【山田 稔】「北陸3県」がやっぱり日本国内で圧倒的に「暮らしやすい」ワケ 収入、住居、教育事情…数字は語る

いま、若い世代を中心に地方移住への関心が高まっている。
2017年の「都市部の住民の意識調査」によると、「農山漁村地域に住みたい」と回答した割合は全体では30.6%。これを世代別にみると20代がもっとも多く37.9%、次いで30代が36.3%となっている。40代は29.0%、50代は24.4%で3割を切る(総務省地域力創造グループ過疎対策室がまとめた『「田園回帰」に関する調査研究中間報告書』)。

実際に移住した人々へのヒアリングからは「それまでとは異なる働き方、暮らし方」「家族との時間や地域とのかかわりを大切にした生活、都市部にない子育て環境」などの移住動機が紹介されている。若い世代を中心に地方移住は切実なテーマ、現実的な選択肢となっているのである。
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では、移住をしたい若者が増えているとして、「移住先」にはどこを選ぶべきなのだろうか。
拙著『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』では、47都道府県の知られざる「日本一」、各地の魅力、実力、すばらしさを紹介するとともに、若い世代が暮らしやすい地方を探るべく、7つの指標で47都道府県の「暮らしやすさ」を独自に点数化し、比較した。
今回選択したのは次の7指標である。
(1)マネー:年間世帯収入→「全国消費実態調査」(総務省、2014年) (2)仕事:有効求人倍率→「一般職業紹介状況」(厚労省、2019年6月)(3)住居:民営賃貸住宅の家賃→「小売物価統計調査」(総務省、2018年平均)(4)教育:待機児童率→「保育所等関連状況とりまとめ」(厚労省、2019年4月)(5 )医療:医師偏在指標→厚労省資料(2019年2月)(6)環境:都市公園面積(人口1人当たり)→「統計でみる都道府県のすがた」(総務省)(7)少子化:子ども人口「都道府県別こどもの数及び割合」→(総務省、2018年10月)
7項目それぞれのデータを5分化してAからEの評価を行い、Aは5点、Bは4点、Cは3点、Dは2点、Eは1点として、その総合得点(トータルは35点)を算出した。独自の試みである。
最高点の30点となったのは、石川県、福井県の北陸2県だった。両県に続く2位グループ(27点)には富山、岐阜、鳥取の3県が入った。
幸福度ランキングとして知られる日本総合研究所の「全47都道府県幸福度ランキング2018年版」でトップになったのは福井県で、石川県は4位、富山県は5位にランクされている。2011年に発表された法政大学の同様のランキングでも(1)福井県(2)富山県(3)石川県と北陸3県が上位を独占した。
なぜ、北陸3県が上位に来るのか。その暮らしやすさのワケを探ってみよう。

日本総研の幸福度調査で3回連続1位となった福井県は、今回の指標比較で4項目で「A」評価、1項目で「B」評価、2項目で「C」評価となった。A評価を得たのは、マネー、仕事、住居、教育の項目である。強みとなっているAランクの4項目を分析してみよう。
【マネー】
年間世帯収入の全国平均は639万1000円(2014年)。最高は東京都で764万円で、福井県は全国2位の711万3000円だった。三世代同居世帯が多く、職場環境に加え、家庭内環境、育児環境も良好。それが女性有業率を高め、共働き世帯の多さが高年収に結び付いているものとみられる。
【仕事】
有効求人倍率(2019年6月)は2.02で、東京都、広島県、岐阜県、岡山県に続く全国5位の高水準。眼鏡や繊維といった地場産業が盛んで、事業所数も多く、えり好みしなければ仕事には困らない状況だ。そうした状況も背景にあるのだろう、生産年齢人口(15~64歳)の有業率80.3%、女性の有業率75.4%(平成29年就業構造基本調査)はともに日本一である。育児女性の有業率は80.6%、男性の有業率85.1%はともに全国2位。
【住居】
小売物価統計調査の2018年の民営家賃平均を見ると、福井市は3.3?当たり3583円で、県庁所在都市では全国で4番目に安い水準だ(最も安いのは山口市の3430円)。東京都区部の8566円と比べると約42%の水準。世帯の年間収入の高さは東京の764万円に比べ50万円ほど低いだけだから、この家賃負担の軽さは家計にとって大きい。
【教育】
待機児童数は全県で10人。待機児童率は0.04%で、全国平均の0.60%を大きく下回っている。子育て世代にとっては心強い数値だ。福井県は小中学生を対象とした全国学力テストでも毎年上位の常連。2019年度は中学校の数学、英語が日本一だった(「平成31年度全国学力・学習状況調査の実施状況」)。
暮らしやすさの指標が高水準の福井県にとっての最大の懸念材料は、なんといっても原発だろう。原発マネーの問題がクローズアップされているが、払しょくできないのが原発事故リスク。これをどうとらえるか。

2015年の北陸新幹線開業で東京へのアクセスがグッと良くなり、観光業を中心に経済好調が続く石川県。「金沢ひとり勝ち」といった声も上がったほどだ。観光客の大幅増加、ホテル新築ラッシュなど活気づいている。仕事、教育、医療の3項目の評価が「A」となった。
【仕事】
有効求人倍率は1.97と高水準。機械・繊維製造が基盤産業となっているうえ、観光関連の好調で仕事は見つけやすい。財務省北陸財務局の「石川県内経済情勢」でも雇用情勢は「確実に改善しており、人手不足感が強まっている」と分析している。女性有業率も全国5位の73.7%と高い。
【教育】
待機児童数はゼロ。待機児童率は当然ながら0.00で日本一だ。2018年の保育所普及率は全国7位。19時まで開館している放課後児童クラブが多くあるなど子育て支援に力を入れている。学力テストでは小学校の算数が全国1位、小学校国語、中学校の国語、数学が全国2位と高レベルだ。
【医療】
医師数の充実度合いを示す「医師偏在指標」(2019年)は270.4で全国11位の高水準。医療施設に従事する医師数(人口10万人当たり=2016年)は280.6人で全国7位、看護師・准看護師数は1185.3人で16位となっている。総じて医療環境は良好といえそうだ。平均寿命(2015年)は男性が81.04歳で12位、女性は87.28歳で13位と上位の水準だ。
石川県で気になるのは食料の物価指数の高さ。2018年の小売物価統計調査によると、都道府県別消費者物価地域差指数(総合)で東京都、神奈川県、埼玉県などに続いて全国6位と高水準だ。食料に関すれば福井県と並んで全国トップである。また金沢市は都市別消費者物価地域差指数(県庁所在地と政令指定都市が対象)で全国12位。ネックになるとすれば、このあたりかもしれない。

JR氷見線の雨晴駅すぐの雨晴海岸から見る海に浮かぶ立山連峰の絶景には思わず目を見張る。標高3000メートル級の立山連峰と「天然のいけす」と呼ばれる富山湾という至宝を持つ富山県は、仕事、住居、教育がAだ。
【仕事】
有効求人倍率は1.92で全国8位。生産年齢人口の有業率は79.1%で全国3位だ。「越中富山の置き薬」で知られる富山県は医薬品製造が盛んで、2016年の医薬品の生産金額は6218億4500万円(厚労省データ)で全国トップ。県庁には「くすり政策課」があり活性化に向けた取り組みを行っている。
【住居】
民営家賃の相場は3991円(3.3?あたり)と、4000円を切る低水準。富山県の居住環境はピカイチだ。今年9月末に公表された平成30年住宅・土地統計調査によると、富山県の住宅持ち家率は76.77%で全国平均の61.18%を15ポイントも上回る。
持ち家住宅の延べ面積は171.80?で全国平均の119.91?の1.43倍だ。持ち家率、延べ面積は平成25年調査では日本一だった(平成30年調査は47都道府県の割合計算をしていないため順位は不明)。
【教育】
待機児童数は石川県と同じくゼロ。学力テストの結果は、中学校の数学が2位、小学校の算数と中学校の国語が4位、小学校の国語が5位と上位に食い込んでいる。
富山県は医師の偏在ぶりを示す医師偏在指標が216.2で全国31位と低ランク。一般診療所数や一般病院数も全国平均以下。医療環境の改善が望まれる。
北陸3県の暮らしやすさの指標の分析結果でみると、家賃相場や待機児童などは人口が少ない地方ならではの優位性があるのは紛れもない事実だろうが、住居や教育のレベル、恵まれた雇用環境はやはり全国トップクラスといえよう。

3県ともに、環境面がBとなっているが、これは人口1人当たりの都市公園面積のデータなので、山、川、海といった自然環境に関しては高い水準にあることは間違いない。
子ども人口の割合は富山県以外は全国平均を上回っている。
今回、取り上げた7指標以外にも面白いデータはある。化粧品大手のポーラが毎年発表している「美肌グランプリ」の結果だ。全国47都道府県、累計1750万件を超える「肌のビッグデータ」を活かしたグランプリで、2018年の上位は(1)島根県(2)秋田県(3)石川県(4)富山県(5)京都府で、いずれも日本海に面している地域。
日照時間の短さ(日焼けしにくい)、降水日数の多さ(保湿)などが背景にあると思われるが、それだけ日本海沿岸、北陸には美肌女性が多いということだ。これもプラスポイントだろう。こうしてみると、北陸3県には暮らしやすさにつながる好材料が多いということは確かだ。
もちろん、暮らしやすさは統計上のデータ、指標の分析だけでは計り知れないものがある。今回の分析はあくまで独自のもの。実際に地方で暮らすとなれば、なんといっても近隣の人間関係が重要なカギを握ることになる。これまで移住した人々の全国規模の実態調査が行われ、公表されることを望みたい。