マツダのEVは何が新しいのか?(後編)

さて、前編では、MX-30が優しいクルマに仕上がっていることを書いた。だとすればデザインはどうなるべきなのだろうか? それがこの後編のテーマなのだが、おそらくMX-30のデザインを見た読者諸兄は、同じシャシーを共有し、一番近しい関係にあるCX-30とだいぶテイストが違うことにすでに勘づいていることと思う。

モーターショーの会場で、マツダデザインのボスである前田育男常務に率直に聞いた。「MX-30は魂動デザインなのか?」。前田氏の答えはYes。ただし形の目指すものは、第7世代の魂動デザインとは違うという。

陰影の緊張感
第7世代の魂動デザインを極めて単純化すると、ドアの凹面に映り込む景色の変化をモチーフにした光の反射デザインであり、それは谷崎潤一郎がいうところの『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』が指し示す、淡い光と漆黒が表す世界感である。

しかしながら優しくたくましいMX-30の走りのキャラクターに対して、第7世代の陰影デザインは緊張感がありすぎると前田氏は言う。第7世代のデザインは引き算のデザインで、とにもかくにも余分な要素をそぎ落としてそぎ落として、陰影以外の要素をあらかた消し去ったところに立ち位置を見つけ出した。MX-30ではその陰影も引いてみようと考えた。陰影と共に緊張感を消した。そこに残ったのは優しくて健全なある種の健康優良児のような姿だった。

まずは第7世代のCX-30の真横の写真を見てほしい。例えば子供に絵を描かせた場合、クルマの形はいくつかの箱を組み合わせたような形になる。フロントセクションとキャビンとトランクの場合もあれば、レンガのような土台の上にキャビンがちょこんと乗るケースもある。こどもの純真な目にはものの形はそう見える。魂動デザインはそこがもう少しひねくれている。

卵のように全部でひとかたまり。イメージとしては生き物の筋肉であり、頭と背骨を持つ造形にそれぞれ筋力が表す機能が盛り込まれる形だ。そういう全体形をまとめ上げるために陰影が必要だった。

ではMX-30はどうなったかといえば、これはもう明らかに建築的な形になっている。前後のホイールアーチ上部を前後に梁(はり)でつなぎ、ボンネットからテールレンズの上まで前後に一直線のアンダーボディを構築した。その強度感あるアンダーボディに対して、小さく軽やかなキャビンを乗せる形だ。

上下に厚ぼったくなって軽快感を失わないように、ボディの下半分をブラックアウトして黒子にした。「ここは見ないでね」というサインだ。

ただこれを徹底するには、Aピラーの付け根をサイドウインドー下端と本当は揃えたかったのだが、そこの高さを揃えるとノーズ部分の力感が不足して弱くなりすぎる。SUVにとってフロントのたくましさは重要な要素なので、そこはボンネットラインをAピラー部分でZ字状に折り返して幅木の役割を持たせることにした。

それを受けてCピラーにはメッキのガーニッシュが入る。リヤサイドウインドーの後端の形を見れば明らかなように、ここはあとから思いつきでガーニッシュを入れたのではなく、デザインのかなり根幹の部分で、上下を繋ぐ糊代としての機能が与えられているのだ。

ノーズ部も、CX-30に比べて穏やかに仕立てられている。例えばヘッドランプはCX-30ではキリッとした切れ長のつり目だが、MX-30ではもっと穏やかでつぶらな印象。メッキのガーニッシュも廃止して、塗色部分を推し出し、薄い縁取りが作り出す緊張感を排除した。

2つの世界線に共存する魂動デザイン
全体としてはとても穏やかで大らかなデザインとなっている。以前前田氏に、マツダのデザインには「癒やし」の要素がありませんねぇと言ったことがあるが、今回のMX-30を見ると、ここには明らかに癒やしの要素がある。

どうしてこういうデザインになったのかを前田氏に尋ねると、「これまでの魂動デザインはとにかく求心的に純化する方向へ進んでいましたが、一度そこを離れて、外へ広げて行くことを試しています。それによって魂動デザインに幅が出ていくのです」と答えた。

つまりMX-30のデザインは、一連の魂動デザインにとって差し色の役割を果たすもので、補完的立ち位置にあるものだといえる。同じ引き算の中で、緊張感と陰影を強烈な個性として際立たせる翳のデザインと、ニュートラルで自然な立ち位置を示す光のデザイン。それは鏡の向こうとこちらに分かれた、平行世界の2つの魂動デザインだといえるだろう。

面白いのは、MX-30のデザインには工業製品としての圧倒的な明るさがあることだ。初代デミオのように日差しが燦々と降り注ぐようなこういうデザインは、しばらくマツダにはなかった。これもマツダである。

インテリアは基本的にはCX-30あるいはMazda3と同一線上にあるものだが、センターコンソールの作りを変えてある。コンソールを空中に浮かんだように見せる手法が取られており、従来にない開放感が存在する。また、二段構えになったコンソールの下段は、コルクが用いられている。マツダの前身である東洋工業創立時はコルクの製造会社だった。そこをフィーチャーした素材選びは面白い。また素材に関しては、ドア回りのトリムにリサイクル繊維を用いた、テキスタイルを使うほか、シート表皮も天然繊維のイメージが生かされるなど、EVの本領であるエコを随所にイメージしたものになっている。

さてMX-30が大ヒットすることは難しいかもしれない。いずれにせよEVは今のところ、個人所有に向けては時期尚早感が拭えない。しかしそれを少しでも軽減し、かつ脱化石燃料とCO2削減に真面目に取り組んだマツダの姿勢は、立派だと思う。しかも乗って楽しい。

より多くの人が、実際にこのマツダのEVに触れて、試してみる機会があれば良いと心から思うのだ。

(池田直渡)