毎月小遣いをもらう子供はいずれ”社畜”になる

金融広報中央委員会「子どものくらしとお金に関する調査」(第3回・2015年度調査)によると、小学生・中学生・高校生の7~8割が小遣いをもらっている。学年が上がるほど「月に1回」が多くなり、金額も増えている。注目すべきは、中学・高校生の7~8割が小遣いをもらうために「何の前提条件もない」と答えていることだ。
こういった定額小遣い制にNOと言うのが、40万部突破のベストセラー『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)の著者で、元メガバンク支店長の菅井敏之氏だ。
「これは年次が上がれば、自動的に給料も上がるという典型的な年功序列型の考えです。30年前の日本ならいざ知らず、今はそんなに甘くありません。仕事のパフォーマンスに応じた対価が給料、あるいは成果としてもらえる時代です。年次が上がれば、もらえるお金が増えるわけではなく、本当に稼いで貢献しないともらえない。そのなかで、新しい年がくれば、もらえる金額が増えるという定額小遣い制、まさに年功序列的な小遣い制はあまりいい方法とは言えないですね」
とりあえず従順に働いていれば、給料はもらえる。年齢を重ねれば、なんとなく給料は上がる。だから、命令されれば残業もする。そんな社畜的な社員は今の時代、肩身が狭くなる一方だ。
それと同様に、1年が経過して進級・進学するだけで自動的に小遣い額が増える仕組みを当たり前だと思っている子どもは、社会人になってもそんな緩くてズルい考え方から抜け出せず、ただ会社に籍を置くことに必死で、それにしがみつくようになってしまうリスクがある。同期入社でも実績次第で、大きな給与格差が出る企業が増えている中、そうした人材を企業は雇用し続けるだろうか。
菅井さんは「教育の基本は、子どもを自立させること」と言い切る。
「いい学校に行かせて、いい会社に入れることが教育と考えている人が多いですが、そうではありません。教育の真の目的は自立、つまりちゃんと子どもが自分で食べていけるようにすることです」
自分で食べていける人間になるには、お金の教育は切っても切り離せない。ならば、小遣いも年次が上がるごとに増える定額制ではなく、働きに応じてもらえる報酬制にしたほうがいい。
菅井さんはこれからの社会では「稼ぐ力」「管理する力」「受援力」という3つの力が必要になるという。小遣いを定額制ではなく報酬制にするという考えは、このうち「稼ぐ力」に該当する。
「お金とは、何か困りごとを自分の経営資源で解決したときにもらえる対価です。ですから、小遣いが欲しいなら、例えばの話、おじいちゃん、おばあちゃんの家の不用品を処分する、近所の庭の草むしりをするなど、人の困っていることをいち早く発見して、それを解決して“お駄賃”という形で、お金を自分で稼ぐべきなのです」
菅井さんの銀行支店長時代に、新卒ながら何かと細かいことに気がつく、いわゆる気働きのできる社員がいた。本人に聞いてみると、子ども時代は定額小遣い制ではなく、報酬小遣い制だったという。そうした事例はほかも数人いて、子どもの頃から率先して働いてお駄賃をもらった経験が、稼ぐ力につながっていると菅井さんは確信したそうだ。
「ただし家の手伝いには報酬は発生しません。それは、家族の成員として当たり前のことだからです。とはいえ、言われずにやったら50円、大掃除したら100円、と各家庭でルールを決めて、ふだんの手伝いを超える仕事については、小遣いをあげてもよいかもしれません」
そんなふうに人の困りごとを解決することで稼いだら、今度はそのお金の使い方や貯蓄方法を教えることが大切だ、と菅井さんはいう。
「子どもにお金をそのまま持たせていると、単にゲームを買っておしまいになってしまうことが多いでしょう。でも親としては、もっと賢いお金の使い方を教えたい。つまり何か物を買うときは、買って終わるものではなく、買ったらそこから新しい何かを生み出すものを買うべきであるということ。私の考えでは、買って終わりのものは単なる浪費で、新しく生み出すものは投資です」
コツコツ貯める習慣も重要だ。
「いつか欲しいものが出てきたときに買えるように、貯金しておくということです。収入が入ったら、そのうち2割は先にとって貯金をさせる。それで残ったお金で暮らす。収入-支出がいつもプラスになるようにする。この習慣を小さいうちからつけておくことが大切です。そのために、小遣い帳をつけさせてお金の流れを見える化するのがよいでしょうね」
ちなみに先の金融広報中央委員会の調査によると、自分の貯蓄が「ある」と答えた小・中・高校生は4~5割。「定期的に貯蓄している」中学生は約3割、高校生は約2割だった。また小遣い帳をつけているのは、小・中・高校生とも約2割となっている。
もし、子どもがストックしたお金で買えない高額なものを欲しがったときは「家庭内借金」をすることで管理する力を養うことができるという。
「借金をすると当然、金利が発生しますので、家庭内借金でも金利をつけます。延滞すれば、延滞利子もつけます。きちんと毎月、返済できるように、返済計画を立てさせましょう。取り立ては厳しく、そこに甘えやさらなる借金は許されません」
家庭内借金でまず教えたいのは、金利には単利と複利の2種類あるということ。単利は、当初の借入額の元本に利息が計算されるが、複利は元本に利息を足したものを新たな元本として利息を計算するため、単利と複利では時間がたつほどに大きな差が出る。
「貯金や投資であれば複利でどんどんお金は増えるけれど、借金ではその逆で雪だるま式にその額が増えていく。大変なことになるということを教えておきたいですね」
その怖さを教える際に有効的なのが、“72の法則”だ。これは、72÷金利≒手元のお金が2倍になる年数、というものだ。例えばリボルビング払いの金利を18%とすると、72÷18=4、つまり4年で元金が2倍になる。
「金利の話を交えて借金をすると、こんなに余分にお金を払わなきゃいけないんだ、返せないとどんどん借金は増えていくんだ、そして信用や信頼を一気に失ってしまう、そういうことを疑似体験させるわけです。そうすると、子どもは『あぁ、借金するんじゃなかった』と身をもって実感するわけです。そういった借金で起こりうるリスクを、子どもに経験させる。できたら実際に失敗させる。そうしたプロセスの中で子どもはお金のリテラシーを学んでいくのです」
家庭内でのこうした疑似体験することで、わが子が安易に借金をしない大人へと成長するのだ。
「稼ぐ力」「管理する力」と合わせて、最後にしっかりと伝えておきたいのが3つ目の「受援力」だ。
「受援力というのは、人から応援される力です。この力を持っている人は、社会でどんどん成功します。いまは物事がどんどん専門化し、なかなか自分ひとりの力で稼ぐことが難しい時代。そのときに、いろいろな人の力を借りて解決できる人は、チームの力で成功できるんです。反対に、誰にも頭を下げられず、一人で抱え込んでしまう人は自滅してしまうのです」
菅井さんはこの受援力を養うには“丁賞感微(ていしょうかんび)”が大切だという。
・丁(低)=いつも丁寧に、頭を低くして初心を忘れず
・賞(褒)=相手を誉め、尊敬していることを伝える
・感=感謝の気持ちを忘れずに
・微=いつもニコニコ笑顔を絶やさず
「お金持ちはいつもニコニコ、腰が低くて、人のことをほめるし、ありがとうって言いますよね。子どもに教えるなら、まず『ありがとう』という言葉でしょうね。たとえば、お正月に祖父母からお年玉をもらったら、『これはお正月だから当たり前にもらえるもんじゃないよ。お前がいつも元気でおじいちゃん、おばあちゃんって気にかけているからもらえるんだよ、ありがたいことだよね』と親が通訳しなければいけないでしょうね」
以上、3つの力を意識しながら、小さい頃から子育てをすると、子どもには次第に「自分でも稼げる」という意識が芽生えてくる。まずは定額小遣い制は廃止することから始めてはどうだろうか。
「自分のしたことが人に喜ばれた、人の役に立ったという成功体験を積んできた子は、自然に自己肯定感が高まります。社会で成功している人は、たいてい自己肯定感の高い人です」
定額小遣い制の廃止は、子どもを自立した大人に成長させ、社会で成功させることにつながるはずだ。
———-菅井 敏之(すがい・としゆき)コンサルタント・元メガバンク支店長元メガバンク支店長、不動産投資家。1960年、山形県生まれ。学習院大学卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。神奈川、東京の支店長を経て48歳のときに退職。不動産賃貸事業に力を入れる。2012年、東京の田園調布にカフェ「SUGER COFFEE」(スジェール・コーヒー)をオープン。現在は、元メガバンク支店長、不動産投資家として成功した経験を活かし、「お金の町医者」として全国の講演会で講師として活動するほか、テレビ・ラジオ等にも多数出演。初の著書『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)は、40万部突破のベストセラーに。最新刊『あなたと子どものお金が増える大金持ちの知恵袋30』(集英社)は、親子で学べる最高のお金の指南著。公式サイト:http://www.toshiyukisugai.jp/———-
(コンサルタント・元メガバンク支店長 菅井 敏之 取材・構成=池田純子)