「書道」勧告、墨や筆の産地も喜びの声「もっと身近に」「絶好機」ユネスコ無形文化遺産へ

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関が、筆や墨を用いた日本人の手書きの文字表現「書道」を無形文化遺産に登録するよう勧告し、国内の書道ゆかりの地から喜びの声が上がった。
「日本の文化を見つめ直すきっかけとなれば。生活に根付いた書をもっと身近に感じてもらいたい」
登録に向けてそう期待を寄せるのは、奈良製墨組合の理事長で文化2(1805)年創業の「墨運堂」の松井昭光社長(55)。
書道で使われる固形墨の国内シェア9割以上を占めるのが「奈良墨」。その歴史は古く、室町時代に興福寺(奈良市)で油を燃やして出るすすと膠(にかわ)を合わせた「油煙墨(ゆえんぼく)」を作ったのが始まりとされる。色や艶、すり心地に優れ、広く知られるように。社寺が多い奈良では写経などで墨を使う機会が多く、産地としての発展につながった。
平成30年には国の伝統的工芸品に指定され、現在は奈良市の企業などが奈良墨を生産。全国の書道家や水墨画家が愛用するほか、書道教室でも使われている。
原材料の高騰や製造に携わる職人の不足といった課題を抱える中で届いた吉報。松井社長は「書き手とともに、支えてきたわれわれにも日が当たり、書に携わる者として互いに前に進んでいけたらありがたい」と話した。
一方、「熊野筆」の産地で、全国一の筆の生産量を誇る「筆の都」として知られる広島県熊野町でも、勧告に歓迎ムードが広がった。
熊野筆の製造・販売を手掛ける事業者らで構成する熊野筆事業協同組合の竹森臣理事長(69)は「書道に毛筆は欠かせない存在。改めて良さを認識してもらえる絶好機だ」と声を弾ませた。熊野筆には、化粧筆などのジャンルもあり、海外需要も伸びつつある。竹森理事長は「(勧告は)熊野筆への追い風。良い循環に大いに期待したい」と話した。
熊野町の筆作りは江戸時代末期、農閑期に近畿地方へ出稼ぎした農民が、奈良などで仕入れた筆や墨を帰りに行商したのがきっかけで始まったと伝わる。熊野筆は国の伝統的工芸品で昨年、指定から50年の節目を迎えた。
老舗筆工房「實森(さねもり)誠実堂」(同町)の4代目で、伝統工芸士の實森将城(まさき)さん(52)は「一つ一つ心を込めて作っていくことに変わりはないが、毛筆産業が活気付き、作り手としても励みになる」と歓迎。「少子化やデジタル化で『書道離れ』が進むが、少しでも見直されるきっかけになれば」と業界の未来を見据えた。(木村郁子、矢田幸己)