もうもうと黒煙が立ち上る中、傾いた赤い車両から乗客は命からがら脱出した-。横浜市神奈川区の踏切で5日、京浜急行線の電車がトラックと衝突、脱線した事故。原形をとどめないほど大破、炎上したトラックは、衝突の激しさを物語る。延焼の恐れもある中、乗客らは車両の連結部分や窓から外に逃れた。
その瞬間、線路上にあったトラックの車体は目の前から消えた。
「みんな何が起きたのか分からず、呆然(ぼうぜん)としているようだった」
事故を目撃した30代の男性は、当時の状況をそう振り返る。踏切の警報音が鳴る中、立ち往生していたトラックを踏切外に逃そうと人々が集まっていた。トラックの車体に引っかかっていた遮断機が外れ、踏切の外に出ようとしたそのとき、電車はトラックの車体もろとも目の前を走り抜けていった。
「誰も何も言葉が出なかった」。周囲には積み荷のかんきつ類が散乱し、線路横の鉄製の支柱はかかっていた架線ともどもひきずられ、無残に折れ曲がっていた。
「ドカーン」。先頭車両の中央付近に座っていた東京都内の無職、金子弘高さん(72)は、汽笛のような高いブレーキ音が15秒くらい続いた後、大きな衝撃音を聞いた。次の瞬間、車内に男性客の「後ろに逃げろ」と叫ぶ声が響いた。
20メートルくらい何かを引きずり、先頭車両は次第に右側に傾いていく。「立っていられなくなった。窓に足がつくような感じになって逃げようと思った」。車両が停止すると、脱線した影響であらわになった連結部分から脱出した。
このとき、現場に駆けつけた女性(41)は、傾いた車両付近から炎が上がっているのを見た。
引きずられたトラックは脱線した電車と線路脇の防音壁に挟まれ大破、車体からは黒煙が上がっていた。電車も先頭から3両目までが脱線。煙のすすで真っ黒になった先頭車両は右側に斜め45度近く傾いた。
「異常に長い警笛が聞こえ、その後に突き刺さったような鈍い金属音がした。家も揺れたし、飛行機が落ちたのかと思った」と事故のすさまじさを話す近所の主婦(59)。現場の方からは「助けて」「早く出して」という乗客の声を聞いたという。
事故現場付近の保育園の女性園長(44)らによると、誘導役の人に促され、乗客たちは10人程度の単位で続々と車両から脱出し、線路上を歩いていた。「煙が出ていたので、(車両への延焼の恐れがあり)『逃げろ』と言っていたのではないか」と推測した。脱出の様子を見守っていた近くに勤務する男性会社員(58)も「みんな冷静さは失っていないように見えた」と語る。
一方、衝突音を聞いて現場に駆けつけた近所に住む自営業、藤田美花さん(59)は「一番前の車両に乗っていて自力でなんとか脱出した。衝撃がすごく今も震えが止まらない」と話す男性や、気が動転した様子で泣きじゃくって電話している女性の姿を見たという。
現場付近には駆けつけた警察や消防によって広範囲に渡り規制線が張られる中、けが人が次々と救急車で搬送されていった。