優しく柔和な表情の中に、りんとした気品をたたえた女性を演じ続けた八千草薫さん。「どんな役も賭けであり冒険。未知の世界に行って、新しい発見をしたい」。そんな言葉通り、新たな仕事に挑戦し続けた。
2013年、58年ぶりに映画に主演した「くじけないで」。90代の女性を演じ、「普段は背筋を伸ばすよう努力しているのに正反対。加減がつかめなくて」と、82歳にして楽しそうに「年上」の女性を演じる難しさを語っていた。
「静かで悲しいだけの役は苦手」と、ほほ笑みを絶やさなかった八千草さん。「暗いことも明るく表現しちゃう大阪人気質かも」といたずらっぽく話した。
膵臓(すいぞう)がんの治療を受けた後の昨年夏、「また新しい発見のある芝居になれば」と3度目の「黄昏(たそがれ)」の舞台に立った。「80歳になった頃から、これが最後の仕事になるかもしれないと思ってやっています」と明かし、「でも、それでまた次やれるとね、ああ、うれしいな、ありがたいなと思うんです」と、演じられる喜びと感謝を語っていた。
今年は友人の脚本家、倉本聰さんが手掛けたテレビドラマ「やすらぎの郷」の続編「やすらぎの刻(とき)~道」に、引き続き往年の大女優役で出演予定だったが、1月にがんの転移が見つかって降板を発表した。
「体調を整えまして、より一層楽しんでいただける作品に参加できるように帰ってまいります。どうかお許しくださいませ」。静かな女優魂を燃やし続けた88年の生涯だった。