嫌いな上司を黙らせる2つの方法

「日曜の夜寝るのが憂鬱(ゆううつ)」――そう感じる人がきっと多いに違いない。職場で毎日接する先輩や上司が嫌い、という人だ。ただでさえ楽ではない業務を責任もってこなそうとしているのに、尊敬もできない上司にくだらないことでいじめられて精神的ストレスが尋常ではない。そんなとき、あなたならどう対処するだろうか?

筆者の人生経験を踏まえ、結論を先にいえば「実力の証明と表明で相手を黙らせる」ことに尽きる。自分がその嫌いな上司に劣ることなく会社で成果を出し、それを社内で周知するのである。そして、何より、その周知方法が「愚痴」や「告げ口」にならぬよう、巧みに社内世論を誘導することで敵を減らして味方を増やすのがコツである。

連日の叱責で仕事が嫌になる
実話をもとに説明しよう。私は大学卒業後、外資系金融機関で働いていた。担当していた顧客である機関投資家に対して、市場の情報提供をするのが仕事の1つだった。しかし、その提供していた情報の中身について、お局(つぼね)上司と、私よりたった1つ年上の男性の先輩から毎日のようにいびられていた頃がある。

私が電話で話していた内容を横で聞いていた2人は、彼らが以前、新米だったころの私にレクチャーした通りの情報提供をしなかったことに腹を立てた。そして「今のあなたには、クライアントにとって何が参考になるか判断できる経験も知識もないんだから!」とあきれ顔になり、まるでヒステリーを起こしたかのような声で連日叱責(しっせき)された。私が「クライアントの参考になると思うから」と言っても、聞いてもらえなかった。

当時の私は、同じ職場にいるT先輩を尊敬していた。少々いやな言い方をされても、T先輩のお叱りなら、たとえ理不尽に聞こえてもその奥底にある真理を探ろうと努めたものだ。しかし、その2人は、私のあら探しをして糾弾することで「自分は新人を監督する立派な先輩だ」と周囲にアピールし、社内における存在意義を高めようとしているとしか思えなかった。すなわち、私は「政治利用されている」と感じていた。

2人は、特に優れた成績を上げているわけではなく、上司からよくお叱りを受けていたので、鬱憤(うっぷん)もたまっていたのかもしれない。いずれにせよ、私は日曜の夜、寝床につくのがあまり楽しみでない時期があった。

営業成績で見返す
そこで、とにかく私は日々耐えて、尊敬するT先輩の教えだけに忠実に従った。顧客と向き合い、大手クライアントから評価された結果、大きな営業成績を収めさせていただいた。光栄にも実績という数字が私の会社への貢献を「証明」した。そして、結果至上主義の私の職場では、沈黙する数字が他の何よりも甲高く社内全体へ私の貢献を「表明」してくれていた。その日以降、私への「新人レクチャー」はぱたっと途絶えたことがうれしい副産物だった。それどころか、2人のキャラクターが「かわいい年上お姉さん」と「顧客の物まねが得意なお兄さん」に突如変身して、私に優しく接してくれるようになった。

顧客に土下座した
もう1つのエピソードも紹介したい。私は、私のことをかわいがってくれていたX先輩の「うっかりミス」を被らされたことがある。会社にとっての超重要顧客を、X先輩と一緒に私が担当することになった。そして、ごあいさつにうかがった際、顧客からアナリスト資料を急ぎ手配するよう要請されたのだが、X先輩が「俺が直接手渡ししておく。何度も顔を見せるのが大事だから」と引き取った。しかし、X先輩は他の案件で忙殺され、そのことをすっかり忘れてしまった。そして、顧客から部長へクレームがきてしまい、なんと私の責任になってしまったのである。

「頑張ってるお前にチャンスをやろうと思ってこの顧客を担当させてやったのに、ゼロじゃなくてマイナスからのスタートだからな!」――部長は、私の同期入社の仲間や、当時恋心を寄せていた女子社員を含むフロア中の全員が見ている前で、私を激しくしかりつけた。

これからも皆で連携して仕事をやる以上「正論の直球」が正解でないことが多い。部長の前で、クレームの原因が「X先輩がうっかり忘れていた口約束」であることを私が論じても、その先輩と今後の仕事がやりづらくなる。部長も、興奮している手前、私への評価を元に戻すのではなく、むしろ私と先輩を「セット」で怒り倒していただろう。そして、会社にとっても、何も解決にはならない。

正直、私にとっては大迷惑で、その先輩と部長、さらには職場の理不尽さにまで嫌気がさしたものである。後日、その顧客にアポをとり、X先輩と2人で謝罪にいった。謝罪当日、顧客の前で私は自分の非を認め、新人としての至らなさを悔やみ、土下座をした。

帰りのタクシーの中、X先輩は、土下座までした私に面食らって狼狽(ろうばい)している。「いい意味でも悪い意味でもエリート視される外資系金融のお前が、ああやってけじめをつけたことはすごく意味がある。俺からキチンと部長に報告しておく」――そう語りかけてくれた先輩に、私は例の口約束のことをポロっと告げた。そして、それでも会社としてこの問題を解決し、先輩ともうまくやりたいから私の判断で今日の行動をとった旨を告げた。

社内に広がった高評価
全てを思い出した先輩は私にわびてくれた。そして、会社に戻り次第、部長に全てをありのまま報告してくれたようである。あとは笑い話なのだが、その一連の経緯をとても愉快に感じた部長は、関係のない他の部門長や役員にまでその話を吹聴しだした。その後、私の元には「土下座侍(さむらい)、でかしたぞ!」などと茶化す内容のメールが社内から続々と届いた。そのころには、私が職場に抱いていた嫌気も不思議と消え失せていた。

会社に貢献したことを証明し、それをベストな形で表明することで敵でなく味方を増やさねば、上司はあなたを嫌い、あなたも上司と会社を嫌ってしまう。その結果、出社を控えたプライベートの時間まであなたは不幸になってしまう。たとえ転職をしてもその構造は変わらない。

ちなみに、被雇用者が職場でいじめられ、泣き寝入りしてしまうのは、時代的にも非常にもったいない。日本社会で、働き方改革が叫ばれて久しい。労働人口が減少する日本で、企業の人材不足は深刻を極めている。企業経営者としても、優秀な人材を引き寄せてつなぎとめるような職場環境を確保することは最優先事項だ。

そして今後は、投資家も企業の労働環境に強烈な関心を寄せることが予想される。AIやバイオといった知識経済が社会を支配していく中で、企業価値の大部分が人的資本に根差すようになり、労働者の満足度合いと福利厚生が、投資家にとって財務指標と並ぶ重要評価事項になる時代が到来しつつある。結果で実力を示し、現実社会でしっかり通用する意思疎通能力を身につけた人材は、今後ますます厚遇されるよう、企業も社会も、そして資本市場までも変わっていっている歴史的転換点に、今われわれがいる。

この歴史的潮流のなかで、嫌いな上司に耐え切れないとき、あなたがストレスを抱えたまま職場以外でそのはけ口を探したり、安易に離職を考えたりしないことを私は願う。まずは目の前の仕事に誠実に取り組み、成果を証明し、極力賢明な表明をすること。そして、それらの実践がたやすくなくても、何よりそのマインドセットをもつこと。自分がよい仕事をできるよう、自分が好きと思える仕事を探求し続けることも重要だろう。

「月曜朝の出勤が楽しみで、日曜の夜寝るのが待ち遠しい」――これを真顔でいえる、生活の糧と私的情熱のクロスオーバーこそが私の感じる最高の人生のカタチである。1人でも多くの読者の方々がそのクロスオーバーを実現できることを祈念する。

金武偉(キム・ムイ)