台風19号は12日から13日にかけて記録的な大雨を降らせ、長野県内を流れる千曲川を中心に大規模な氾濫(はんらん)をもたらした。
佐久市で1人が死亡したほか、長野市などで多くの住宅が浸水。未曽有の大災害となった。
救出作業に当たる約30人の消防隊員の目の前で、人を乗せたままの車が濁流にのまれていった。12日午後8時18分、長野県東御市の千曲川。東御消防署の武舎(むしゃ)徳夫署長は「助けられなかった。大変悔しい」と言葉を絞り出す。車の中に3人がいたと同署はみている。
一報が入ったのは午後6時45分だった。「車が落ちている」と聞き、救助隊と救急隊それぞれ3隊が現場に急行した。
川に架かる田中橋の手前が濁流にえぐられて崩落、軽自動車2台が落下し、2台に乗っかるように「白い小型のワゴン型普通乗用車」(武舎署長)が横転状態で落ちていた。ワゴン車から県道までは5メートルの高さがあった。
軽乗用車の計3人は自力で県道まではい上がり、ワゴン車の人だけが取り残されていた。男性がドアを上方に開けようとしているが、重くて開かない。下にある軽自動車は濁流に洗われ始めていた。
投光器で照らし、男性に「何人いるのか?」と聞くと、指を3本広げた。3人いる、と判断。まず軽乗用車組が脱出した斜面を下って救出しようとした。
風は強く、雨も激しかった。しかもその斜面は崩れ始めていて、断念。救助工作車のクレーンに隊員をつり下げ、接近を試みた。
濁流が3台の車をのみ込んだのはその最中だった。署長は「みるみる水量が増えた」と振り返る。「(流れた車は)最初は浮いていましたが、あっという間に濁流に沈みました」
消防の到着から約1時間半後の出来事だった。武舎署長は「われわれの認識では『3人不明』です。助けられなかったことは大変悔しい」と話す。(依光隆明)