台風19号の影響で長野新幹線車両センターが被災し、北陸新幹線の電車10編成120両が水没した。すでに各メディアで報じられているように、北陸新幹線の車両は専用仕様のため、他の新幹線車両が代走できない。しかし、JR東日本は災害とは関係なく、北陸新幹線と上越新幹線の車両共通化に着手したばかりだった。
JR東日本の報道資料によると、長野新幹線車両センターの信号関係の電源設備も被災したため、長野~上越妙高間で運休している。航空写真で見ると、中部電力の受電設備は北陸新幹線のトンネルの上、小高い丘にある。しかし、長野新幹線車両センターに併設された電力系設備は水没している。信号用に限らず、電車は架線から電気を受け取り、レールに戻して回路を形成するから、レールが水没すれば電力系も被災する。
JR東日本の報道資料によると、信号用電源装置の復旧に1~2週間かかる。ここだけの被害で済めば北陸新幹線は全線再開となる。ただし、北陸新幹線全車両の3分の1が水没したため、運行本数は通常時の5~6割になるという。
電車は共通化したほうがいい、という常識
首都圏のJRの電車の多くは共通化されている。京浜東北線と中央線快速、南武線などは、同じ車両に色の違う帯を巻いただけだ。湘南新宿ライン、上野東京ラインも同じ。ここに挙げた路線の電車はE233系といって、先代のE231系の改良型だ。E231系は電車の標準化に取り組んだ車両である。東急、小田急、相模鉄道、都営地下鉄新宿線もE231系の基本設計、機器を採用している。
【訂正:2019年10月18日11時30分 共通化されている車両の列挙に誤りがありましたので、訂正しました。】
電車の顔は各社の意匠のために変えているし、各路線に対応する若干のカスタマイズもあるけれど、JR東日本は電車の共通化を進め、他社も採用している。理由は明白だ。開発費と製造費、部品調達コストを削減できるからである。従来の部品は電車ごとの特注品で、既存部品の多くもイチから仕様を選定する必要があった。共通化すればコストは下がる。
JR東日本は、在来線の電車では「共通化によるコスト削減」を進めている。しかし、新幹線系統は形式が多く、共通化されていない。東北新幹線系統はE5系とE2系、秋田新幹線はE6系、山形新幹線はE3系、上越新幹線はE4系とE2系、そして北陸新幹線はE7系とJR西日本保有のW7系だ。バラエティに富み、趣味的には面白い。
これに対して、JR東海の東海道新幹線は統一されている。形式のばらつきがあるのは、新旧車両を交代する過渡期だけだ。700系、N700系、N700Aの座席配置は共通で、運用も共通化できる。例えば「のぞみ」で新大阪へ行って、折り返しの「こだま」で東京に戻る、という運用ができる。車両の量産による利点だけではなく、駅の使用効率も上げられるし、ダイヤ作成上の制約も少ない。
北陸新幹線は共通化できない?
北陸新幹線は上越新幹線や東北新幹線と線路がつながっているから、他の路線で行楽向けの臨時列車の運行を取りやめ、北陸新幹線に回せばいい、と思うかもしれない。しかし前述のように、北陸新幹線車両は特殊仕様だから、失った車両を再度調達するためには、10編成をなんとかして「修理」するか、新規「製造」するか、他の新幹線車両を北陸新幹線向けに「改造」する必要がある。JR東日本は検討中で具体策を公表していないけれども、応急処置としては改造だと思われる。
JR東日本の新幹線も、もともと車両は共通化されていた。国鉄時代は東北新幹線も上越新幹線も200系電車を運行していた。その後、新在直通の山形新幹線用に400系を投入する。また、繁忙期、短距離通勤通学需要と応用するためE1系というオール2階建て車両を作った。しかしこの電車は標準車両にはならず、実質的にはE2系が標準型となった。秋田新幹線用にはE3系が作られた。このあたりから、新幹線形式の多様化が顕著になった。
E2系は東北新幹線と北陸新幹線向けに製造され、後に上越新幹線にも投入される。ただし、E2系の東北新幹線用と北陸新幹線用は仕様が異なった。標準化されなかった2階建て新幹線も、波動輸送用として次世代のE4系が投入された。その後、E2系を交代させるため、東北新幹線にE5系を投入し、上越新幹線はE4系で統一した。秋田新幹線にはE6系が投入された。
東北新幹線と北陸(長野)新幹線はE2系が使われていた。東北新幹線は後継機種としてE5系が作られた。しかし、北陸新幹線金沢延長時はE5系ではなく、新形式のE7系(JR西日本はW7系)が作られた。標準化の常識に反する展開だ。なぜか。東北新幹線に求める性能と、北陸新幹線に求める性能が異なるからだ。
北陸新幹線にE5系を導入しなかった理由
北陸新幹線の何が特殊かといえば「電力」と「勾配」だ。
新幹線は車両の出力が大きく、路線は長距離。そこで高電圧で電力供給ができる交流を採用した。そして、家電でも配慮されているように、交流電力は東日本が50Hz、西日本が60Hzだ。東海道新幹線は将来の山陽新幹線延伸を見越して、相対的に短距離の関東側も60Hzとして全線を統一した。
北陸新幹線も東日本と西日本をまたぐけれども、電力周波数は地域に合わせ、電車側で周波数変更に対応した。具体的には、東京~軽井沢間が50Hz、軽井沢の先から糸魚川駅手前まで60Hz、糸魚川駅付近が50Hz、糸魚川の先は60Hzだ。北陸新幹線は、この2つの周波数に対応した電車しか走れない。
さらに「勾配」の問題がある。新幹線はスピードを上げるため、最大勾配を15パーミルに設定している。1000メートル進むと15メートル上る角度だ。しかし、北陸新幹線の設計時にこのルールを適用すると、勾配を抑えるために大きく迂回するか、ずっとトンネルになってしまう。人気保養地の軽井沢も無視できない。そこで特例として、高崎駅直後から、新幹線としては急勾配の30パーミルとし、駅付近だけ平たんにした。
電車が勾配で配慮する点は、モーターの出力ではなく、ブレーキの性能だ。長い下り坂で接触型のブレーキをかけ続けると、発熱によってブレーキが効かない。そこで、クルマのエンジンブレーキのように、非通電時のモーターの抵抗力で速度を保つ仕組みが必要だ。鉄道の場合は抑速ブレーキという。北陸新幹線の車両はこの仕組みが必要だ。
E2系の北陸新幹線仕様は2つの周波数に対応し、抑速ブレーキを搭載している。しかし、同じE2系でも東北新幹線仕様は対応していない。北陸新幹線仕様は東北新幹線でも走行できる。しかし、その逆、東北新幹線仕様は北陸新幹線には入れない。
ならば、後継車種のE5系は全て2つの周波数と抑速ブレーキに対応していればよかった。そうすれば、JR東日本の新幹線車両は、将来的に全区間新幹線用のE5系と、新在直通用のE6系に統一できるはずだ。輸送量に差があったとしても、編成車両数で対応できる。
しかし、この共通化は無理があった。東北新幹線は時速320キロで運行する使命がある。北陸新幹線は整備新幹線として作られ、設計速度は時速260キロだ。新幹線全路線に対応させるためには、「時速320キロ」「周波数変更」「抑速ブレーキ」の全てに対応させる必要がある。欲を出して在来線直通しようとすれば、「車体をひとまわり小さく」という制限も加わる。
このようなオールマイティー新幹線を作れば、確かに全ての新幹線で効率よく運用できる。災害に見舞われても、他の路線から応援を出せる。しかし、それよりも大きな難点ができる。「どの路線を走ってもオーバースペックな車両」になってしまう。
JR東日本は3タイプに集約する計画だった?
新幹線車両を共通化したいけれども、路線の特性が異なり、ままならない。しかし、JR東日本はその解決に向けた取り組みを始めている。現在、E2系、E3系、E4系、E5系、E6系、E7系の6形式となっている車両は、3形式まで収束されるだろう。
まず、上越新幹線のE2系、E4系は、経年劣化のため引退。北陸新幹線と同型のE7系を投入する。すでに2編成がピンクの帯を巻いて導入済みで、3編成目も落成、引き渡し済みだ。
この計画が順調に進めば、北陸新幹線と上越新幹線の車両共通化が実現し、運用が柔軟になる。金沢から戻った電車が折り返し新潟へ向かうという運用が可能になる。北陸新幹線と上越新幹線は需要が異なるから、専用車両を使うと東京駅の折り返し時間が長引く場合がある。限られたプラットホームを使うため、いったん田端の東京新幹線車両センターへ回送させる必要もあった。それが不要になる。
山形新幹線のE3系はいずれ廃車対象となる。ここには秋田新幹線と同型のE6系が導入されるだろう。そうすれば秋田新幹線と山形新幹線の共通運用も可能になる。
長野五輪で北陸新幹線向けに改造した前例も
東北新幹線まで巻き込むと車両のオーバースペック問題の不利が大きくなってしまうけれども、北陸・上越の統合は利点が上回る。その計画がスタートした矢先に、長野車両基地水没事故が起きた。手始めの対策は、上越新幹線向けのE7系3編成を北陸新幹線に転用し、上越新幹線では廃車予定のE4系を延命、それでも足りない分は東北新幹線のE2系、E5系の臨時列車または乗客の少ない便を運休して穴埋めする形になるだろう。
これでも北陸新幹線は7編成の不足となる。かつて長野行き「あさま」で使われていたE2系のうち、増結用の中間車の一部は周波数変更に対応した車両が作られた。これを転用したいけれども、残念ながらすでに廃車となっている。E2系全体も廃車が進んでいるけれども、残り少ない車両をあらためて北陸新幹線仕様に改造する方法もあるだろう。過去には長野オリンピック向けの輸送量増強のために、東北、上越新幹線用の200系電車1編成を北陸新幹線向けに改造した事例がある。
【訂正:2019年10月18日11時30分 E2系に関する記述に誤りがありましたので、訂正しました。】
電車の共通化は、これまで量産化によるコスト削減が最大の利点とされていた。しかし今後は、災害時の運用柔軟化という意味でも重要な施策となる。もっとも、国鉄時代の災害時に全国から余剰車両を集めて対応した事例があった。「共通化の利点」より「路線専用車両の欠点」を重視。これが正しい見方かもしれない。
(杉山淳一)