10月7日、日本経済新聞社の広報室長から「週刊文春」に抗議文が届いた。
日経は10月から、経済部のN次長をトヨタ自動車人事部に派遣している。週刊文春9月26日号は この件 を取り上げ、「中立性や公平性が保てるのかと危機感を覚える記者は多い」と指摘した。日経はこれが「当社の社会的評価を著しく毀損」すると主張。「二度とこのような記事が出ないよう厳重に抗議」し、訂正記事の掲載などを強く要請した上「対応次第では、今後、法的措置」を検討するとおっしゃる。大変な剣幕である。
そこで訂正記事の必要があるか否か、さらに取材した。日経社員Aが語る。
「特に企業報道部員たちは今回の派遣に呆れています。そもそもトヨタを担当していたエースが対象会社に入り込み、『秘密保持契約を結んでいるから問題ない』など通用しないでしょう。彼が日経に戻ってきた時に、批判記事を書けるのか」
日経社員Bが語る。
「トヨタからの広告出稿を増やす狙いもあるのではと勘繰る向きもありますが、他のスポンサーからすると面白くない。ある営業担当社員は『トヨタさんばかり肩入れするんですね』と嫌味を言われたそうです」
日経社員Cが語る。
「N氏が豊田章男社長に食い込んでいるのは有名。実際豊田社長は最近、『N君が来てくれるんだよ』と相好を崩していたとも聞く。そんなN氏の派遣に疑問を持つのは記者なら当然です」
日経社員Dが語る。
「先月、うちのX記者が諭旨退職になった。取材先のリリースを書いたり、経営計画に携わっていたことが問題になったためです。取材先との距離感が問題になった矢先で、これが『適正な距離感』と読者に見てもらえるか懸念はあります」
X記者の処分について9月10日夕刻に本社24階で臨時部会が開かれた際も、
「その場で説明していた井口哲也編集局長に対し、自動車担当のF記者が『ホンダなどからの日経を見る目が厳しくなる』と質しています。これには前段があって、8月28日に発表されたトヨタとスズキの資本提携について、現場が情報をつかんでいながら記事化のゴーサインが出なかった。『記事で発表が延期されるリスクがある』との理由でしたが、結局読売にスクープを許した。その後N氏の件を知った記者らは『トヨタへの忖度か?』と不信感を募らせていた」(社員E)
日経広報室に再度聞いた。
「当該社員を派遣したのは、将来の幹部候補として多様な経験を積んでもらうことが目的です。報道の中立性や公平性といった当社の報道姿勢が損なわれることは一切ありません」
そうだと願いたい。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年10月24日号)