私有地侵入、芸舞妓追いかけ…インバウンドの「迷惑行為」に祇園辟易

2020年東京五輪・パラリンピックまであと1年を切り、ますます増加が見込まれるインバウンド(訪日外国人観光客)。
経済効果が期待される一方で、国内の観光地では、押し寄せる人々が住民の生活に影響を及ぼす「観光公害」への対策が急務となっている。インバウンド人気も高い京都・祇園では今秋から、観光客のスマートフォンにマナー順守に関する情報を自動配信する実証実験が始まるが、果たして効果は。(小川恵理子)
「観光地とちがう」
お茶屋や飲食店が多く立ち並ぶ京都・祇園(京都市東山区)。中でも市道の花見小路通は、老舗お茶屋などが軒を連ねる京都の花街文化の中心地だ。
そんな歴史情緒あふれる町には、数年前から町並みを撮影したり、散策したりする外国人観光客が急増。道幅いっぱいに広がって歩いたり、道路の真ん中で立ち止まって撮影したりと迷惑行為に及ぶ観光客も少なくなく、中には、お座敷に向かう芸舞妓(げいまいこ)を追いかけてむりやり撮影するケースもあるという。
「『花見小路に行けば舞妓さんに会える』と海外のガイドブックに紹介されていますが、祇園町は観光地とちがいます」。お茶屋や地元住民らでつくる「祇園町南側地区協議会」の高安美三子会長は、そんな行為に眉をひそめる。
地元は啓発活動も
事態を重く見た同協議会は京都女子大(同区)と協力して、啓発看板を設置するなどの対策をしてきた。昨夏には、同協議会の会員260軒を対象に実施した迷惑行為に対するアンケートを実施。喫煙やゴミのポイ捨て▽私有地への無断立ち入り▽提灯(ちょうちん)や格子戸の破壊-など「観光公害」の実態が浮かび上がった。それをもとに今年3月、市に改善を求める要望書を提出。6月には、市や同協議会、学識経験者らでつくる検討委員会を発足させた。
6月11日の第1回の会合では、観光庁による実証実験が提示された。主導する国土交通省近畿運輸局によると、花見小路通やその周辺を訪れる観光客のスマホに、私有地への立ち入りや芸舞妓へのつきまといの禁止など、マナー順守の情報を多言語で一斉に自動配信するという。具体的な方法は未定だが、外国人観光客にマナーなどの理解度を尋ねるアンケートを実施した上で、早ければ10月からの実施を目指す。
同局の担当者は「各機関がマナー啓発に取り組んでいるが、地域が抱える問題の根本的な解決につながる特効薬がない状態。技術的な課題などを確認し、他地域への展開なども検討したい」としている。
観光客の抑制も
海外の観光地では、「観光公害」に悩まされた結果、観光客数を抑制させる方針に転換する国もある。
日本総研(東京)の調査などによると、大型クルーズ船が寄港するベネチア(イタリア)では港湾内の水質汚染や悪臭問題が顕在化。漁業にも影響が出てきたため、入港制限などの対策をとった。
騒音や混雑などが問題となったバルセロナ(スペイン)では、市が進める観光政策の是非が市長選の争点にもなった。その結果、市街地中心部でのホテルや飲食店の新規開業を禁止し、観光客を市中心部から近隣へ誘導することに。それでも民泊物件の急増で市中心部の宿泊客数は減らず、不満を抱いた市民らによるデモや観光客の排斥運動などに発展した。
観光客が期待するのは観光地に根付く文化や歴史だが、その担い手は実際に住んでいる市民だ。観光公害は市民と観光客との分断を生みかねない。龍谷大国際学部のデブナール・ミロシュ講師(社会学)は「観光政策は、世界的に誘致からマネジメント(管理)へとシフトしている。特定の地域だけで問題に臨むのではなく、国全域での政策の適切化が求められているのではないか」としている。