大学入試改革は問題だらけだ(写真:Fast&Slow/PIXTA)
現役の筑波大学附属駒場高校の2年生に、センター試験に代わって2021年1月に最初の試験が実施される「大学入学共通テスト」の問題点についてインタビューしたAERA.dotの記事が反響を呼んでいる。
「大学入学共通テスト。ひとことで言えばこれは入試ではありません。入試を入試じゃなくする制度です」(筑駒生、大学入学共通テスト中止を訴える 「ぼくたちに入試を受けさせてください」AERA.dot 2019/10/25)
いま大学入試改革で何が行われようとしているのか、どんな状況にあるのかを極めて正確に把握し、その欠陥・矛盾・欺瞞を的確に突いている。
彼自身は何も困っていないはずだ。彼はその他大勢の同世代の高校生のために声を上げている。SNSには「これぞノブレス・オブリージュ」「こういうひとに官僚になってもらいたい」「文部科学大臣と交換したい」という声があふれた。
問題がこれだけ山積みなのに、なぜ文部科学省はこのまま突き進もうとするのか。なぜこんな無茶なスキームを構築してしまったのだろうか。
11月1日発売予定の拙著『大学入試改革後の中学受験』でも詳しく解説しているが、そもそも今回の大学入試改革は、政権を奪取したばかりの自民党政権下で組織された教育再生実行会議が2013年10月31日にまとめた「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」を青写真としている。
以下がその概要だ。
●センター試験について(番号は便宜上、筆者が付したもの)
(1)センター試験を廃し、代わりに「達成度テスト(基礎レベル)(仮称)」と「達成度テスト(発展レベル)(仮称)」の2段階のテストを実施する(2)これらは年間複数回実施する(3)これらは1点刻みではなく段階別の結果を出すようにする(4)外部検定試験の活用も検討する(5)コンピュータを使用した試験実施も視野に入れる
●個別の大学入学者選抜について
面接、論文、高等学校の推薦書、生徒が能動的・主体的に取り組んだ多様な活動、大学入学後の学修計画案を評価するなど、多様な方法による入学者選抜を実施し、これらの丁寧な選抜による入学者割合の大幅な増加を図る。推薦・AO入試に関しては「達成度テスト(基礎レベル)(仮称)」の利用を示唆。
この教育再生実行会議の青写真を忠実に実現した結果、現在の混乱を招いてしまっているのだ。個別の大学入学者選抜については、2020年度には大きな動きはないので、特にセンター試験の制度改革について具体的に見ていこう。
(1)のセンター試験を基礎と発展の2段階に分けることについては、その発展レベルこそが、現在「大学入学共通テスト」と呼ばれているテストである。基礎レベルについては「高校生のための学びの基礎診断」と呼ばれている。
大きな混乱を招いている英語民間試験は、大学入学共通テストの一環として導入されるものであり、2024年度からは大学入学共通テストの「英語」という受験科目はなくなり、民間試験に完全移行する方針になっている。
経済的な負担、地域による受験機会の不平等、複数の試験を同一指標において使用することの限界などの問題が指摘されているにもかかわらず、文部科学省が英語民間試験の導入にこだわる理由の少なくとも1つは、これを導入することで、センター試験の制度改革として掲げられた上記(2)~(5)のすべてをクリアできるからだ。
(2)の複数回実施は、英語民間試験を2回まで受けられるという形で実現する。(3)の1点刻みではなく段階別の結果を出すというのは「英検2級」というような形で実現する。(4)の外部検定試験の活用はまさにそのものが実現する。(5)コンピューターを使用した試験は、英検のスピーキングのテストなどで一部実現する。
さらに、センター試験に代わる2つのテストのうちの基礎レベルにあたる「高校生のための学びの基礎診断」については、ほとんど報道もされぬまま、実は民間業者の各種検定やテストをそのまま活用する方針が決まっており、英語・数学・国語の3教科について、すでに文部科学省が認定を出している。当初はこの基礎レベルのテストについても大学入試センターがシステムを構築するかのようにいわれていたのだが、いつのまにか民間丸投げに方針を転換したのだ。
たとえば、「英検」「数検」「文章検」などの検定試験や、学研系の「基礎力測定診断」、ベネッセ系の「ベネッセ総合学力テスト」、リクルート系の「スタディサプリ 学びの活用力診断」などが認定を受けている。外部検定を活用し、複数回実施され、段階別の結果が得られ、場合によってはコンピューターも使用する。
こうすることで、教育再生実行会議の「第四次提言」で掲げられた、センター試験を廃止したあとのテスト体系の条件を、形ばかりではあるが、すべてクリアしたことになるのだ。これが政権の面目を保つための、役人魂というものなのだろうか。
大学入学共通テストの記述式問題や英語民間試験導入をめぐる大炎上の陰で、実は「高校生のための学びの基礎診断」を最初から民間検定試験に丸投げするスキームが、ほとんど報道されることもなく、よってほとんど批判されることもなく、するすると進んでいるのである。
現在文部科学省が作成する「高校生のための学びの基礎診断」のパンフレットには、これを大学入試に活用する可能性はまったく触れられていないが、平成28年3月31日の高大接続システム改革会議の「最終報告」には、2024年度以降これを推薦入試やAO入試などの一部大学入試にも使用する可能性が記載されている。
そしてそもそも大学入試改革の最終的な目的は、一発勝負のペーパーテストを減らし、推薦入試やAO入試のような形式の入試を増やすことである。つまり、これらの民間試験が、将来の大学入試の大部分において、大きな役割を担うことになっているのだ。そうすれば政権が喧伝した「明治以来の大改革」が完遂したことになる。
大学入試への「高校生のための学びの基礎診断」の活用について、パンフレットで触れなかったのは、方針が変わったのではなく、当面の批判を避けるためではないかとかんぐりたくもなる。
いまは「大学入学共通テスト」に批判が集中しているが、いずれ「高校生のための学びの基礎診断」へ話題が移るだろう。ギリギリのタイミングまで詳細を明かさずに、詳細が明かされて批判が出たときには「もう時間がない。いまさら後戻りはできない」と言って改悪をごり押しする手口を、2度も食らってはいけない。いまから「高校生のための学びの基礎診断」の運用方法についても厳しい目を向ける必要がある。