国債は「手軽」で「安心」、元本割れなし――。
コクサイ先生と呼ばれる、個人向け国債のキャラクターをあしらった財務省の個人向け国債ページ。そこには「元本割れなし」としっかり記載されていた。
しかし、少なくとも民間の金融機関はそのような認識を持っていないようだ。
三井住友銀行の個人向け国債ページでは、ページの最上部に、「個人向け国債には元本割れとなるリスクがあります」との注記がある。その中身を確認すると、個人向け国債の発行体である国の財政難などにより、利払いや償還が遅延したり不能になったりする、いわゆるデフォルトリスクがある旨が言及されている。
通常、国と民間で、同じ金融商品の解説が真っ向から対立することは異常とも思える事態だ。このような表記の違いが発生しているのは一体なぜだろうか。
この点につき、経済アナリストの森永康平氏は「基本的に国が言っていることは正しい」と述べる。
つまり、財務省ページで述べられている「元本割れなし」とは、発行元の国が元本での買い取りを約束している金融商品であると示しているに過ぎないということだ。この意味においては、森永氏も「日本国に何かがない限りは、国が補償することは間違いない」と述べている。
一方で、それは「金融機関としての保証ではない」と森永氏は釘(くぎ)をさす。いくら国が支払いを約束するといっても、個人向け国債の発行体でない金融機関は、国の主張を鵜呑(うの)みにすることはできない。仮に、国の信用状況や財政状況が悪化したり、万一破綻したりすることなどあれば、国による元本での買い取りや利息の支払いは滞り、元本を割れてしまうということだ。
大手信託銀行の窓口担当者も、「元本割れリスクをどこまで厳密に捉えるかによって表記が異なる」と説明する。
なお、財務省が発行している個人向け国債のチラシには信用状況の悪化リスクが言及されており、国側でも、掲載媒体に応じて表記が若干揺れていることも分かった。国債というと元本保証というイメージが強いが、各所でいまいち煮え切らない表記となっている。その背景にはどのような要因が存在するのだろうか。
そもそも元本保証なんてなかった?
そもそも元本保証とは、どれだけ運用を続けていても元本が減少しない金融商品だ。その典型的な金融商品は現金といわれている。なぜなら、1000円札は、1000円の価値があり、額面的には目減りしないからだ。
その対極に存在するのが、不動産や株式だ。これらの金融商品は日夜価格が変動し、買った値段から価格が下落し、損失を被るケースもある。確かに、これでは元本保証であるとはいえない。
そう考えると、個人向け国債も同様に価格の変動は発生しないため、元本保証であるようにも思われる。
しかし、この分類はあくまで商品の価格変動というリスクのみに着目しており、そのほかのリスクが加味されていない。個人向け国債のリスクを検討する上で、忘れてはならないのは、信用リスクとインフレリスクだ。
まずは、信用リスクから検討してみよう。信用リスクとは、取引の相手先が破綻するなどして、当初の約束事が果たされないリスクだ。
個人向け国債には、額面での買い取り保証や利払いの保証があるものの、それはあくまで国と私たちの約束事にすぎない。つまり筆者が「読者の皆さんから1万円を借りて1年後に1万500円を返します」という約束とほとんど変わりがないのだ。
しかし、私のような個人との約束よりも、国との約束の方が信頼に足ることは明らかだろう。そこで、個人向け国債は信用リスクで見ても非常に低い金融商品として認識されているのだ。
一口に国債といっても、国によって信用リスクは異なる。信用リスクが高いトルコの5年国債の利回りはおよそ年率13.42%で、日本の個人向け国債の最低保証利率0.05%と比較して、実に268倍もの利回り格差がある。お金の貸し手の心理を考えると、いくら元本保証といわれても、借り手の信用度合いによって要求する見返りは変動せざるを得ない。国債の利回りは、その国が破綻するリスクの裏返しともいえるのだ。
結局、元本保証とは発行体が元本の保証を約束していることと、その約束が破られるリスクが低いということを表したに過ぎない。そう考えると、冒頭で取り上げた1000円札も、「国が滅びれば」という仮定をつければ元本保証ではない。
しかし、常に「国が滅びれば」という仮説をつけてしまうと何もできなくなってしまう。そのため、個人向け国債のリスク表記が媒体によって異なるのは現場による判断ということであろう。
元本保証型の商品で、むしろ重視しなければならないのはインフレリスクだが、これに関しては財務省でも民間Webページでもあまり取り上げられていない。個人向け国債にはインフレリスクによる「実質的な元本割れ」リスクもあり、注意が必要だ。
元本保証型商品に隠れたインフレリスク
インフレリスクとは預金や国債といった、現金に近い性質を持つ金融商品が、物価の上昇によって価値を失ってしまうというリスクである。
物価の上昇率よりも、運用している商品の利回りが小さければ、10年後に1万円が手元に戻っても、その1万円と利息では、10年前と同じものは買えなくなってしまう。
足元では、日本銀行が年率2%の物価上昇を目標として掲げているが、これが実現された場合、お金の価値が年率2%で目減りすることを示している。そう考えたときに、利回りが物価上昇率未満の金融商品に資産を預けてしまえば、実質的な元本の目減りが発生する。
元本が保証され、年率2%を達成できる金融商品はほとんどないといっていい。そうすると、今後インフレーションを見込むのであれば、資産構成を現金や国債などから、金などの実物資産・株式・不動産といった資産に一定程度振り分けて、リスクをコントロールし、物価上昇に強い構成にしていく必要がある。
政府が、つみたてNISAや個人型確定拠出年金(iDeCo)といった資産運用に税制優遇をもたらす政策を取っているのも、今後の物価上昇に家計が耐えられるような資産構成づくりをサポートするという意図があるのではないだろうか。
過度に元本を守ろうとして損害を被ってしまえば元も子もない。元本保証型の商品を語る上では、信用リスクだけでなく、インフレーションリスクまで踏み込んだ理解が求められる。
(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)