国内の不動産に投資するJ-REIT(不動産投資信託)が好調だ。2004年からの東証REIT指数を見ると過去最高値。配当利回りも3%台を維持している。この現状をどう見たらいいのか? またそこにはどんなリスクがあるのか。
三井住友DSアセットマネジメントでREITを担当する、秋山悦朗シニアファンドマネージャーに聞いた。
「売る人」がいないJ-REIT
秋山氏は日本をはじめアジア各国のREITを組み合わせた「Jリート・アジアミックス・オープン」のファンドマネージャーを務める。組入資産の約半分を占めるJ-REITだけでなく、香港、シンガポール、オーストラリアのREITも好調で、基準価格は上昇を続けてきた。
そんな中、現状の好調具合を秋山氏は、「いま好調だが、活況というとちょっと違う。現在は極端に売る人がいない。通常、これだけ上がれば、利益確定売りがあるが、ほとんどいない」と評価する(以下、カッコ内は秋山氏の発言)。
背景にあるのは、国債をはじめ各資産の値上がりによる利回りの低下だ。より高い利回りを求めてさまざまな投資商品を買う、いわゆるイールドハンターが買い支えている。この需給のアンバランスは、J-REITでも18年の秋口くらいから続いているという。
ファンダメンタルズでいうと、17年も18年も19年も大きく変わっていない。世界的にREITは好調だった。ところが、17年はJ-REITだけがマイナスだった。これは、「金融庁が投信の毎月分配を問題視したことがある。J-REITは毎月分配が多かったので、資金が入らなかった。販売会社が売りにくく、資金流出につながった」というのが理由だ。
トレンドができると1年は続く
一方で、17年のタイミングで「好調になる芽が出てきた」と秋山氏。苦しいタイミングでJ-REIT各社は、自社株買いや資産入れ替え、株式分割などを行ったり、フィーの水準も業績連動型に変えたりしてきた。
こうした取り組みは18年に実を結ぶ。毎月分配投信問題も騒ぎが収まり、資金流出も止まった。市場が見直された結果、J-REITは好循環に入る。資本調達がやりやすくなり、増資して物件を買い、結果分配金が伸びてきた。
「J-REITはビジネスモデルが単純なので、いったん悪循環に入ると悪循環が続くが、好循環に入ると好循環が続く。少なくとも一回トレンドができると1年くらいは続く」
シェアオフィスの失速はオフィス市場に悪影響を与えるか
ではJ-REITでどんな数字に着目すべきだ。一つは、賃料の伸びと空室率だ。現在、特に東京では史上最低レベルまで空室率が下がっているが、その理由の1つはシェアオフィスだと秋山氏は説明する。
「日本でもシェアオフィスの貢献があった。つまりWeWorkだ。そのWeWorkがこの状態(IPOに失敗し事業の立て直し中)。シェアオフィスの失速が、オフィス市場に悪影響を与えるといわれている。日本の場合は比率が小さかったが、多少の悪影響は出てくる」
シェアオフィスの影響だけでなく、景気循環の中でも、今後空室率は上がっていくと秋山氏。ただし、オフィス市場では4%前後くらいが、貸し手と借り手の均衡といわれているが、上がっていくとしても4%まではいかないと見る。
賃料についても、「がくんと下がるフェーズも考えにくい。現在上昇ペースがスローダウンしているが、下がるとしても、なだらかだ」と、基本指標は安定という見立てだ。特に、外需企業は世界経済が厳しくなると業績も厳しくなるが、IT系の内需系企業は大きな影響を受けない。その拠点である東京の渋谷の賃料も上がっているという。
金利上昇リスクは軽微も、イールドハンターの動向しだい
もう一つのリスク、金利上昇についてはどうか。REITは、投資家から集めた資金に加え不動産を担保に銀行から資金を借り入れ、2倍程度のレバレッジをかけて運用する。現在の金利は低く、借り入れしやすい状況だが、今後、金利上昇局面ではどうか。
J-REIT各社は、借り入れ債務の期間を伸ばすこと、そして返済期限の分散を、リーマンショック後ずっとやってきていると秋山氏。SMBC日興証券の資料によると、この10年で固定金利比率は90%近くまで上がっており、金利上昇局面でも影響はなだらかなになる。「リーマンのとき痛い目にあったのが教訓になっている。多少の影響はあるが、金利上昇があっても、影響をかなり軽減する方向でやっている」
一方で、金利上昇は別の影響ももたらす。J-REITを買っている中心は、少しでも高い利回りを求めるイールドハンターだが、長期金利が上昇した場合、比較してREIT以外の商品に旨味が出てくるからだ。
「J-REITの買い手はイールドハンターが中心なので、政策金利が引き締め(金利上昇)に向かうと、大きく世界が変わってくる。ただし、長い目で見れば金利上昇もあるが、いまの状況では日本も緩和から抜けられない」
J-REITの買い手、日銀
イールドハンター以外に気になるのが日銀の動向だ。日銀は2%物価上昇目標実現のため、年間約900億円の枠を設けてJ-REITを買い入れている。しかし、これはJ-REITの価格上昇を後押しし、他の投資家の呼び水となることを狙ったものだ。
「年間900億買うといって、全然そんなに買っていない。実際には、日銀も枠はとってあるが、消化しなくてはいけないほどマーケットは悪くない」
一方で、日銀金融機構が公表した金融システムレポートでは、不動産業向け貸し出しの対GDP比が14%近くに達し、90年以来初めて「赤」。加熱していることを示した。バブル期の再来か? と懸念されるところだが、当時とはプレーヤーが変わっていると秋山氏は話す。
「バブルのころは短期売買、いまは年金基金など長い目で投資できる人たちが買っている。投資家の求める期間が変わってきている」
対象企業の枠組みも当時と変わった。バブル期は、商業施設や物流施設、ホテルなどは事業主体が借り入れを行い開発していたが、現在は不動産開発部分を不動産事業者が行うなど、水平分業が進んでいる。データセンターなども、通信事業者が行えば不動産融資ではないが、不動産業者が融資を受けて開発すれば不動産業に分類される。こうしたことから、不動産業向け貸し出しの比率が増加している。
逆に注視すべきは日銀の出口戦略だ。「日銀は、2000年代に銀行の持ち合い株式を買って、10年くらいかけて売り切っている。出口で問題があるとしたら、日銀は損は出せないということ。ただし、長く持つというメッセージを発信したうえで、長いレンジで売却していくなら、マーケットがそれを恐れることはない」
投資先としてのJ-REIT
ではJ-REIT市場の今後をどう見たらいいのだろうか? 一つは、REIT先進国の米国との違いだ。日本のJ-REIT市場は約17兆円だが、米国市場は100兆円を超えている。「不動産市場は国の規模に比例する。J-REITの市場は25-30兆円くらいまであっておかしくない」と秋山氏はポテンシャルを語る。
米国では、REITといっても用途ごとに別の銘柄が上場している。住宅やオフィスだけでなく、商業施設、物流施設、データセンター、ヘルスケアなど、ジャンルに特化したREITが存在する。これは米国市場だけの特徴で、ほかの市場のREITはたいていが総合型だ。
しかし日本でも、用途特化型のREITが存在感を増してきている。「データセンターは米国のデジタルリアリティが進出してきている。モデルは、物流施設に特化した日本のREITプロロジスと同様だ。もう一つはヘルスケア。現在もいくつかあるが、介護施設がほとんど。介護施設は一軒の額も小さいし、賃料も上げにくい。そこにやっと病院が入り始めた。これまでは医者が病院を保有して経営していたのが、事業と不動産運営に分離しつつある」
過熱感もささやかれるJ-REITだが、投資環境としてはどうか。「東証REIT指数は07年5月に最高値 (配当除外)を付けた。その最高値を超える可能性が出てきた。最高値を超えてもバブルではない。07年当時、時価総額は7兆円程度だったが、いまは17兆円だ。過熱感があって警戒感を持つ人も多いが、質が変わってきている。ここまで価格が上がった段階でいうと、5年10年のスパンで考えられる人なら今買っても大丈夫だ」