高市政権1年<2>
10月8日の自民党参院議員総会は、不穏な空気に包まれた。
「なぜ解任したのか。何か瑕疵(かし)があったのか」
9月の参院執行部人事で参院幹事長だった石井準一(68)が交代したことについて、石井に近い西田昌司(68)が問題視し、執行部に回答を迫った。「そうだ」と同調する声も上がった。参院議員会長の松山政司(67)は表情を変えず、「人事に関する個別具体的なことは申し上げられない。総合的に判断した」と応じるにとどめた。
参院執行部の人事権を握る松山にとり、石井の交代は覚悟を持った政治決断だった。
松山が行動を起こしたのは、自民の執行部人事を翌日に控えた9月15日の昼過ぎだ。党本部の会長室に石井を呼び、「参院幹事長に再任はしません」と通告した。過去に体調不良による党日程のキャンセルがあったことを念頭に、松山は、石井の体調を考慮したと説明した。続投に意欲を持っていた石井は「体調は自分が一番わかる。あなたに判断される必要はない」と憤慨し、5分で席を立った。
党内に衝撃を与えた交代劇を、松山の独断だと見る向きは少ない。松山は首相官邸の関与を否定し、首相の高市早苗(65)は「人事権は私にはなく、参院議員会長が決めた」と強調したが、額面通りに受け取る議員はいなかった。高市が石井に強い不信感を抱いていることは周知の事実だったためだ。
石井への通告後には、「松山が『再任は首相官邸の了解が取れない』と口にした」との情報が駆け巡り、そうした見方をいっそう強めた。
参院執行部人事は、参院自民の会則で参院議員会長が推薦し、特別総会の承認を得て決定すると定められている。それゆえ、自民総裁である首相も介入できない「聖域」とされてきたが、会則に不満を示したこともあった高市がそのしきたりを覆したとみなされた。
高市と石井に溝を生じさせたのは、先の特別国会での2026年度予算の審議だ。予算の審議入りは、2月の衆院選のため、ずれ込んだ。それでも高市は年度内成立にこだわった。審議時間は大幅に圧縮されたものの、少数与党の参院の壁にぶつかり、成立したのは4月7日だった。
高市は「できると言ったじゃない」といら立ちをあらわにし、矛先を野党との日程交渉を取り仕切ってきた石井に向けた。
間を置かずに、石井が参院に独自のグループを設立したことも、高市の疑心暗鬼に拍車をかけた。高市は、野党との協調を重視する石井の手法を、「癒着」とみなすようになった。
石井の後任には、首相官邸と関係が良好な青木一彦(65)が選ばれた。青木の父は、官房長官や参院議員会長を務めて「参院のドン」と呼ばれた青木幹雄だ。石井が、幹雄を政治家の手本としてきたという縁があることも、青木が事態収拾に適任だとの期待につながった。
石井の交代は高市を満足させる効果はあったが、国会運営の荒波は収まっていない。与党が過半数に4議席足りない参院では、衆院と異なり、わずか数票が法案の行方を左右する。新執行部は、野党や無所属議員とパイプを持つ石井の動向を警戒せざるを得なくなっている。
石井は側近議員には「新執行部がどこまでできるか。邪魔はしないが協力もしない」と伝えている。10月9日、かつてはともに参院の旧茂木派に属した青木から電話を受けても、「これまでの付き合いは白紙にします」と突き放した。
少数与党ゆえに動きが制約される参院自民に、首相官邸への「従順さ」(政府高官)を求める高市の手法には限界もちらつく。重責を担う青木は最近、こうこぼすようになった。「少数与党の大変さを首相官邸に理解してもらわないといけない」(敬称略)