高齢者の命どう守る 西日本豪雨の教訓とは… 台風19号、あす1カ月

12日で上陸から1カ月となる台風19号と、台風21号の影響による大雨の犠牲者のうち、6割を65歳以上の高齢者が占める。自宅で浸水にのまれて亡くなるケースが最も多く、お年寄りの逃げ遅れが改めて問題となった。足腰が弱り、自力避難が難しい災害弱者の命をどう守るのか。昨夏の西日本豪雨の被災地では、次の災害に備えてハード、ソフト両面の取り組みが進む。
民生委員「巡回リストにはなかった」
亡くなった高齢者60人の被災状況を分析すると、住宅への浸水被害によるものが17人で最も多い。うち8人が平屋建て住宅に居住。6人は2階建て住宅に住んでいたが、遺体は1階部分で見つかったり、自宅から流されたりしていた。自力で2階に上がるのが難しかったとみられる。
7人が水害で亡くなった福島県本宮(もとみや)市。屋外で見つかった2人を除き、5人が浸水した住宅で遺体が見つかった。死因は溺死や窒息死。犠牲者のうち6人が60代以上で、5人が70代の高齢者だった。
平屋建ての借家に1人で暮らし、最近は体調が良くなく家に籠もりがちだったという伊藤一夫さん(64)も犠牲者の一人だ。台風19号による大雨に見舞われていた10月13日午前2時ごろ、心配した家族が電話したところ「大丈夫だ」と答えた。ただ、この時、周辺の水位は膝くらいの高さにまで達していた。隣人の少年が「水が上がってきますよ!」とドアをたたいたが、反応はなかったという。
伊藤さんがSOSを発信したのは2時間後。親族に「助けて」と電話した。市内在住の姉が駆け付けたものの、辺りは浸水して近づけない。たどり着いたのは水が引いた後の翌日午前。散乱した部屋を片付けていると、遺体が見つかった。
伊藤さんはかつて板金業を営んでいた。8年ほど前から体調を崩し、ほとんど外出しなかったという。地域の民生委員は「巡回リストには載っていなかった」としている。姉は「体が弱って避難できなかったのかもしれない。市は知らなかったのだろうか」と声を詰まらせた。
伊藤さん宅から200メートルほど離れた2階建てアパートの一室でも、足が弱くなっていたという男性(77)が亡くなった。男性はこのアパート1階に妻と2人暮らし。台風が猛威を振るっていた14日午前2時半ごろ、妻がアパートの住民に助けを求めた。だが、間もなく1階部分が水につかり、2階の住民は「おじちゃーん!」と部屋にいる男性を呼び続けた。午前5時ごろまでは返事があったというが、男性はその後、部屋で遺体で見つかった。
2階に逃れて無事だった妻はこの時、住民に「夫は最近、具合が悪く歩けなかった」と明かしたという。ただ近所付き合いが薄かったこともあり、周辺には事情が知られていなかったとみられる。ある住民は「名前も知らなかった。もう少し何かできたのでは、という気もする」と漏らした。【斎藤文太郎、渡部直樹】
避難所機能付きの共同住宅計画
昨年7月の西日本豪雨による浸水被害で51人(災害関連死を除く)が犠牲になった岡山県倉敷市真備(まび)町地区では、あの大雨を経験した人たちが、高齢者が安心して暮らせるように避難所機能付きの共同住宅をつくる計画を進めている。
中心となっている津田由起子さん(55)は、真備町地区で小規模多機能ホームを運営している。自宅で暮らす高齢者たちを通所・訪問サービスで支える事業だ。1年前のあの日、避難せずに自宅にとどまる利用者も多かった。津田さんは職員と利用者の家を回り、避難を渋る高齢者も抱きかかえるようにして避難所へ送り届けた。ただ、助けが間に合わなかった人もいた。耳が遠く、認知症を患っていた85歳の女性だ。家は2階建てだったが、1階で亡くなった。全ての人を自身で救うことはできない。近所で助け合う地域作りの大切さを痛感させられた出来事だった。
真備町地区は多くが浸水想定区域で、水害時に使える避難所が少なく、地域によっては高齢者が歩いて行ける距離にない。それに認知症の高齢者は、体育館など避難所での生活が困難だ。たどり着いたのが、小さな地域ごとに避難所機能付きの共同住宅を設け、近隣の人も逃げ込めるようにするというアイデアだった。住民や大学教授を巻き込んだ勉強会で計画を練り、「サツキPROJECT」と名付けた。合併前の旧真備町の町花で、「洪水の後に美しく咲く」と伝えられる花の名にあやかった。
1階部分が浸水し、空き家になっていた2階建てアパートがプロジェクトの第1号になる。階段を使わなくても2階に上がれるように、2階ベランダと地上を結ぶ緩やかなスロープを新設する。アパートの一部はコミュニティースペースとし、定期的にイベントを開くなどして普段から近隣住民と関係を築き、「誰もが慣れ親しんだ場所」にすることも計画のミソだ。足腰の悪い人でも垂直避難ができるハード面の整備と、隣近所と支え合うソフト面の充実との両立を目指す。
プロジェクトは国のモデル事業にも選ばれ、10月27日に入居希望者向けの説明会が開かれた。改修費の3分の2が補助されるが、それでも足りない費用の一部(200万円)は、インターネットで資金を募るクラウドファンディングで集めている。今年度中に改修し、来春に入居を開始させたい考えだ。津田さんは「一人も死ななくて済むかもしれないこのモデルを広く伝えていきたい」と語る。【林田奈々】
要支援者の個別計画作成 14%のみ
災害時に自力で逃げるのが難しい高齢者や障害者は災害対策基本法で「避難行動要支援者」と位置付けられ、避難先や手順を定めた「個別支援計画」を定める努力義務が市区町村に課されている。しかし、作成しているのは14%にとどまる。自治体内で高齢者対策を担う福祉部門と、防災担当部門の連携が取れていないのが一因と指摘される。
2013年の災害対策基本法改正で要支援者名簿の作成が市区町村に義務づけられた。昨年6月時点の総務省消防庁の調査によると、97%が作成済みだ。だが、個別支援計画になると作成率は激減。43%が一部作成にとどまり、半数は全く作成していない。
岡山県和気町では西日本豪雨後、計画策定のモデル事業が進められている。対象となった田ケ原地区は、川同士の合流点に接し、土砂災害警戒区域が存在する。1人暮らしの高齢者や障害のある人など支援が必要な6人をピックアップ。支援者が1人だと不在の場合に対応できないので、要支援者1人につき2人が担当する。
当事者に合った避難方法を検討するには、生活状況の把握が欠かせない。情報を整理・共有するために使われたのが「エコマップ」だ。要支援者を中心に家族や近隣住民、医療・介護施設などとの関係を地図のように書き出す。その後、図上で避難所までの経路を確認。道が細くて車が通れない箇所はリヤカーを使う案も出た。来月に訓練を実施し、出来上がった計画は支援者と町で共有する。
このほか兵庫県では、自主防災組織とケアマネジャーが連携して計画の作成に関わる。この仕組みを構築した同志社大の立木茂雄教授は「要支援者には、町内会などの地域コミュニティーと接点がない人もいる。計画の作成にあたり、日ごろの様子を知るケアマネジャーと町内会が連携できれば、情報共有がスムーズで新たな接点が生まれる」と提言する。【奥山はるな】