高市早苗首相が就任して1年。新聞各紙が検証記事を展開している。産経新聞は「手堅い人事」「柔軟に政策実現」と1面トップで評価。一方、毎日新聞は社説で「独善の限界が見えてきた」と論じた。同じ1年間でも、ずいぶん見え方が違う。
G7のオンライン首脳会議を欠席した理由を問われると…
では、ここでは、1年間で印象に残った高市氏の「言葉」に注目してみよう。そこから見えてくる高市論もあるはずだ。
まず最近だと「業者が間に合わなかった」。
10月2日、高市首相はG7(主要7カ国)のオンライン首脳会議を欠席した。国会で理由を問われると、開催時間が直前までわからず、通信回線の接続・設定を依頼する業者の手配が間に合わなかったと説明した。
しかし、不思議なことがある。首相は今年3月、同じ公邸からG7のオンライン会議に出席していた。8月には自身のXで、オンライン会議の設備が整っていると紹介していた。それなのに、なぜ今回は参加できなかったのか。業者の手配が原因なら、官邸の危機管理体制が問われることになる。
そもそも首相の説明には、いろいろな事情が登場する。開催時間が直前までわからなかった。回線の準備が間に合わなかった。代理出席でもよいとされた。
この感じ、どこかで見たことがある。
首相就任直前の「奈良のシカ」発言だ。
昨年の自民党総裁選で、高市氏は奈良のシカを蹴る外国人がいると訴えた。根拠を問われるとSNSで広がる「不安感」や「怒り」を持ち出した。ところが首相就任後の国会では、自分もシカを蹴る人物を注意した経験があると語った。外国人の話だったはずが、最後は自分の体験談になっていた。肝心の根拠はどうなったのだろう。
思えば、首相就任前にも似たようなことがあった。2023年、放送法をめぐる総務省の行政文書について、高市氏は自身に関する記述を「捏造」と断じた。国会では野党議員に「もう質問しないでほしい」とまで発言し、後に撤回した。
強い言葉を発した後、その説明や対応が新たな問題を呼ぶ。今回が初めてというわけではないのだ。
言葉といえば、簗和生農相を「本当にダサい」と評したのも印象的だった。
道路予算削減発言などで批判を浴びた簗氏を続投させ、結局は更迭した高市首相。自民党重鎮には「長引かせてダサいのは誰なのか」と皮肉を言われている(琉球新報・10月15日)。強い言葉が自分に返ってきた格好だ。
「化粧に時間がかかる」発言も…
閣僚への言葉では、もう一つ「私に恥をかかせるな」も忘れられない。
今年2月、高市首相は国会で、米国との関税交渉を担当する赤沢亮正経済産業相にそう伝えたと明かした。トランプ大統領との首脳会談を控え、「私がトランプ氏と堂々と渡り合えるように働くのが赤沢氏の仕事だ」とも述べた。
国会答弁でも軽口で場をにぎわせたいのだろうか。しかし、そうした隙に本質が見えることもある。最近の「化粧に時間がかかる」発言もそうだ。
10月14日の衆院予算委員会で、首相の国会出席のあり方を問われた高市氏は、男性首相より朝の入浴、朝食の支度と後片付け、化粧などに「3~4時間余分に時間を使っているかもしれない」と語った。問われていたのは首相の生活時間ではなく、国会改革という制度の話だったはずだ。いつの間にか個人の事情に話が移っていた。
次の言葉は「悲願」である。
高市首相は食料品の消費税減税を「私自身の悲願」と語った。ところが今年2月、公式サイトから約1000本の過去のコラムが削除された。直前にはプレジデントオンラインが過去のコラムを調べ、「消費税減税は悲願」という発言を裏付ける記述が見当たらないと報じていた。事務所はサイトの見直しと説明している。
過去の言葉が消えた一方で、選挙中にはこんな言葉も発信していた。
「逃げません」である。
高市首相は今年2月の衆院選で、自民党の公式YouTubeを通じてそう訴えた。ところが選挙中、NHK「日曜討論」を欠席した。首相は持病の関節リウマチによる手の痛みを理由に挙げたが、週刊文春は2日前から欠席の調整が進んでいたとの証言を報じた。問われていたのは病気そのものではなく、欠席に至る経緯の説明だった。
一方、読売新聞によると、欠席した2月1日は選挙期間中で首相のXのフォロワーが最も増えた日だった。同情や擁護も広がったという。
公の場での説明には疑問が残る一方、SNSでは支持が集まる。高市首相にとって、これは一つの「成功体験」になったのではないか。そう考えると、その後のSNS重視の姿勢も理解できる。5月には内閣広報室が首相の動向を発信するXアカウントを試行開設。6月からは佐伯耕三内閣広報官の名前を前面に出し、報道への反論も含めて発信を続けている。なるほど、「SNS固め」に力が入るわけである。
内閣広報室は来年度予算に72億円を要求
東京新聞は、国会審議や記者会見など双方向のやりとりには後ろ向きだと批判される首相について、SNSなら「自身に都合の良い話題を一方向で発信でき、都合の悪い話題は避けられる」と指摘した(10月16日)。
ちなみに内閣広報室は来年度予算に今年度の約10倍となる72億円を要求。うち約59億円を政策アピール動画などに充てる計画だという。使うのは税金である。
さて、国内ではSNSを通じて自分の言葉を思い通りに発信できても、外交では発した言葉が相手国との関係を左右する。最後に紹介するのは、昨年11月の台湾有事答弁である。
日経新聞は「『戦略的あいまい』貫けず」と報じた。歴代の首相があえて曖昧にしてきた一線を越える答弁によって、日中関係は悪化した。しかし注目したいのは、国内では「質問したほうが悪い」と擁護する声が広がったことだ。質問は、首相就任前の持論を確認するものだった。政府の事前資料も、具体的な答弁を避ける方針だったという。
首相は後に、従来の政府の立場を超えたと「受け止められたこと」を反省点に挙げた。質問した側が悪い。受け止めた側が悪い。そういえば、G7欠席の説明でも業者の手配が間に合わなかったという話が出てきた。本人の説明にも、支持者の擁護にも「他責」がにじむ。
それでも、高市首相のはっきりした物言いは支持される。しかし、言葉が強いことと、説明に筋が通っていることは別だ。
さらに注目はそのあとだ。強い言葉を発するたび、説明や対応が新たな問題を呼んできた。
言葉を追っていたら、結局は政治姿勢の話になった。やはり神は細部に宿るのか。
(プチ鹿島)