日本代表が経験したことのない負ければ終わりの決勝トーナメントの一戦に、スタンドのボルテージは試合開始前から高まった。大型モニターで選手が紹介されるたびに、割れんばかりの歓声が上がった。
前半開始早々に先制トライを奪われた日本。場内には悲鳴が響いたが、すぐに気持ちを切り替えた。何度も低いタックルを繰り返し、南アのミスを誘う。一瞬も気を抜けない緊迫した攻防に、スタンドからは「ニッポン」コールが湧き起こる。前半約20分に田村優選手(30)がペナルティーゴールを決め、2点の僅差で折り返すと、会場はベスト4への期待に包まれた。
しかし後半、南アは本領を発揮。日本はスクラムで反則を繰り返し、ラインアウトでもボールを奪われる。過去に2度世界を制した南アは、畳み掛けるような連続攻撃で後半2トライを奪って突き放す。日本がボールを持ち、体を張ったタックルを繰り返すたびにスタンドからは大歓声が上がったが、得点には届かなかった。
全ての力を出し切った選手たち。ノーサイドの笛が鳴ると、しばらくひざまずいたまま動けない。桜のジャージーで埋め尽くされたスタンドのファンはいつまでも席を立たず、拍手とニッポンコールが続いた。
「夢を見させてくれた」。第1回大会から応援しているというさいたま市の会社員深井直登さん(46)は、「まさかここまでくるとは思っていなかった。本当にありがとう」と目を赤くした。
大阪市の会社員中村健太郎さん(33)は「負けたのに、観客の盛り上がりに感動した」と20年前の代表ジャージーを手に話した。連獅子のコスチュームで応援し、汗でフェースペイントが崩れた東京都中央区の会社員谷塚俊輔さん(37)は、選手に感謝の言葉を繰り返し、「日本のラグビーの歴史がここから始まる」と力強く語った。