漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の作者、故・水木しげるさんの出身地で、妖怪によるまちおこしに取り組む鳥取県境港市が「水木しげる記念館」の再整備の検討に入った。同館は妖怪のブロンズ像が並ぶ観光スポット「水木しげるロード」の中核施設だが、平成15(2003)年の開館から16年が経過し建物の老朽化が目立つためだ。市は検討委員会を立ち上げ、移転新築や現地での建て替えなどの整備方法を検討しており、今年度中に方向性を示す方針。
黒字経営続く
10月中旬の昼下がり。木陰のベンチにゲゲゲの鬼太郎の人気キャラクター「砂かけばばあ」の着ぐるみが座っていた。「怖い」。通り掛かった観光客から悲鳴が上がる。JR境港駅前から延びる全長約800メートルの水木しげるロード。177体の妖怪ブロンズ像が並び、妖怪の着ぐるみが出没する。夜間照明の整備や歩道の拡幅などのリニューアルが行われた昨年は、過去4番目に多い約274万人の観光客が訪れた。
ロード東端に位置するのが市が運営する水木しげる記念館だ。水木さんの81歳の誕生日の平成15年3月8日に開館した。2階建てで延べ床面積は約1140平方メートル。水木さんの代表作の原画や直筆の壁画のほか、妖怪のオブジェやジオラマなどで水木ワールドの魅力を紹介している。
建設に着手した13年度から30年度までの建築費や維持費など支出の累計額が約16億8千万円なのに対し、入館料などの収入の累計額は約22億7千万円。運営費を入館料などで賄う黒字経営が続いている。
記念館を素通り
妖怪による境港市のまちおこしは5年に始まった。当初は「ただでさえ人が少ない場所に妖怪やお化けは縁起が悪い」といった声も少なくなかったという。
ロードの知名度を高めるきっかけとなったのが妖怪のブロンズ像が破壊された事件。全国で報道されたのをきっかけに観光客が訪れるようになった。
記念館の開館はロードができて10年後。妖怪の像が増えるにつれて記念館の来館者も増加。22年にはNHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」の効果もあり、過去最多の約41万人が同館を訪れた。
ただ、その後は次第に沈静化し、29年には約17万人に減少した。また、開館当初はロード来訪者の2割以上が来館していたが、現在は約1割にとどまっている。ロードがリニューアルでにぎわいを増す一方で、記念館を素通りする観光客が増えている。
水木しげる記念館の庄司行男館長は「水木さんの人となりを知ってもらい、作品に興味を持つ人を増やしたい」と力を込める。
老朽化、スペースも不足
こうした中、同館の建物や設備は老朽化し、耐震化が必要となってきた。
もともと同館は100年以上の歴史を持つ料亭を改装して造られた。そのため、ひさし部分の雨漏りなどの劣化が見られ、給排水のつまりや照明器具の老朽化が進む。
また、慢性的に所蔵庫が不足し、打ち合わせのスペースもないのが現状だ。
このため市は今年9月、観光や建築の関係者らで「水木しげる記念館あり方検討委員会」を設置。これまでの協議では、部分修繕▽一部建て替え▽解体・新築▽移転新築▽解体・撤去(廃止)-の5案が示された。
これらの案を比較した場合、部分修繕や一部建て替え、解体・新築は、移転新築に比べて費用を安く抑えることができるが現在の記念館をいったん閉館する必要がある。一方、移転新築は事業費が最も高くなるが閉館せずに整備することが可能となる。もちろん「廃止」は現実的ではない。
検討委員会は記念館に関するアンケート結果などを踏まえ、来年3月末までに整備方法や展示内容の方向性を市に提言する予定だ。