「悪い夢見ているよう」 首里城焼失に市民ら落胆

沖縄のシンボルが炎上した。31日未明、那覇市の首里城正殿から上がった火の手は瞬く間に周囲の建造物をのみ込み、北殿や南殿なども焼け落ちた。琉球王国の政治や文化の中心として栄え、沖縄戦での焼失を経て復元された首里城はウチナーンチュ(沖縄の人)の心のよりどころだった。「悪夢だ」「信じられない」。多くの市民が闇夜に高々と燃え上がる炎をなすすべもなく見上げ、悲しみに暮れた。【遠藤孝康、杣谷健太、中里顕】
池越しに望む首里城の鮮やかな景色で知られる首里城近くの池「龍潭(りゅうたん)」には、火災の一報を聞いた市民らが未明から次々と駆け付けた。その一人、安村文代さん(75)は地元の首里高校を卒業し、再建の様子も見続けてきた。「首里城は沖縄の誇り。シンボルがなくなってしまった」。夫の両親は戦前の首里城で結婚式を挙げたほどで「家族の思い出も詰まっていたのに」と落胆した。
首里で生まれ育った自営業の仲村理(おさむ)さん(52)は、火災現場が見える場所までバイクを飛ばし「悪い夢を見ているようだ」と絶句した。首里城では今週末、琉球王国時代の様子を再現した「古式行列」などが予定されていた。「首里の人にとっては年に一度の楽しみで、毎年見に行っていた。地元の自慢の世界遺産。生きている間に再建されるのだろうか」とショックを隠しきれない様子だった。
近くの会社員の女性(45)は午前3時過ぎに消防局員がマイクで避難を呼びかける声で目が覚めた。「自宅の屋上から見ると、竜巻のように炎が巻き上がっていた。『ボンボン』という建物が燃える音も聞こえた」と出火直後の様子を語った。「震えが止まらない。戦争やいろんなことを耐えてきた沖縄の人にとって首里城はシンボルだった。みんな再建される首里城を見ながら、頑張って生きてきた」と話し、目に涙を浮かべた。
2000年に世界文化遺産に登録された首里城跡は、年間300万人近くが訪れる沖縄観光の中心地でもある。県外客からも嘆きの声が聞かれた。年に数回は沖縄を訪れるという東京都日野市の藤戸毅彦さん(53)は首里城近くの公園から火災の様子を心配そうに見つめた。「琉球の歴史に関心があり、昨年10月にも首里城を見学した。日本と中国双方の文化を感じられ、興味深い建物だった。せっかくここまで再建できたのに、悲しい」
市民からは今後の観光への影響を懸念する声も上がる。火の粉が舞う南殿の近くで火災の様子を見つめていた近くの無職の男性(69)は「長い時間をかけて再建した県民の誇りだったのに。観光や経済に大きな影響が出るだろう。基地問題で政府と県が対立している中で再建はされるのだろうか」と肩を落とした。首里城近くで化粧品販売会社を30年近く営む野原ゆき江さん(58)は「琉球のシンボルである正殿などが復元されたことで、国内や中国、台湾などの観光客がどっと増えた。今後にぎわいがどうなるのでしょうか」と気をもんだ。