マツダ第7世代の2番バッター、CX-30が10月24日に国内発売となった。販売が始まったのは、SKYACTIV-G 2.0(ガソリン)とSKYACTIV-D 1.8(ディーゼル)の2種類のパワートレーン搭載モデルで、期待のSKYACTIV-X搭載モデルは年明け1月となっている(Mazda3 のSKYACTIV-Xは12月中旬発売予定)。
SKYACTIV-X発売延期の真相
Mazda3のときもそうだが、このSKYACTIV-Xの遅れを、設計に問題があったとする記事をいくつか目にした。筆者でも「この人が書いたら信じてしまう」ような人が、開発失敗のストーリーで記事を書いてしまっている。ちゃんとマツダに聞かずに記事にするのはいただけないが、説明の仕方にも問題はあったのかもしれない。
ご存じの通りマツダのSKYACTIV-Xのキモは、スパークプラグを利用した圧縮着火システムにある。マツダはこれをSPCCI (Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)と名付けた。点火プラグによってできた火球が、周辺の混合気を圧縮することで、混合気が圧縮によって温度臨界を超えて自己着火する仕組みだ。
この仕組みは基本的にノッキングと同じ。エンジニアリング的には、コントロールされているものは「燃焼」で、コントロールできないものを「ノッキング」と呼ぶ。つまり従来コントロールできなかったノッキング領域の一部を、コントロール下におけば燃焼となる。
SPCCIでは圧縮着火させるので、そもそもの燃料の性質は「ノッキングしやすい」方がいい。だからSPCCIには本来オクタン価の低いレギュラーが向いている。
ただし、全域となると少し話が違ってくる。高回転側では「自己着火するには反応時間が足りない」ためにSPCCIが成立せず、SI(プラグ着火)になる。これは今のマツダの方式を上回る全く新しい燃焼メカニズムができない限り、論理的には改善不能である。だからこの高回転域に限っていえば、従来のエンジン通りハイオクの方が望ましい。
そもそもSKYACTIV-Xは、自己着火を利用した超高圧縮比と希薄燃焼を使って燃費を向上させ、従来の希薄燃焼エンジンのような火炎伝播(でんぱ)のエラーによるくすぶりを起こさないことが眼目だ。結果的に低負荷域から中負荷域の燃焼効率が高まって、実用で多様する領域で、出力的にも燃費的にも優れた結果を実現できることを狙ったものだ。
本来的には、例外に属するトップエンドは捨てても構わないはずで、高回転域の耐ノック性と中低速域のノッキング的燃焼のやりやすさを秤(はかり)にかければ、後者が重いはずである。
マツダは、欧州ではトップエンド付近のパンチを欲しがるだろうからということで、SI領域の性能向上のためにハイオク仕様にした。利得は決して多くないし、エンジンの本来の狙いと違うが、そこはマーケットの好みというものもある。
当初のマツダのプランでは、日本は、現実問題として極端な高回転という限られた状況での性能向上のためにハイオク仕様にするのは、ユーザーに利得が少なすぎると思っていたようだが、グローバル試乗会での、欧州仕様のSKYACTIV-Xの評判が極めて高かったため、ちょっと考えを変えた。
高回転域を「実利少なし」と決めつけて本当に良かったのかと。実利はともかく心情的にはそこも大事なのではないかと。ただ、どう考えてもそのためだけにハイオク専用仕様にするのはユーザー本位ではない。高いハイオクを入れて、9割以上の運転状況下では不得意なノッキング的燃焼をさせておきながら、メリットは本気でぶん回した時だけということで本当にいいのか。
社内で侃侃諤諤(かんかんがくがく)があった末、結論は、マルチオクタン価対応ということになった。カタログなどへの表記としては「ハイオク推奨(レギュラー使用の場合最大出力などが低下しますが、故障の原因などにはなりません)」的な表記になるらしいが、おそらく役所のフォーマットなどの問題で、実際はハイオクに対して、レギュラーが下位互換的なものではなく、レギュラーでもハイオクでも好きな方で使える。例え利得が少なくでもトップエンドの吹け感にこだわりたい場合はハイオクを入れる。そのときは、欧州仕様に遜色ない高回転域のフィールが得られる仕様だ。それを急きょ追加開発した。
どうやら技術的には難しくなかった様子だが、届け出数値が変わってくるため認証はやり直し。そこの期日短縮はできない。だから発売日が遅れた。以上がSKYACTIV-X発売延期の真相だが、まあやはりやり方としてはうまくない。
Mazda3 のデビュー時に、ちゃんとG、D、Xの各エンジンを用意しておけば買い控えは起きなかったはずだし、もっといえば、売れ筋本命が分かりきっているCX-30からリリースすべきだった。マツダのリソースでは手が回りきらないことは理解できるが、商売としてはうまくないのは事実だ。
よりよいエンジンや、よりユーティリティの高いクルマが、そう時を経ずに出ることが分かっていれば、ユーザーは、自分の選択に自信が持てなくなる。仮に追加モデルが予算的に届かなくても、決断し難い。そんなつまらないことで期待の第7世代の出足をくじき、ハイエナ系メディアに「売れない、売れない」と書かれ、現場は現場で自信を喪失する。ちなみに当初の出足は悪かったものの、かなりリカバーしてきており、特に大失敗という結果にはなっていない。
そんな無責任でネガティブなうわさの火消しに苦労するくらいなら、やらなければならないことがいっぱいあるのではないかと思う。
CX-30の日本仕様はすでに進歩を遂げていた
と、文字数のおよそ半分を発売スケジュールの説明で費やしてしまったが、そろそろ本題に入ろう。
さて、筆者は7月頭にドイツで行われた国際試乗会で、すでにCX-30に乗っている。しかし今回国内で乗ったCX-30は、たった4カ月の間にブラッシュアップされて登場した。クルマの立ち位置や全体の説明の前に改良点を書くのは、ちょっと原稿として順序がおかしいが、大事なことなので、まずはその改良点を説明してしまおう。
CX-30に試乗したとき気になったことは、時速60キロあたりで、アシがあまり動かない印象があったことだ。踏切や歩道の段差を乗り越えるときは極めて上手く動いている印象のあるサスペンションなのだが、そこそこ詰まった高速道路のような速度域では、路面のうねりをいなせない。リジッド感がある。しかしながら、そこから上はアウトバーンで時速170キロまで持っていっても良好な乗り心地を示し、むしろ見事といえる仕上がりだった。
厳しい局面でうまく動いて、さほどでもない領域での受け流しが下手だった。この部分は残念ながら日本仕様でもほぼ同じ印象を受けた。
しかし改良されているところもある。郊外などでよく使う時速50キロレンジのコーナリングで、舵(かじ)を入れ始めた直後、少しロール速度をコントロール仕切れていない部分があった。平たくいうと切り始めに「グラっ」とくるのだ。それはひどいものではないし、そのくらいの挙動は特にSUVにはよくあるのだが、これをピタリと押さえ込んできた。国際試乗会の時にヒアリングした問題点を、課題として徹底的に潰した姿勢には敬意を払いたい。
もう一つは1.8ディーゼルだ。筆者がドイツで乗ったのはMTだったので、Mazda3のディーゼルの評価とは単純に並べられない。MTで乗る限りは問題なかったのだが、同じユニットを搭載するMazda3の国内試乗会ではちょっとがっかりさせられたのだ。
念のために書くが、マツダが第7世代で到達した、従来にない人間中心の思想によって、シートもシャシーもハンドルもブレーキもグッと進化した。それに対してディーゼルユニットだけが取り残されて、第6世代水準だった。第6世代は決して悪いモノではなかったので、批判するのは少し可哀想なのだが、とはいえ、ほかの部分が第7世代水準に進んでいることに対して、ディーゼルユニットだけが悪目立ちしてしまっていた。
それが、大幅に改善されたのだ。筆者はMazda3の試乗の後「ヤバい魔物がエンジンルームに棲(す)んでいるようなストレス」とエンジニアに説明したのだが、今回はっきりと「魔物退治を頑張りました」と言われたので、こちらが思った以上にこたえていたらしい。申し訳ないと思わなくもないが、クルマが良くなったことは極めて喜ばしい。
バランスの良さが光る一台
さて、そんなわけでCX-30は、一気に今年乗ったクルマの中で特筆すべき1台に加わった。SUVらしく高い着座面高によって得られる乗降性の楽さ、アップライトなポジションによる視界の良さ、リヤクォーターの視認性、CX-3比でもMazda3比でも豊かになった室内空間とリヤシートの居住性、さらにラゲッジのサイズとテールゲートのオープンラインの低さといったあらゆるユーティリティにおいて、我慢がいらない。もちろん上にはCX-5やCX-8があるが、立体駐車場に入れられるかどうかという実用の壁がそこには存在する。
懸念されていた価格はどうか? 最も安い2リッターガソリンのFFモデル、20Sは239万円。マツダの場合、主要な安全装備はどのグレードでも装備されているが、欲をいえば今から買う新車なら安全装備や運転支援は充実させたい。20SのPROACTIV Tourring Selectionだと273万円とそれなりの値段になる。ディーゼルは289万円から331万円。年明け発売のSKYACTIV-Xは329万円から371万円だ。
高いか安いかは買う人が決めることだが、筆者としてはクルマの出来でがっかりするようなことはないだろうとだけ言っておく。
(池田直渡)