日本マイクロソフト(日本MS)は10月31日、「週休3日」などが軸となった取り組み「ワークライフチョイス チャレンジ2019夏」の成果報告会を行った。同会では、社員からのフィードバック、また経営視点から見た気付きなどが発表された。
登壇した手島主税常務は「当社が誕生してから45年、さまざまなサービスを提供してきた中でクラウド軸でのデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいる」と話し、「Vision 2020」として掲げるイノベーション戦略を説明。3つに共通する点を「人」として、「それぞれの創造性や関係性をどう変化させ、イノベーションの打率を上げられるかがテーマ」と語った。
同社では、07年に自宅勤務制度を開始したのを皮切りにさまざまな働き方面での改革を進めてきた。約10年間を経て、労働時間は60万時間も減少。1人当たりに換算すると2カ月分も減少し、社内で使用される紙の量は110万枚を削減したと発表された。ただ、各国のマイクロソフトと比較すると、まだまだ効率化は途上にある。例えば、メールに費やしている時間を見ると日本MSは24%も多くの時間を費やしている。また、会議に費やす時間も17%ほど多く、参加者も11%ほど多い。
こうした状況を踏まえ、18年末には新たに「業務と人材連携の可視化」「社員意識調査の蓄積と分析」などをテーマに掲げた。「働き方改革NEXT」と称した新たなアプローチで、さまざまな改善を試みている。今回のチャレンジは、その一環として行われた。
具体的には、会議の時間を30分に絞ったり、参加者を多くても5人までと推奨したりといったように会議を効率化した。また、8月限定で全社一斉に特別有給休暇を付与し、金曜日を休みとする「週休3日制の導入」などを実施した。一方で、制度面を整えたところで、実際に活用されなければ意味がない。同社における働き方改革の旗振り役である小柳津篤マイクロソフトテクノロジーセンターエグゼクティブアドバイザーは「制度を作ったけれど実行されないことは山ほどある。実行に移し、何を学ぶのかが非常に大事」と話す。では、一体どのような“学び”を得られたのだろうか。
「週休3日」で生産性は向上した?
効果測定では、12年から同社が価値判断基準として設定している「削減」「向上」「満足」から19年8月における各項目をチェックした。
削減面では、就業日数や印刷枚数、電力消費量などの項目を測定。「月あたり就業日数」では、週休3日制度の導入もあり、18年8月と比較して、19年8月は25.4%減少した。同制度は「利用の強制ではなく、あくまで選択肢を用意したもの」(手島常務)と強調されたが、ほとんどの人が制度を活用した形だ。「月あたり印刷枚数」では、「10年前と比較して93%減った」(小柳津氏)とされる16年8月と比較して、19年8月にはさらに58.7%も減少した。
ただ、何でもかんでも削減、減少させるだけでは成長することはできない。向上面ではどうだったのだろうか。「“8月”労働生産性」では、前年同期と比較して19年8月では39.9%もの向上が見られた。「各社員の責任範囲や営業目標は変えていない」(小柳津氏)中で、より効率的な業務へのシフトが進んだ形となった。広報担当者によると、「メールや紙の削減以外にも、営業ではお客さまのところからいちいち帰社してまた出掛けるのではなく、お客さまのところからお客さまのところへ移動するケースも増えた」と分析している。
仕事面に関する「For Work」、プライベートに関する「For Life」、社会貢献や地域活動に関する「For Society」の3項目について社員向けに実施したアンケートでも、おおむね肯定的な意見が目立った。ただ、For Societyでは「意識や行動に変化無し」と回答した人の割合が他の2つよりも高かったため、今後の課題として挙げた。
「不満を持つ社員が1割」をどう読むか
アンケートのフリーコメント欄では、9割近くの社員が肯定的な意見を述べる一方で、「極めて激しい不満や苦情」(小柳津氏)も1割ほどあったという。不満の原因としては、2つの構造的課題を挙げた。
1つは、「顧客先企業が営業している中、自分が休んでいる」という問題で、もう1つが「電話サポートなど、従事した時間に連動して業績が変わる人に対するフォロー」だ。顧客に対する課題については、より効率的な業務へシフトすることで解決を狙う。例えば、訪問した際のフィードバック共有を強化し、スピーディーにプロジェクトを進められるようにしていく。また、顧客の中には今回のチャレンジに賛同しているところも多く、打ち合わせをリモート化したり、取り組みの輪を広げたりすることで解決していく。時間に連動して業績が変わる部門については、交代制で休みを取るようにして、負担を和らげていく。
こうした不満については「『1割』という数字の読み方が重要。『1割しかいないんだからいいじゃない』ではダメ。多くの社員の経験や気持ちの中には表出しなかった不満があったはず。全員が納得しないと意味がない」(小柳津氏)と、今後は不満を抱える1割の社員を含めた全員が納得できる環境を構築していく考えだ。
手島常務は、「全社一斉に取り組むことには大きな覚悟が必要だった」としながらも、今回のチャレンジを通して経営視点から3つの気付きがあったと話す。1つは「若い世代の求める働き方の可視化」だ。ライフスタイルに対する考え方が世代によって変化しており、経営層に属する年代からは出てこないような考え方が可視化されたという。
2つ目は、「時間の使い方に関する社員の意識変化」だ。就業日数は減る一方で、業績目標は据え置かれたため、顧客との接し方や、日々の業務の棚卸しなどにより効果があったという。
3つ目が、「データの集積」だ。「経営として何をすべきかの材料が集まり、次の行動を起こすための準備ができた」と手島常務が話すように、ワークライフチョイスチャレンジは今回だけの取り組みではない。詳細は明かさなかったが、既に19年冬などにも同様の取り組みを行う準備が進んでいるという。次回も週休3日制を実施するかは不明だが、兼業や副業を絡めたものや、他社との連携などを軸に考えているという。
IT大手である日本MSの取り組みは、ともすれば最先端のもので、一般的な企業には関係ないと考えられるかもしれないが、週休3日制に関する質問などは既に複数社から問い合わせが来ているという。日本MSのチャレンジは、デジタル化を含めた業務変革の過渡期にある日本のモデルケースとなるのだろうか。