特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)が起こしたとされる4件の一般人襲撃事件で殺人や組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)などの罪に問われた同会トップの野村悟(72)とナンバー2の田上不美夫(たのうえふみお)(63)両被告の初公判が23日、福岡地裁(足立勉裁判長)であり、両被告は4事件すべてで無罪を主張、検察側と全面的に争う姿勢を示した。
野村被告は「私は四つの事件すべてにつき無罪です」と述べ、田上被告も「殺害することを企てていないし共謀もしていない」などと主張した。
工藤会の壊滅を目指し福岡県警が両被告を逮捕した2014年9月の「頂上作戦」から5年余が経過し、初めてトップ自らが一般人襲撃事件への関与を問われる。4事件の実行役ら8人の判決はすでに確定し、いずれの事件も工藤会により起こされたと認定(1人は無罪)。ただ野村被告の指示を示す直接証拠はなく、組員との共謀を立証できるかが焦点となる。
審理されるのは、①元漁協組合長射殺(1998年2月)②元福岡県警警部銃撃(12年4月)③看護師刺傷(13年1月)④歯科医師刺傷(14年5月)――の4事件。福岡市内で襲われた看護師事件以外はいずれも北九州市内で起きた。
検察側の冒頭陳述によると、元漁協組合長射殺事件の被害者、梶原国弘さん(当時70歳)は、北九州市最大の漁協、若松区の脇之浦漁協の組合長で、長男と砂利販売などの会社も経営。漁業権に影響を及ぼす大規模事業に対し漁協が有する同意権を背景に、港湾関連工事の下請け業者の選定などに大きな影響力を持っていた。かつては工藤会側とのつながりもあったが、事件の数年前から関係を断つようになった。
96年に市が総事業費1000億円規模のコンテナ港建設計画を発表すると、工藤会側は被害者や親族らに因縁を付けたり圧力をかけたりして、事業介入に便宜を図るよう再三働きかけたが拒絶された。検察側は「両被告は組員による要求行為に被害者らが一向に応じようとしなかったことから殺害を決意し、野村被告が直接または田上被告を介して、配下の組員に殺害を指示した」と主張した。
4事件のうち元警部銃撃と歯科医師刺傷事件については、被害者から両被告らに損害賠償を求める訴訟が起こされ、計約6400万円の支払いを命じる判決が出たが、両被告側が控訴して現在和解協議が開かれている。また、野村被告は4事件とは別に、建設業者などからの上納金を巡って約3億円を脱税した所得税法違反で昨年7月に懲役3年、罰金8000万円の判決を受け、控訴している。
「顔は覚えとる」裁判員に声かけも
指定暴力団は全国に24あるが、企業や一般市民に対し銃撃などを繰り返してきた工藤会は唯一、「特定危険指定」を受けている。その工藤会を率いるトップが法廷に姿を見せるとあり、福岡地裁は警察官や裁判所職員らが警備し、物々しい雰囲気に包まれた。
工藤会の裁判を巡っては、2016年5月に地裁小倉支部であった殺人未遂事件の初公判後、同会系元組員らが、裁判所の外で裁判員に「あんたらの顔は覚えとる」と声をかけ、裁判員法違反容疑で逮捕された過去もある。今回の4事件は本来、裁判員裁判の対象だが、裁判員が危険にさらされる可能性を考慮して裁判官だけで審理される。
来夏以降までかかると見込まれる公判では延べ90人超の証人を採用。地検は一部の証人について、ついたてで隠したり、別室と法廷を映像でつなぐビデオリンク方式にしたりして野村被告らから見えない状態で証言できるよう要請する方針だ。