16歳、中高一貫校生の彼が高校に進まない理由

日本での高校進学を辞退し、9月からイギリスのボーディングスクールに入学するyuzukky君(写真:yuzukky君提供)
中学受験して、志望の私立中高一貫校に合格。しかし入学後に直面した勉強中心の学校生活が自分に合わず、エスカレーター式の高校への進学を辞退した16歳がいる。yuzukky君。進路に選んだのは、イギリスの全寮制校(ボーディングスクール)。決断のきっかけとなったのが、中学3年生で始めた「企業訪問」だったという。その経緯を聞いた。
――なぜ日本の高校進学を「辞めよう」と考えたのですか?
きっかけは勉強漬けの生活に疑問を感じたことです。
僕は都内の私立中高一貫校に通っていました。中学受験した理由の1つは、中高一貫校に入れば高校受験がないため、勉強以外の好きなことに時間を割けると思ったからです。しかし、現実は違い、中学受験時代と同じような勉強中心の学校生活でした。
自分にとって興味深い授業もありました。例えば僕のクラスでは、プログラミングを学ぶITの授業など、すべて英語で行われる授業がありました。実際に英語力は上がり、中学3年になるとクラスの全員が英語で意思疎通ができるほどでした。
しかし、それ以外では中間・期末試験など、山ほどの定期試験に追われる日々。授業の大半は講義を聞いてノートに写すばかりで、自分にはあまり楽しいとは思えませんでした。
中学1年の終わりになると、次第に「小学生の頃、やりたいことを全部我慢して受験勉強してやっと合格したのに、なぜ中学生になっても勉強ばかりしないといけないのか」と疑問を抱き始めました。当時は勉強が将来そのまま仕事や日常生活に役立つとは思えませんでした。
そこで中学1年の1月、社会人を対象に「勉強の意義」に関するアンケートを実施しようと考えました。実際に社会で働いている人が、学生時代の勉強にどんな意味があったと考えているのかを知りたくなったからです。
――実際にどんなアンケートを行ったのですか?
「中学時代の勉強は今の生活や仕事に直結していますか」「どのような教科がどう役に立っていますか」などと気になっていたことを、アンケートでは5つ質問しました。父がFacebookでアンケートを投稿してくれて、そこから社会人の方々がシェアしてくださったりして、最終的に計115職種200人以上の社会人から回答をいただきました。
職種は会社員、IT企業経営者、お好み焼き店の方、エステシャン、市議会議員、鍼灸師など、さまざまでした(詳細はこちら)。
本当にためになるアドバイスをたくさんいただきました。「勉強すること自体に意義はない。意義あるものにするかは自分次第」といった回答や、「人生の勉強は、やはり経験することがいちばん」などのアドバイスもありました。先生や研究職などの専門職ほど、中学時代の勉強がそのまま役立っていることも知りました。
ただ結局、アンケートを実施しても、勉強そのものの意義はわかりませんでした。「勉強して損をした」という人もいなかったことから、「ひとまずは勉強しておこう」というのが、当時の僕がたどり着いた結論でした。
――そこからどうやって「企業訪問」に至りましたか?
実はその後、ゲームに夢中になり、成績が下がりました。それではいけないとまじめに勉強すると、成績が上がりました。しかし試験が終わると、ほとんどのことは頭から抜けました。そして試験前になると、また頑張って詰め込み勉強をして成績が上がり、試験が終わるとまた忘れ、ゲームに夢中になる……。そうしたサイクルを繰り返すうちに、中学3年になり、「このままでは中学、高校時代に何も得ずに終えてしまう」と危機感に駆られました。
そこで思いついたのが、「社会で好きなことを実現している人」に直接会って、勉強の意味や学生時代にしておくべきことをインタビューすることでした。社会人で自分の興味ある仕事をして活躍している人の話を聞けば、自分がやりたいことも明確になる、と考えたのです。
まずは当時夢中になっていたゲーム開発会社や、ゲーム攻略サイトの運営会社の人にアポイントを取り、訪問しました。お気に入りのYouTuberの方に直接Twitterでアポイントをとり、お話を伺ったこともあります。最終的に10社以上の会社と6人の個人の方に話を伺いました。
印象的だったのは、好きな仕事をしている人は、みんな楽しそうだったこと。自分も将来は、好きなことを仕事にしたいと思いました。
――とくに印象に残っている企業訪問は何ですか。
2つあります。1つは、中学3年の夏休みにフィンランドに行って、「Supercell(スーパーセル)」というゲーム会社の本社を訪れたことです。僕のクラスの男子全員がやっているほどの人気スマートフォンゲーム「Clash Royale(クラッシュ・ロワイヤル)」「Clash of Clans(クラッシュ・オブ・クラン)」を作っている会社です。
yuzukky/2003年生まれ。10歳まで大阪で育ち、東京に引っ越し。中学受験して都内の中高一貫校に入学。中1の冬に社会人に「勉強の意義」アンケートを実施。中3で企業訪問を実践し、2019年9月からイギリスのボーディングスクールに入学。ブログ「yuzukkyの日記」を運営している
「こんなに面白いゲームを作っている人や職場を見たい」と思い、知人のつてでスーパーセルのフィンランド人の社員を紹介してもらい、メールで連絡を取ることができました。
フィンランドには同じクラスの友人に声をかけ、2人で行きました。中学生2人だけで海外の企業を訪問することは、もちろんハードルは高かったです。
でも僕は小学生時代から、親に連れられてよく海外で休暇を過ごしていました。中学1年の春休みにはニュージーランドの現地学校に1人で放り込まれ、何とか英語でコミュニケーションをとった経験もありました。そうした経験と、「もっと積極的な自分に変わりたい」という思いもあって、フィンランドに行こうと決めました。
現地でお会いしたのは、Einoさんという30歳くらいの男性のゲーム開発者。緊張しましたが、こちらの質問に丁寧に応えていただき、次第に打ち解けました。
質問は事前に日本で準備しておきました。帰国子女の友達や学校の先生に、英語でどう質問すべきかを聞いておいたのです。「Are there any things that I can do now to join Supercell?(スーパーセルに入るために今からできることはありますか?)」と質問すると、「Make something that you are intrested in now.Also, it is important to think player first and to think what can you do for them.(今興味あるものを作ってみよう。また、プレイヤーのことを第一に考え、彼らのために何ができるかを考えるのも大切だ」と答えてくれました。
とくに印象的だったのは、僕が「中高の勉強でやっておけばよかったと思う教科はありますか?」と聞いたときの、Einoさんの回答でした。
「Nothing.We can’t know the future and we also can’t go back the past,so it is more important to look toward rather than regreting(ないよ。私たちは未来を知ることも過去に戻ることもできない。後悔するより前を向くことのほうが大事だ)」と言われました。
英語があまりわからなかった当時の僕でも理解でき、心に響いたのを覚えています。
改めて認識したのは、世界で活躍するには英語が必須ということ。現地の日本人従業員も英語でやりとりして、とてもかっこよく見えました。ただ正直、僕が理解できた英語は全体の3分の1くらい。自分の考えも全然伝えられませんでした。その悔しさが、もっと英語を勉強しようというエネルギーになりました。
もう1つ、進路に影響を受けたのが「Wekids」という代官山にあるゲーム関連会社の女性CEOに話を伺ったことです。彼女は中学生のとき、日本の教育に不満を持ち、イギリスに留学しました。そこで聞いたイギリスの自由な学校生活や、生徒中心の授業制度がとても魅力的に感じました。その後、自分は留学したいと考えるようになりました。
――中学時代の企業訪問は、高校選びにどう影響したと思いますか。
いちばん実感したのは、接する人が変わると意識が変わるということです。これまでの学校生活では、先生と親くらいしか、大人と接する機会がありませんでした。でもフィンランド人のゲーム開発者や、社会人の留学経験者などに話を聞いて、イギリス留学が選択肢の1つに入りました。
イギリスのボーディングスクールを選ぶ際は、父の知り合いの同時通訳者の方に協力していただきました。まずインターネットや本でお気に入りの「ハリーポッター」の雰囲気がある学校を探し、「1クラス8人程度」「日本人0人」などと条件を加えて、5校に絞りました。そして現地の学校を訪問し、入学試験も受けました。
入学試験は面接と数学だけ。面接では自分の長所や入学志望理由を聞かれ、数学のテストは日本で教わったことと同じような内容をおさらいする程度でした。何とか無事合格。中学卒業後の今年4月以降は、ベンチャー企業でインターンシップに参加するなどしてイギリスへの渡航費を稼ぎながら、9月の入学に備えて英語塾に通って勉強していました。
イギリスの高校の授業は、生徒が興味や必要に応じて自由に選べます。ビジネスや心理学、ドラマなどの教科もあり、かなり専門的に学ぶことができるようです。ディスカッションやプレゼンテーションが中心で、クラスのメンバーや先生が毎回変わることにもひかれました。
9月に入学したら、英語を日常的に使わざるをえない環境に身を置くことになります。そこでの英語は、これまでのように授業で学ぶものとは違い、ほかの授業を理解したり、友達と会話したりするために不可欠なツールになります。そうしたツールとして、英語をどこまで使えるか不安もあります。
でも異なるバックグラウンドの人と多く接して、いろんな意見に触れられるのは、それ以上に楽しみです。将来やりたいことはまだ見つかっていませんが、イギリスでそのきっかけを見つけられたらと思います。