「ショットガン方式」 羽田の薬物密輸摘発が過去最多に

羽田空港(東京都大田区)で警視庁などが今年摘発した違法薬物密輸事件が7月末時点で33件に上り、過去最多だった昨年1年間の件数と並んだことが4日、捜査関係者への取材で分かった。覚醒剤を中心に7月に急増し、1年間の摘発件数は過去最多を更新する見通し。6月に静岡県南伊豆町の海岸で1トン超の覚醒剤を押収した大型密輸事件の摘発を受け、密売組織が供給量確保のために空港経由の密輸を活発化しているとみて、警察当局は警戒を強めている。
羽田空港での摘発件数は平成28年に10件、29年に14件と増え続け、昨年は33件で過去最多を記録。今年1~6月は2~6件で推移し、7月に11件と急増した。覚醒剤が27件と8割を占めており、他はコカインが4件、大麻とケタミンがそれぞれ1件だった。
手口別では、スーツケースなど荷物への隠匿が29件で大半を占めている。ほかには着衣内に隠し持ったり、体に巻き付けたりするなどの手口があり、7月に逮捕されたポルトガル国籍の男(42)は合成樹脂で包んだ17個の覚醒剤を飲み込んで体内に隠し持っていたとされる。
違法薬物を小分けにして複数の運搬役に持たせて密輸する手法は、散弾銃になぞらえて「ショットガン方式」と呼ばれており、密売組織にとっては、数をこなすことで摘発をすり抜ける確率を上げられる利点があるとされる。

羽田空港(東京都大田区)で覚醒剤を中心に違法薬物密輸事件の摘発件数が過去最多のペースで急増している背景には、静岡県南伊豆町で1トン超の覚醒剤が押収されたことによる「国内の供給量不足」(捜査関係者)があるとされる。穴埋めを余儀なくされた格好の密売組織側がインターネット掲示板やSNS(会員制交流サイト)で運搬役の勧誘を強め、数キロ単位など小分けにして密輸を繰り返す「ショットガン方式」を多用している構図が浮かび上がる。
密売網に打撃
6月3日夜、中国人の男たちが南伊豆町の海岸につけた小型船に、小分けに袋詰めされた1トン余りの覚醒剤が積まれていた。
小型船は前日、数百キロ沖合に衛星利用測位システム(GPS)搭載の目印を投下。その後、別の船が海外から持ち込んだ覚醒剤を目印付近の海に投げ入れ、再び小型船が訪れて回収するなど周到に準備したとみられるが、警視庁組織犯罪対策5課の捜査員らが荷揚げ現場を急襲した。
覚醒剤の1回の押収量としては過去最大で、全国の警察による近年の年間押収量に相当する。捜査関係者は「国内の密売網に大きな打撃を加えた」と話す。
密売組織にとって、海上で受け渡しを行う「瀬取り」は大量の取引が可能となるが、船の手配など手間がかかるとされる。一方で、ショットガン方式は空港での摘発リスクはあるものの、報酬などで運搬役を確保すれば短期間で着手が可能とされ、厚生労働省の元麻薬取締官、小林潔氏は「大きな瀬取りの摘発があれば、ショットガン方式へと移行する」と指摘する。
7月に入り、羽田空港では覚醒剤を中心に摘発件数が急増し、17日にはアラブ首長国連邦から羽田空港に別々に帰国した20~30代の日本人の男4人が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された。捜査関係者によると、それぞれがネット掲示板で運搬役の募集に応じ、いずれもスーツケースに納めた化粧箱に覚醒剤を隠して所持していたという。
高額報酬で宣伝
密売組織にとって運搬役勧誘の有力なツールとなっているのが、ネット掲示板やSNSだ。「海外案件 闇バイト」「渡航費、宿泊場所、経費全て負担」などの宣伝文句とともに高額報酬を掲げており、捜査関係者は「若い世代や金に困った人間をターゲットに目先の利益をちらつかせて勧誘している」と指摘する。
中部空港(愛知県)で昨年12月、カンボジアから覚醒剤を密輸しようとしたとして逮捕された男はSNSで依頼を受け、帰国後に約100万円の報酬を受け取る予定だったと説明。成田空港(千葉県)で同10月にタイから覚醒剤を密輸したとして逮捕された男もネット掲示板の募集に応募しており、滞在1泊当たり10万円が約束されていた。