ある飲食店オーナーがSNSに投稿した“点数操作疑惑”をきっかけに、次々と不満が噴出。グルメ情報サイト・食べログに批判が集まっている。なぜ食べログは嫌われるのか。飲食店の主張を聞くとともにその原因を探った。
◆口コミなのか宣伝か。ビジネスモデルの矛盾が疑惑を生む
国内最大級のグルメサイト・食べログに今、疑惑の目が向けられている。ことの発端は10月5日にTwitterに上げられた飲食店オーナーの投稿。「うちの店、評価が3.8になって喜んでたら、次の日急に、クチコミ数は変わってないのに、評価だけ3.6に下がっていた。そしたら、食べログから電話きて、年会費払えば元に戻すし、評価を上げるって言われた」。
この投稿が拡散されると「食べログの評価がお金で買えるのは飲食業界あるある」「お金を払えば悪い口コミを削除するという営業を受けた」など、飲食店の不平不満が多数噴出、大炎上した。4日後の9日には、公正取引委員会が複数のグルメ情報サイトの実態調査に乗り出すと発表した。この騒動に対し、食べログを運営するカカクコムは自社HP上で「有料サービスの加入によって飲食店の点数やランキングが変動することは一切ありません」との旨の見解を示し疑惑を完全否定している。
火のないところに煙は立たないと言うが、実名で食べログ被害を訴える人がいるのも事実だ。
◆反逆の狼煙を上げたアンチ食べログ飲食店
東京・吉祥寺のタイ料理店「クゥーチャイ」のオーナー・深津飛成氏はこう話す。
「食べログ本部に有料掲載を断った翌日に評価が3.8から3.4に下げられ、80件近くあった口コミも60件台に減りました。後日、本部の説明は『採点基準の変化』と『正確性を欠く古い口コミは削除』。しかし、近隣のタイ料理店の口コミ数や評価はまったく変動しておらず、理由を聞いても『わからない』の一点張りなんです。
私の店の評価や口コミ数に関しては説明できるのに、他店のことは一切不明。それでも懲りずに有料会員の勧誘って。厚顔無恥にもほどがあります。
有料プランと同額の月額3万円を支払う代わりに店舗情報の掲載削除を依頼しました。でも、本部の答えはNOでした」
広島県にあるラーメン店「中華そば矢野家」の店長・矢野孝二郎氏も嫌悪感を露わにする。
「連日、複数の代理店から営業の電話が鳴りっぱなし。正直、営業妨害に等しい。何度断っても『有料会員になれば店舗情報を上位表示でき、マイナスの口コミを削除できる』というマニュアル一辺倒の営業トークなんです。人のフンドシで相撲を取ってお金まで徴収する。そんなアコギな商売には苛立ちしか覚えません。
神様にでもなったかのような、グルメ通気取りのレビュアーに迷惑している飲食店は多い。食べログにお金を払うよりアフリカ難民に寄付したほうが堅実ですよ」
◆飲食店にもユーザーにも誠実さを欠く
月間総ページビュー数は約20億4870万PV、月間利用者数は約1億1877万人を誇る食べログ。国内レストラン89万軒以上が登録され、総口コミ数は約3200万件(’19年9月現在/食べログ媒体資料より)。圧倒的な規模にもかかわらず、今回の騒動で擁護する声がほとんど聞かれないのは異常とも言えよう。
なぜここまで嫌われるのか。「飲食店にもユーザーにも不誠実」と指摘するのは、ファイナンシャルプランナーの中嶋よしふみ氏。まずは利用者側から。
「口コミサイトは本来、ユーザー側あるいは中立的な立場での運営が求められます。しかし、食べログは宣伝サイトでもある。サイトの『標準』ページで、有料会員の店舗が優先的に上位表示されるような広告を販売しています。
広告料を取ること自体は悪くないですが、口コミサイトを謳っている以上は矛盾でしかありません。広告料で表示順位が変わるページの存在を知らない多くの利用者が、『レビューの削除や掲載保留』『有料会員の優先的表示』といった店側に有利に働くサイト運営を目の当たりにしたら、裏切られた気分になるのは自然なことです」
◆飲食店側の問題は深刻
次いで飲食店側。お金が絡むゆえに問題は深刻だ。
「知らないうちに店舗情報を掲載されるうえ、評価基準が不透明かつ点数算出のアルゴリズム変更の告知が不十分となれば、飲食店側が食べログにいい印象を持つはずがありません。当然、問題が起きれば『広告料によって店の評価に優劣をつけているのでは』という疑念は必ず発生します。
このように食べログが飲食店や利用者から疑惑や不満を持たれやすい根本的な原因は、口コミサイトを名乗りながら、一方で飲食店に広告を売るという矛盾したビジネスモデルにあります。’16年にも『点数が意図的に操作されている』といった食べログへの疑惑がSNSで炎上しましたが、今回も同じ理由。食べログ側が過去から学ばず、脇の甘さを露呈したとも言えます」
フードジャーナリストのはんつ遠藤氏も企業姿勢を問題視する。
「ユーザーの誤った情報の修正を依頼しても、食べログ本部が応じないケースは多い。かつて『事実と反する内容を投稿された』として店が店舗情報の削除依頼をしても、食べログは拒否。最高裁まで争ったこともあるほど(最高裁は店側の上告を棄却)。こうした不誠実な姿勢にオーナーや店主は怒りを覚えています」
広告代理店の存在、これも食べログが炎上する火種の一つだ。
「食べログでは、レビューの本数や閲覧者数などによって投稿者の点数の影響度が変わるようになっています。そこで、影響力の強いレビュアーに飲食店で飲み食いさせて高評価のレビューを書かせる。そして店側からお金を受け取るといったビジネスをする企業や代理店が後を絶ちません」(はんつ氏)
大手グルメサイトの社員は、知人の飲食店オーナーに頼まれ、食べログの営業現場に同席したときのことをこう振り返る。
「売り上げが伸びない場合の返金保証や、『他のグルメサイトとの違約金を負担するので食べログに乗り換えてほしい』といった強引な営業には驚きました。身勝手な営業に嫌気が差している飲食店は多く、オーナーからクレームを言われることもあるので困っています」
ビジネスモデルに問題のある食べログだが、掲載店舗数や総口コミ数は魅力だし、使い勝手も良い。点数や口コミの答え合わせをする食べログ信者にならず、心が震える“食”との出合いを楽しみたい。
【ファイナンシャルプランナー・中嶋よしふみ氏】
シェアーズカフェ代表取締役。Webサイト「シェアーズ・カフェオンライン」編集長。著書に『住宅ローンしあわせな借り方、返し方』(日経BP社)など
【フードジャーナリスト・はんつ遠藤氏】
これまでの取材件数は8000店超。ご当地やきとりテイスティングパーク「全や連総本店 東京」の名誉館長。著書に『東京 やきとり革命!』(ポプラ社)など
取材・文・撮影/谷口伸仁
※週刊SPA!10月29日発売号より