苦戦している日高屋への“刺客”!? 増殖を続ける「中華食堂 一番館」の実力に迫る

近年、東京都内を中心に店舗数を伸ばしているのが、「中華食堂 一番館」である。首都圏と長野県に33店をチェーン店展開している。そのうち東京都内に26店が集中している。

このチェーンの特徴は、とにかく安いことだ。首都圏の激安中華チェーンというと「熱烈中華食堂 日高屋」が有名だが、その日高屋よりもさらに安い。

安いのは、まずお酒だ。酎ハイとハイボールの中ジョッキは100円(税込、以下同)である。第三のビール「クリアアサヒ」の中ジョッキが200円、生ビール「アサヒ スーパードライ」は300円などとなっており、ちょい飲みはもちろん、1000円で心ゆくまで酔える“センベロ”が可能である(店舗によって価格が違うことがある)。だから、特に夜はアルコール比率が高く、ほとんどのお客が飲んでいる店も多い。

主なメニューは、「炒飯」(350円)、「かけらぁ麺」(290円)、「焼き餃子」(6個で200円、4個では150円)などとなっている。

例えば、ギョーザを軽くつまみながら、酎ハイを8杯飲んでも1000円である。

ちなみに、ちょい飲みに力を入れている日高屋は、価格の基準として、ギョーザをつまみながらビールを飲み、ラーメンで締めて1000円以内になるようにしている。実際、生ビールの「キリン一番搾り」(290円)、「餃子」(6個で230円)、「中華そば」(390円)で910円となる。ギョーザは3個なら130円、チャーハンは460円だ。また、ハイボールやレモンサワーは290円となっている。

従って、生ビールなどを除くと、一番館のほうが基本的に安価に設定されているといえるだろう。

今回は、“ニュー中華ファストフード”の確立を目標とする一番館を研究してみたい。

日高屋と重なる立地
一番館の立地は総じて乗降客数が多い駅前が選ばれている。駅前ラーメン屋台の代用・店舗化をコンセプトとした日高屋をベンチマークしているともいえる。もしくは、“刺客”と呼んだほうがいいのかもしれない。

実際、日高屋が撤退した跡地に一番館がテナントとして入居することがしばしばある。2018年1月オープンの浅草ROX前店(東京都台東区)、同年6月オープンの六本木店(東京都港区)、そして19年6月にオープンした東武東上線の志木駅前店(埼玉県新座市)は「焼鳥日高」という日高屋が開発した焼鳥業態の跡に入った。

日高屋の運営会社であるハイデイ日高の既存店売上高は、18年11月~19年8月まで10カ月も連続で前年同月比減となっている。19年の5月、7月、8月は、全店売上高も前年同月比減という状況だ。ハイデイ日高では「働き方改革の影響」が主たる原因で、夜に飲む人や食事をする人自体が減っているとしている。しかし、前期まで16年も連続で増収増益という非常に強い業態で起きている異変なので、それだけで売り上げが落ちるとも思えない。日高屋が午前2時まで営業しているすぐ近くで、一番館も午前2時まで開いているケースも多いのである。

味を無難にまとめている

一番館は東京都中野区に本社を構える、「KVC一番館」という資本金1000万円の会社が経営する。

設立は2005年10月で、池袋に1号店を出店。翌11月には阿佐ヶ谷にFC(フランチャイズ)1号店をオープンしている。以降、主にFCシステムにより店舗数を伸ばしてきた。

一番館の店に行くと、看板に、「美、安、楽、早」と掲げてある。これは、「おいしい、やすい、たのしい、はやい」を意味している。中華において「旨い・安い・早い」を実現しようとする、チェーンの理念を表現したものだ。

中華の麺飯、定食、お酒とおつまみなど、多彩なメニューを低価格で提供し、大半の料理はワンコイン以内。定食でも600円台までで、最高値と思しきスタミナ肉野菜定食と青椒肉絲(チンジャオロース)定食でも650円止まりである。

最近の定食屋では「大戸屋」はもちろん、「やよい軒」ですら1000円を超えるメニューがあるのに、安く空腹が満たせる点では出色のチェーンだろう。ちなみに、日高屋の定食は「野菜炒め定食」(600円)と「ニラレバ炒め定食」(680円)を除けば、700~720円の設定になっている。

味は全般に渡って“普通”だ。「餃子の王将」「大阪王将」「ぎょうざの満洲」のようなギョーザを専門とする中華チェーンは、ギョーザの味を徹底的に極めようと努め、商品の圧倒的な魅力で根強いファンをつかんでいる。しかし、一番館の料理は、これといった個性がなくて総じて食べやすく、無難にまとまっているように見受けられる。このような料理の方向性は日高屋と似ている。

一番館の「かけらぁ麺」などの汁は、たまりじょうゆのような味がするので、全く個性がないというわけではないが、どういう味だったのか、あとでよく思い出せないような料理が多い。逆にいうと、誰からも嫌われない料理を出しているのであって、大衆性を持っているのだ。

実際に一番館で食べた人からは、「全般にさっぱりしているところは日高屋と似ているが、塩分が少ないように感じる」といった感想をよく聞く。後発だけに、味が日高屋より現代風になっている。

「吉野家」は「うまい、やすい、はやい」をモットーとしており、一番館もファストフードとしてこれを踏襲しているが、それに「楽(たのしい)」が入っているのがミソだ。

メニュー数の多さが特徴
最近、吉野家は牛丼以外にも、定食、ちょい飲みのおつまみ、鰻重、冬の牛鍋などメニューのバリエーションが増えているが、牛丼の専門店としてのイメージが強い。これは「すき家」も同じである。「松屋」はカレーや定食にも定評があるが、そこまでメニュー数が多いイメージはない。

ところが、一番館はメニュー数が実に多く、選べる楽しさがある。例えば、チャーハンだけでも9種類がラインアップされている。メニューには「炒飯」「プリプリ海老炒飯」「焼肉スタミナ炒飯」「うま辛炒飯」「イカと海老チリのオム炒飯」「和風黒炒飯」「唐揚げ炒飯」「麻婆(マーボー)炒飯」「肉あんかけ炒飯」とある。

ラーメンとギョーザは、160円の「ミニらぁ麺」、4個150円の「焼き餃子」の小サイズがあって、安価にチャーハンのお供を付けることもできるのだ。

麺のメニューも、ラーメンが12種類、焼きそば2種類と豊富。丼は5種類あって、焼肉スタミナ丼は黒丼と辛い赤丼の2種類を提供。定食は6種類あるが、鶏唐揚げはたれを中華風・マヨダレ・黒酢から選べるのが特徴である。

ギョーザも「焼き餃子」「肉汁大餃子」「水餃子」と3種類ある。焼き餃子が野菜多めなのに対して、肉汁大餃子は肉が多めの違った味となっている。

お酒も、200円の酎ハイのバリエーションが7種類、ハイボールのバリエーションが4種類あるのが目立つ。例えば、レモンサワーは200円だ。何も入れない酎ハイやハイボールは100円である。

「豆苗炒め」「ヨダレ鶏」「バンバンジー」のような本格的な中華メニューもカジュアルに楽しむことが可能で、定食にも仕立てられる。

ロボットを導入した先見性
このチェーンの経営陣の先見性は、商売を始めてすぐの06年にチャーハン調理ロボットを開発したことにある。ロボットによる調理で、安定した味のチャーハンを出せる体制を構築したのだ。

チャーハン調理機「ロボシェフKVC460」は、業務用厨房の総合商社「エム・アイ・ケー」(さいたま市)と共同開発。エム・アイ・ケーは業務用自動炊飯機、業務用自動洗米機なども販売している。

ロボシェフは、料理人がフライパンを振らなくても材料を投入するだけで本格的なチャーハンがつくれる。今日ではお店の味に匹敵するほどの冷凍チャーハンが、スーパー、コンビニ

などで販売されている。これらは、大量生産される商品なので、もちろん工場で機械調理されている。

お店でチャーハン調理機を使用するにしても、食材、味付け、操作を間違わなければ、下手なアルバイトが鍋を振るよりおいしくチャーハンができ上がるのである。

しかも、このロボシェフは炒め物にも対応可能だ。肉野菜炒めやレバニラ炒めなど、中華料理には欠かせない炒め物を、調理ができない素人でも上手に仕上げることができるのである。一番館では、3分以内にどの料理もクイックに提供することを目標にしているが、厨房をロボット化しているからこそできるチャレンジなのだ。

なお、このロボシェフは、有名なラーメンやファミレスのチェーンでも活用されている。

10年以上もコックレスでロボット調理をしてきた蓄積こそ、一番館がローコストで運営できる力の源泉である。そして、低価格の実現、豊富なメニュー構成、クイックな提供にも寄与している。当時から、経営陣が今日のような深刻な人手不足の時代が到来し、日本語もおぼつかない外国人の留学生などに店舗を任せざるを得ない事態を予見していたかどうかまでは分からないが、店舗運営上大きなメリットになっている。

このような経緯から、一番館のメインとなる料理はチャーハンとなっている。つまり、ラーメンが売りの日高屋・幸楽苑、ギョーザが売りの餃子の王将・大阪王将・ぎょうざの満洲などとは差別化されているといえるだろう。

一番館運営会社の公式Webサイトによれば、FCの加盟条件は次のようになっている。法人・個人を問わず、加盟契約金は150万円、保証金は50万円、研修費は30万円で、契約期間は3年。更新手数料が1万円。ロイヤルティーは売上高の2%となっている。月商600万円以上、営業利益20%を目標としているとのことだが、かなりハードルが高い。店舗投資を含め、税抜きで1730万円が標準モデルの初期投資額としている。店舗開発では居抜きの物件を探しているので、コストは抑え目で開業できるという。

一番館の死角は?
日高屋を徹底マークすることで伸びてきたように見える一番館に、死角はあるのだろうか。

約400店もの店舗を持つ日高屋の首都圏におけるブランド力は強大であるが、現状は自社店舗が顧客を奪い合う現象にも悩まされており、焼鳥、とんかつなどの業態開発を急いでいる。不採算店の撤退やリロケーションの隙間を突いて、跡地に一番館は出店を重ねてきた。

他にも、「ミスタードーナツ」や「築地銀だこ」の撤退した場所に入ったケースもある。有名チェーンの跡によく入ってくるから、店舗数以上のインパクトを地域の人々に与えている面がある。そうした居抜きの作戦が当たって、知名度が高まってきている。

一般の中華料理店の売り上げにおけるアルコール比率は3%程度とされるが、日高屋では15%くらいある。KVS一番館は非上場であり経営に関して開示していないが、日高屋以上に男性の顧客比率が高いと見受けられる。日高屋以上のアルコールの売り上げは確保したいだろう。1杯100円からと圧倒的にお酒が安いのはもちろん武器だが、味の精度もより高めてほしいものだ。

消費増税で消費者の節約志向は高まっており、地方では一層その傾向が強いのではないか。一番館は日高屋とは違って、関東ローカルではなく全国で勝負したいようだ。その意味では、長野市にある2店の成否が、全国的に広がるかどうかの試金石になるだろう。

そして、気になるのは日高屋の動向だ。日高屋のギョーザも一番館と同じく野菜が前面に出た軽いタッチであったが、このたびのリニューアルで肉の容量が増え、ニンニクのパンチも効いたインパクトがある商品に変わってきた。脂分も減らしてヘルシーに、皮も薄くしてよりパリッとした食感になった。しかも10月末までの期間限定ながら1皿170円のセールを実施中。これを皮切りに逆襲してくるだろう。

果たして低価格中華の“東の横綱”に挑む新鋭は、金星に満足せずにこのまま頂点に上り詰められるだろうか。

(長浜淳之介)