書店員の私が「メルカリ」で「万引き犯」を追い詰めた、意外な方法 万引きは変化している

筆者は、関東のとある駅前の書店で店長をしている。8月のある日、売り場を確認していると人文書の棚から一冊の本の下巻が姿を消していた。その時は「売れたのか」くらいにしか思わず、気にも留めなかった。
しかし何かが気になる。販売履歴を調べてみると、やはり販売した形跡がないではないか。私は、店で万引きが発生している可能性をスタッフ全員に伝えた。
数日後、同じ人文書の棚を見ると今度は数冊分の隙間ができていた。数日前までそこに置いてあったのは、ベストセラーになった人文書上下巻とその続編の上下巻。やはり履歴を確認したが、前回と同じく販売した形跡はなかった。この棚で常習の万引きが発生している。そう確信した私は店内の見回りと声かけをスタッフに徹底させた。
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万引き防止の方法はふたつ。
ひとつめは店内を商品整理などと合わせて見回りし、スタッフが店内にいる時間をできるだけ確保すること。スタッフの動線は習慣化してしまうと同じ場所ばかり移動することになるので、意識してルートを変え、スタッフのいない死角を消していくことも試みた。
ふたつめは店内にいるお客様に「いらっしゃいませ」の一言を積極的にかけること。万引き目的の人間が「店側が警戒している。万引きの存在を知っているかもしれない」と思ってくれるかもしれない。

これらの対策に加え、万引きが発生したという事実をスタッフ間で共有し、店舗の防犯意識そのものを高める。これで怪しい行動を取る人物などに迅速に対応できるようになる…はずだった。
ところが、それでも数日後にまた人文書から一冊の本が消えていた。これはしぶとく店の隙を窺いながら本を盗む悪質な手口である。
そこで次に、万引きがあった時間帯を特定できるように、店にあるタブレットで開店時、昼、夕方、閉店時の4回にわたって人文書棚の写真を毎日撮影することにした。閉店時の撮影は内引き(自社スタッフや出入りする業者などの窃盗など)の可能性も考えてのことである。
そして3日後にまた本が消えていた。18時以降、閉店までの間の犯行で、撮影した写真を照合すると3000円以上の人文書が盗まれていた。
改めて人文書の棚に「防犯カメラ撮影中」という表示を張り出し、この次にこの棚の前に立った万引き犯へ「この棚から万引きしていることを店は知っているぞ」という意思を伝えようとした(実は、防犯カメラがあっても、死角などの関係で万引き犯を特定することは容易ではない)。

しかし、ここまで対策を立てたところで巧妙な犯人のことだ、より根本的な対策を取らなければ万引きはやまないかもしれない。何かいい方法はないか…と考えているときに、同業の友人のある言葉を思い出した。
3000円以上の人文書に目をつけた万引きはおそらく換金が目的だ。
以前なら換金目的の万引きは盗んだ本を古書店に持ち込んでお金に換えていた。しかし同業の友人によれば、今や「換金方法」は大きく変化している。彼が言うには「(万引きは)今は古書店にいかずにメルカリなどインターネットの個人売買サイトでお金にしている」とのこと。
私はひらめいた。その場でメルカリを自分のスマートフォンにダウンロードした。アプリを起動して新規登録を済ませてログインすると、さっそく万引きで盗まれた本のタイトルを検索バーに書き込んだ。
すると、案の定、3件同じ本の出品の写真が現れた。その一つをタッチして出品情報を見ると出品されたのはつい最近のことだった。
そのまま出品者の名前をタッチすると出品リストが現れる。そこには多くの人文書の写真が並んでいた。価格はだいたい定価の3割引きほどだ。赤くSOLDOUTと表示されたものも多く、さらには、一度売れた本が、その後さらに2回も再出品されるという奇妙な取り引きの履歴もあった。

下へとスクロールさせた画面を指で止めた。そこには、それまで私が勤める店から万引きされた人文書が何冊も並んでいる。
それだけではなかった。私はスマートホンを持ったまま、人文書ではなく文芸書の棚の前へ向かった。
少し前に棚に出した覚えのある本を探したがやはりその本は無くなっていた。もちろんスリップもない。それと同じ本が、アプリの画面上にSOLDOUTの文字とともに表示されている。なるほど、人文書だけでなく文芸書までも万引きされていたのだ。
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このユーザーの出品リストは個人の出品にしては不自然だ。同じ本が3回にわたって出品されていたり(全て販売済み)、リクエストに応えての「限定出品」という形で特定のアカウントだけが購入できるような出品があった。それらは新刊書店に並ぶ本の価格からほぼ3割引きの価格だった。
書店の本の仕入れ原価はだいたい定価の7割から8割で2割程度が利益となる。たとえばリクエストに応えて本を仕入れるとしても、このアカウントはどこから仕入れるのだろうか。個人で書籍を7割以下で仕入れることはほぼ不可能である(ただし特定のポイントを使用して正規に購入して転売することもある)。
しかし、限りなくクロに近いとはいえ、これだけで本当に自分の店から万引きしたものかはわからない。100%、そのアカウントが万引き犯だとは言い切れない。出品者の住所こそ明記されていないが発送元の表記は西日本のとある県になっていた。
そこで自分で作成したアカウントに店の所在地を明記してその出品者をフォローした。「この住所、身に覚えはないか?」くらいのニュアンスだ。またフォローすることでこの出品者が次に新しい本を出品すると通知が来るようになり、万が一また万引きが発生した時には照らし合わせることができると思ったのだ。
店では、その後も引き続き被害のあった人文書の棚の写真を毎日撮り続けた。しかし、1週間、2週間、1ヶ月経っても、本は盗まれなかった。
例の出品者がこちらのアカウントの住所に気付いたのか、それとも実は別に万引き犯がいて、店を訪れたときに毎日棚の写真を撮影するスタッフを見たのか。ハッキリとしたことは言えないが、前者の可能性は高いだろう。
確かなのは万引きが止まったということである。

万引き・ロスについて全国小売業へのアンケートをまとめた「全国小売業不明ロス・店舗セキュリティ実態調査」の平成30年の分析報告書(調査:特定非営利活動法人 全国万引犯罪防止機構)によると、万引きされた商品の処分先として判明しているのは、「書籍・文具」では「中古品店」(38.6%)、その次に「インターネットフリーマケット」(7.2%)「インターネットオークション」(6.5%)「インターネット通販」(4.65)と続く。
しかし無回答が51%もあることを考えると、万引き被害品について換金方法まで把握している企業はかなり少ないのではないか。換金方法を把握することは万引きする動機を知ることであり、その動機、目的を断つことが最も重要な万引き防止策であると私は考えている。
若年層によるゲーム感覚の万引きが多くを占めていると思われていた時代は遠い昔。換金方法は中古販売店など実店舗への売却だけでなく、いまではインターネットでの売買を利用することができる。インターネットによる売買は匿名での取り引きも可能なため容易に盗品を個人で換金することが可能なのである(チケットや限定品などの転売も問題になっている)。
残念ながら同報告書には万引きの動機についての調査報告はなされていないが、これらの換金方法の実態を小売店が把握し、中古品店や各インターネット売買サイトと連携をしていく方法を構築していくべきではないだろうか。
たとえばインターネット売買のサイトは、小売店が盗難被害にあった商品情報を簡単にサイトへ報告できるようにして、被害地域と出品者住所、盗難品と出品商品、被害時期と出品時期を照合し盗難の可能性がある出品者をマークするような仕組みなどはどうだろうか(当然ながらこの場合、冤罪には十分に慎重にならなければいけないが)。
結果としてインターネット売買サイト各社もクリーンな取引の場となり、また出品者は顧客の信頼を得られるはずだ。
また実際に書店間の連携も進んでいる。現在「渋谷書店万引対策共同プロジェクト」では別法人である渋谷の3書店が万引き犯の情報をプロジェクト事務局に集約し、3書店で顔認証情報を含め共有して対象者の来店に対して警戒できるようになっている。
ほかにも、万引による被害品の損失だけでなく販売時に得られたであろう利益の損失や万引き犯への対処により発生した人件費などの損失も発生するため、万引きをした窃盗犯に対して損害賠償請求を行っている書店もある。

今回、私がSNSでつぶやいた、以上のような万引き抑止方法について、多くの人から犯人の特定や追及を促すコメントがあった。見せしめにすることで抑止になると。
ただ20年以上書店で仕事をしてきた私としては、万引きを捕まえて警察に届けたとしてもあくまでその犯人の万引きを止めたに過ぎず、いまだ捕まっていない万引き常習犯にとっては「そいつは運が悪かっただけ」くらいにしか思っていないのではないかと考えている。
自分の店で万引きを防止するのならば、「この店は万引きするのが難しい」と思わせることで万引き常習者が近づけない店を作り続けるしかないのである。今回のような抑止方法も含めて万引き防止策を小売店が共有し、万引きをさせない強い意志を持った店が一軒でも増えることが重要なのではないだろうか。
最後に、私の行った万引き犯の特定は、あくまで相手に気づかせ抑止するまでである。犯人の特定などは警察の仕事なので、被害の怒りに任せて出品者を不用意に追及しないようくれぐれも慎重に対処していただきたい。
参考資料:「第21回 全国小売業不明ロス・店舗セキュリティ実態調査分析報告書 平成30年6月」発行・特定非営利活動法人 全国万引犯罪防止機構