「非国民」「刺されろ」五輪選手や芸能人を襲うSNS誹謗中傷 「暇つぶし」の加害者も…スポーツ・芸能界の対策現場【報道特集】

深刻化するSNSの誹謗中傷問題です。表舞台で活躍するアスリートや芸能人は、常にそのリスクに晒されています。誹謗中傷をなくすために、スポーツ界や芸能界で始まった新たな取り組みの現場を取材しました。
選手への誹謗中傷 「非国民だ」と人格否定も
レスリングの文田健一郎選手(30)。これまでSNS上で度々、誹謗中傷を受けてきた。
2年前のパリオリンピック。文田選手は金メダルを獲得したが、このときの投稿には…
レスリング 文田健一郎 選手 「金メダル撮ってSNSに上げたら『調子乗ってるだろう』『わざわざ見せなくても』みたいな。全体数で言ったらすごく少ないんですけど、(心に)残りやすい」
その前の東京オリンピックでは決勝で敗れ、銀メダルに終わった。
コロナ禍で開催されたオリンピックということもあり、この時期は特に激しい誹謗中傷を受けたという。
レスリング 文田健一郎 選手 「あの時は開催されることが100%正解とは言えなかった。(出場)辞退しなきゃ『非国民だ』と人格否定。あとは『国から助成してもらってたんだろ』みたいな」
アジア大会ではAIを使いSNS監視も…
オリンピックなど、注目を浴びる大会では誹謗中傷も深刻化しやすい。
今回のアジア大会では、JOC=日本オリンピック委員会がAIも使ってSNSを監視していた。
女性スタッフ 「嫌なコメント?」
男性スタッフ 「コメントが消えているか、まだ細かく見られてなくて、1個1個クリックして、リンクがまだ使えるかどうかを見ていかないと」
AIが検知した28万件以上の投稿を人の目でチェックしていく。
名誉毀損や差別、侮辱のほか、性的ハラスメントといった誹謗中傷を確認し、858件の削除要請を行ったという。
【実際の投稿内容】 「恥さらし」 「こんなひどい選手がなぜ生きているのか?」
2月のミラノ・コルティナオリンピックでは約1900件の削除要請を行ったが、削除されたのは3割にとどまった。
JOC・JPC誹謗中傷対策担当 千田美沙さん 「すでに投稿されたものに対する対処しかできない。いかにそういった投稿自体を減らしていくかということが重要」
2026年3月、文田選手は新たなプロジェクトに参加していた。指導者や大学教授、弁護士などと誹謗中傷対策を呼びかける「RESPECTion!」。
青山学院大学駅伝部 原晋 監督 「(学生が)誹謗中傷を受けたときに『こんなネガティブなメッセージをもらった』というふうに、日常会話としてある。そういったメッセージが世の中に出回っている」
誹謗中傷が競技に与える影響は…
レスリング 文田健一郎 選手 「素直に競技に向かい合えていたのが、マイナスの意見とか誹謗中傷のようなものを受けると、それを自分の中で噛み砕いて大会に向き合うという余計な頑張りが絶対入ってしまうので、(競技に)すごく影響はある」
難しい投稿者の特定に「法整備」訴え
誹謗中傷に対抗する上で、大きな課題になるのは、匿名の投稿者を特定する難しさだ。
被害者は裁判所に申し立て、SNS事業者に発信者情報の開示を請求する。
だが、裁判所が情報を提供するよう命令を出しても事業者が応じないケースも。提供命令には原則、強制力がなく、泣き寝入りする被害者も多い。
この日、「RESPECTion!」のメンバーと文田選手が訪ねたのは…
レスリング 文田健一郎 選手 「独特の緊張感というか、駅を出てより感じた」
自民党本部で行われた誹謗中傷対策に関する会合。リスクにさらされる中、被害者自ら声を上げ、法整備を求めざるを得ない状況にある。
レスリング 樋口黎 選手 「開示請求だったり、何かアクションを起こすにしても、時間的にも費用的にもかかりすぎる。法律だったり、なんとか整備してもらいたい」
レスリング 文田健一郎 選手 「社会全体で『誹謗中傷はおかしい』というのを、しっかり根付かせていきたい」
被害者から相談を受ける高橋駿弁護士。誹謗中傷が無数に押し寄せ、もはや反論すらできない状況だと指摘する。
高橋駿 弁護士 「今の誤情報の流通の仕方を考えると、表に出ていたとしてもうまく反論できるかというと、そういう状況じゃない。表に出る人がいなくなるので、この晒し上げの世界が進んでいくと。かなり由々しき事態」
「バレーボールをやめたいと…」性的中傷も
元選手の立場から対策を呼びかける人がいる。2025年、現役を引退したバレーボール元全日本代表の大竹里歩さん(32)。
バレーボール元全日本女子 大竹里歩さん 「19歳かな。日本代表で初めて国際試合全部に出させてもらったとき。父が有名なオリンピック選手だった。全日本に選ばれたりというのは『注目度があるからだけ』と言われた」
父親もバレーボール元全日本代表の大竹秀之さん。高校時代から「親の七光り」などとSNSに書き込まれてきた。
自分自身を見てもらえないと感じ、“バレーボールをやめたい”と悩んだ時期もあったという。
さらに現役時代は、こんな苦しみも…
バレーボール元全日本女子 大竹里歩さん 「SNS上で言われて嫌だったことは『下着のラインが見えている』とか。写真が載ってたりすると、これはバレーの姿というよりちょっと違う写真だなと。短パンが上がってくるのが嫌で、頑張って下ろしながらプレーをしていた。今のユニフォームは対策をしっかりやっていると思うが」
性的画像や性的中傷が多くの女性選手を苦しめている。
バレーボール元全日本女子 大竹里歩さん 「現役選手は自分からまた発信することで、『何か言われてしまうかもしれない』というリスクもある。私自身の経験を誰かのためになるなら伝えていけたらと思うし、誹謗中傷を投稿する手前で『こういうこと言っていた人いたな、やめよう』って、止まる何かになれたらなと」
芸能事務所の中傷対策 通報窓口に1日200~300件の情報
タレントに対する誹謗中傷も大きな問題になっている。
Snow ManやNEWS、なにわ男子など、多くのアーティストが所属する「STARTO ENTERTAINMENT」。タレントへの侮辱や加害予告、ニセ情報の拡散などに警戒感を強めていた。
STARTO社代理人 中島博之 弁護士 「これはタレント名を出して『刺されるよ?というか刺されろ』と、加害予告をしているものになります。社会的評価を下げるような投稿だったり、虚偽の情報を投稿しているものもございます」
【実際の投稿】 「表舞台に立てなくしてやる」 「てめえが歌っていい曲じゃねえから汚れるから死ね」
2年前、ホームページに通報窓口を設けると、1日200件~300件の情報がファンなどから寄せられるようになった。
STARTO社代理人 中島博之 弁護士 「一部のタレントの方からは誹謗中傷を目にして、自分のメンタルがもたないので何とかしてほしいと。もはや表現の自由を逸脱しているような投稿、一線を越えたものについては、タレントを守るために芸能事務所として毅然として対応していく必要がある。STARTO社としては、会社に対する『営業権侵害』ということで、(全てのタレントの被害について)会社が対応を引き取り、開示手続きをしている」
名誉毀損で訴える場合、被害者自身が対応する必要がある。
そのため、事務所側が「営業権侵害」という新たな捉え方も使って開示請求を行い、1000件以上の開示に成功したという。(著作権侵害等も含む)
なぜ誹謗中傷? 投稿者「暇つぶしみたいな…」
なぜ投稿者は、問題のある書き込みをしてしまうのか。
タレントを誹謗中傷した人物が取材に応じた。母親に連れられ、現れたのは男子高校生。
あるタレントが逮捕されたという虚偽の情報をSNSで見かけ、それに便乗し、投稿していた。
――どうして投稿してしまったんですか?
誹謗中傷を投稿 男子高校生 「大丈夫かなみたいな、あんまり考えてなくて。趣味っぽい趣味がなくて、時間があり余っていた。暇つぶしみたいな」
――実名だったら同じ書き込みをしたか?
誹謗中傷を投稿 男子高校生 「してないと思う。法律上問題があることは知っていたので、名誉毀損とか」
「暇つぶしで投稿した」という男子高校生。そのタレントに個人的な感情はなく、投稿によって収益を得るためでもなかったと話す。
しかしその半年後、開示請求を知らせる手紙が届いた。
誹謗中傷を投稿 男子高校生 「(開示請求は)正直来ないだろうと思っていた」
男子高校生の母親 「ちょっと信じられなかった、最初は。本当なのかなって。(SNSに)書き込んでいること自体知らなかったので、もうちょっとちゃんと見ておくべきだったなと。もう任せっきりだったので、そこは反省している」
男子高校生は賠償金という代償を払うことになった。
誹謗中傷を投稿 男子高校生 「やめとけばよかった。本当に申し訳ないと思っている」
誹謗中傷の投稿者「同じ書き込みをしている人がいて…」
誹謗中傷をしたことがある人に動機を聞いた調査がある。恨みやねたみによる「私怨型」の次に多いのが、多くの人が投稿していたので追随したという「便乗型」。鬱憤を晴らす「ストレス型」や注目や収益を得たい「アテンションエコノミー型」よりも多い傾向にある。
素顔を見せないことを条件に取材に応じた40代の女性も、他人の投稿に便乗してしまったという。タレントの容姿などを中傷する投稿をしていたが、そのタレントへの恨みやねたみはなかったと話す。
誹謗中傷を投稿 40代の女性 「私の前に同じ書き込みをしている人がいる。(文章を)コピーペーストした結果、誹謗中傷になってしまった。そのほか一切書き込んでいないので」
コピーして貼り付けた文章に誹謗中傷が含まれていたが、よく見直さずに投稿してしまったという。タレントや事務所に手紙で謝罪したというが…
誹謗中傷を投稿 40代の女性 「(私の投稿の)比ではないほど直接的な、それこそ『死ね』とかひどい言葉があるので、なんで放置されているのかなと」
――書き込みの悪質さとしては、もっとひどいものもあるということ?
誹謗中傷を投稿していた40代の女性 「おかしな話だが、私も見かけたら通報するようにしていた。全員、書き込みの内容によっては刑事告訴されてほしいし、刑事告訴まで至らなくても同じように開示請求を受けて、タレントに謝罪をして、自分のことを見つめ直してほしい」
責任を問われるSNS事業者は…
SNS事業者の責任も問われている。
国内ユーザー数約5000万人の「TikTok」。(月間アクティブユーザー TikTokとTikTok Lite(重複除く)) AIも使って、全ての動画やコメントをチェックし、誹謗中傷などの不適切な投稿は表示されないようにしているという。
TikTok Japan 金子陽子 政策渉外担当部長 「例えば、見た目に基づく侮辱。いじめ及びハラスメントに該当するガイドライン違反という形で削除する」
チェックをすり抜けたものは通報などを受けて削除しているというが、対策の難しさもあると打ち明ける。
TikTok Japan 金子陽子 政策渉外担当部長 「もしかしたら(投稿者)本人からしたら、誹謗中傷のつもりはない表現。ユーザーのいわゆる『表現の自由』、ここのバランスをどう取っていけばいいのか。それをいかに適切に取るか」
投稿者を特定することが難しい開示請求への対応については…
TikTok Japan 金子陽子 政策渉外担当部長 「社内のより慎重な判断等も必要になるので、一定の時間かかるケースもあるが、必要な条件が満たされている請求であれば、基本的には開示するという姿勢で対応している」
誹謗中傷は「当たり前じゃない」文田選手の“願い”
誹謗中傷をなくすための活動に取り組むレスリングの文田健一郎選手。この日は山梨県にある母校で後輩たちを前にこう呼びかけた。
レスリング 文田健一郎 選手 「アスリートである以上、結果を見て判断されるのは仕方がない。ただ、試合の結果と人間性というのはイコールではない。結果だけを見て誹謗中傷するのは、すごく浅はかなこと。自分がこれから何かを発信していくときに、考えるっていう習慣作りをしてほしい」
講演後、生徒は…
男子生徒 「アスリート目線の声が聞けてすごく大事な機会だった」 「SNS身近なので、自分も気をつけたいなと、より一層思った」
誹謗中傷の苦しみは、自分たちの世代で終わりにしたいというのが文田選手の願いだ。
レスリング 文田健一郎 選手 「誹謗中傷の話をしたときに、『昔はそんなことあったんですね』と言うような時代になってほしくて。『先輩たちのときはそんなことでも悩まなきゃいけなかったんですね』みたいな。他人事にせず、どっちにもなり得てしまう。(誹謗中傷を)する方にも受ける方にも。それが当たり前じゃない、当然じゃないというのを伝えたい」