クレーンでトラックをつり上げようとした際には、途中でワイヤーが切れるなどのトラブルもあった。
こうした救助活動を巡っては、消防隊員らへの誹謗中傷も起きていたという。
「消防関係の方とは地元で話す機会も多いのですが、事故後、当時の隊長は『自分の大切な部下を怪我させてしまったし、運転手さんも助けることができなかった』と心から悔やんでいました。
誹謗中傷がすごくて、隊員たちも消防の格好で近隣を『歩けない』と言っていました。私たち住民は現場で必死に作業する消防の方を見ていましたし、あの時、誰に正解がわかったのか、と誹謗中傷については複雑な思いでした」
「家が傾いて住めなくなってしまった人もいました」
事故は、現場周辺で暮らす住民たちの生活も大きく変えた。悪臭や工事の騒音、住宅や家電製品への影響など、問題は長期にわたり、個人で行政に相談するだけでは対応に限界があった。
そこで昨年12月、住民の声を集め、行政に継続的に届けるために発足したのが「虹の架け橋」だ。住民へのアンケート調査などを通じて被害状況を記録し、復旧工事に伴う問題への対応を求めるとともに、同じような事故を繰り返さないために経験を伝えていくことも活動の目的としている。
「事故発生から近隣住民の方たちに定期的にアンケート調査を行うなどしてきました。その中であがってきたひとつに、復旧作業による騒音と振動がありました。私も地震で揺れているのかと思ってネットで調べたことがあるほど揺れていました。結果、家の壁に亀裂が入ったり、家が傾いて住めなくなってしまった人もいました」
騒音や振動に加え、住民を苦しめたのが、下水道管の破損によって漏れ出した硫化水素などによる悪臭だった。家の中にいても臭いが漂い、逃げ場のない状況が続いたという。
「下水の臭いというか、腐った卵のような臭いというか、本当に臭いから逃げ場のないような状況が続きました。今は当時からするともう臭いはないに等しいですが、当時は頭痛であったり吐き気をもよおす人も多くいました。私自身も外で15分くらい話をしていると喉が痛くなるということもありました。
洗濯物についても外に干せないので中に干していましたが、臭いが家中に充満しているので、洗濯物もその臭いになります。臭いには本当に多くの人が苦しめられました。今年に入って下水管に完全に蓋がされたので臭いもしなくなりましたし、硫化水素ももう出ていないのではないかと思っています」
「嫌なことを忘れるというのはいいことですが…」
地域では、車の部品や台所の金属部分などが黒く変色する現象も相次いだ。硫化水素による腐食が疑われる中、「虹の架け橋」が行なったアンケート調査では、近隣で60台以上のエアコンが同じ時期に故障していたこともわかったという。
「エアコンの基板の部分や外の配線が錆びてしまい、エアコンがきかなくなったり、動かなくなったりしていました。エアコンについては、個別では腐食が原因だとわからなかった可能性もありました。
だから私たちは自分で調べて、何件のエアコンが同時期に壊れているという情報をまとめたんです。それが証拠になるだろうと。最終的にはエアコンを使用している年数に応じて、県の方で負担額を決めて補償するという形になりました」
一軒の家でエアコンが故障しただけでは、事故との関連を疑うことは難しい。しかし、周辺の住宅で同じような故障が相次いでいることがわかれば、被害の全体像も見えてくる。住民たちが自ら情報を集め、行政との補償交渉につなげてきたという。
事故原因については、県が管理する下水道管が硫化水素によって腐食し、破損したことが陥没につながったと推測されると結論づけられている。下水道管の老朽化や腐食は八潮市だけの問題ではなく、全国各地で起こりうるものだ。
事故からおよそ1年9カ月。復旧工事は今も続いている。木下さんは、これまでの活動を振り返り、最後にこう語った。
「見えないものとの戦いっていうんですかね。硫化水素も目には見えないものですし、次々と金属が腐食していくなど、これまで見たことがないことでした。どこまで影響があり、いつまで続くのか、見えない不安もたくさんありました。
嫌なことを忘れるというのは、それはいいことですし、そうしなきゃいけない部分もあります。でも、私たちは事故を通して私たちしかわからない経験をし、その記録を今しています。二度とこうした事故が起こらないように生かしていきたい、そう思っています」
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班