国内各地の里山で2005~17年度に野生動物の生息状況を定点観測した結果、日本の国蝶(こくちょう)とされる「オオムラサキ」など身近に生息するチョウ類の約4割が絶滅危惧種に相当するほど生息数が減ったとする報告書を12日、環境省と日本自然保護協会が公表した。野山に生息し、絶滅の危険性が比較的低いと考えられてきたノウサギなども急速に減少しており、専門家は「生息環境保全に直ちに取り組まなければ」と警告する。
環境省が国内の山地や沿岸域などの動植物を継続的に調査している「モニタリングサイト1000」のうち、里山192カ所の調査結果をとりまとめた。このうちチョウ類は各地の住民や自然保護団体の協力を得て、日常的に観察できる87種の発見数の推移を調べた。
その結果、約4割の34種が少なくとも30%減少し、絶滅危惧種に相当する可能性があると指摘。さらにオオムラサキ、ミヤマカラスアゲハなど6種は90%以上減少したと推測され、最も絶滅の恐れが高い「絶滅危惧ⅠA類」相当と結論づけた。
オオムラサキは、環境省が分類した「レッドリスト」では生息数の減少傾向がみられる「準絶滅危惧」にとどまっている。一般にチョウ類が減少する背景には、生息する森林の樹皮や下草などがシカに食べられる食害のほか、水質汚染や農薬の影響なども考えられるという。
チョウ類の生態に詳しい石井実・大阪府立大名誉教授(昆虫生態学)は「里山に人の手が入らず荒廃し、生息に適した植物が減った要因も考えられる。身の回りで当たり前のように見かけるチョウが姿を消すことで、鳥など他の生物にも影響を与えるのではないか」と指摘する。環境省の担当者も「衝撃的なデータだ。今後の生物多様性対策にも反映させなければ」と話す。
このほか絶滅危惧種相当と推測されたのは、哺乳類では草原を主な生息地とするノウサギ、森林に生息するテンの2種。水辺にすむ生物はゲンジボタルなどホタル類2種やヤマアカガエルが該当した。オナガやイワツバメなど鳥類13種にも減少傾向がみられた。
日本では近年、生息環境の汚染や乱獲などでメダカやニホンウナギなど身近な動物が絶滅危惧種に分類される例が相次いでいる。また世界中の科学者でつくる「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)は今年5月、世界で約100万種の動植物が絶滅の危機にひんしていると発表した。【五十嵐和大】