台風19号で中心部を流れる阿武隈川支流の堤防が決壊した宮城県丸森町では、土砂崩れなどで道路が陥没し、一部の酪農家に影響を与えている。乳牛から搾った原乳を運ぶタンクローリー(集乳車)が通行できなくなり、原乳を廃棄する状況が続いているからだ。復旧が遅くなれば離農もやむを得ないと、酪農家が悲鳴を上げている。
「集乳車が来ないとどうにもならない」。同町筆甫(ひっぽ)の酪農家、引地(ひきち)弘行さん(64)は、原乳が入ったタンクを見つめてため息をついた。乳房の炎症などの病気を防ぐため、搾乳は毎日しなければならない。だが、町道の通行止めなどにより12日以降原乳の出荷ができず、廃棄を続けている。「亡くなってしまったり家が浸水したりした人もいる。みんな大変で、自分は楽な方」と話すが、表情は深刻だ。
引地さんは約30頭の乳牛を飼育して生計を立ててきた。戦後に父がこの地で酪農を始めたという。通常は集乳車を介して隣接する同県白石市内の集乳場に毎日出荷している。以前は途中にある筆甫地区の中心部まで約4キロで行けたが、現在は10キロほど遠回りしなければならない。その道も陥没などで乗用車1台が通れる道幅しか残っておらず、8トンのタンクを載せた集乳車は引地さんの牛舎まで到達できない。
引地さんによると、12日夜から5日間ほど停電が続いた。搾乳機が使えず、乳房炎になった牛もいたという。現在は1日2回搾った計約400リットルの原乳を畑にまいて処分している。このままの状況が続けば「離農せざるを得ない」とつぶやく。県によると、同様に原乳を出荷できなくなっている酪農家が引地さんを含め丸森町内に3軒あるという。
2014年の豪雪被害でも集乳車が道路を通行できず、5、6日間ほど出荷できないことがあった。今回は既に10日以上がたち、道路の復旧の見通しも立っていない。「10月からはお産の時期で楽しみにしていたのに。冬になって雪が降ると通行はもっと難しくなる」と不安を募らせている。【高田奈実】