食べ放題・飲み放題のお店でたらふく飲み食いした後に「本当に元が取れているだろうか?」――この疑念を誰もが抱くはずだ。
しかし、例えば3000円を上限として設定し、それ以上の料金を取らない飲食店があったらどうだろう。おなかをすかせて爆食すれば、コスト計算に長けたお店にひと泡吹かせられそうではないか?
そうした顧客がきちんと元を取るのも可能な「3000円(税抜)を超えた分のお会計は頂きません!」という居酒屋が全国的に増殖しつある。その名も「定楽屋(ていがくや)」という店だ。
定楽屋の店の入口には、名物の長いレシートが何枚も貼ってある。1人当たり5000円、6000円、場合によってはそれ以上飲食しても、本当に1人当たりの会計が3000円になっていることが分かる。
1号店は2018年2月、愛媛県松山市にオープン。翌3月には、名古屋市と熊本市に2号店と3号店を矢継ぎ早に出店した。1号店の反響が思ったより大きかったため、迅速な出店となった。その後も着々と店舗を増やし、福岡市、鹿児島市、札幌市、京都市など、全国主要都市に早くも12店を展開している(11月11日時点)。
そのうち3店がFC(フランチャイズ)の店舗となっており、今後はFC強化も視野に入れて拡大していく方針だ。家賃の高さがネックになっているせいか、首都圏には残念ながらまだ店舗がない。しかし、金山のような名古屋でも有数の繁華街で、チェーンでトップレベルの売り上げを誇る店舗が成立しているので、そう遠くない将来には出店してくるだろう。
果たして、上限が3000円の居酒屋というユニークなビジネスモデルは、持続可能なのだろうか。検証してみたい。
お通し代や席料は取らない
10月の消費増税後の飲食店(特に居酒屋業界)では、30分飲み放題299円(「やきとり○金(まるきん)」など)、ハイボール1杯50円(「それゆけ!鶏ヤロー!」など)のように、お酒の値段をリミットまで下げて、集客を図る傾向が強まっている。
これらは、コストを抑えてはしご酒をしようとする人にとっては良い。しかし、じっくりと腰を据えて、テーブルに並べきれないほどの料理を眺めつつ、豪遊気分(もしくは多幸感)を味わうには、もっと別のシステムが待望されていた。
そこで考案されたのが、定楽屋による、上限3000円のビジネスモデルである。時間制限は2時間となっており、1人当たり500円で30分の延長が可能。全体の2割ほどの顧客が延長する。
定楽屋では3000円まではしっかりと通常の料金を取る。その意味で、全く普通の居酒屋だ。しかも、お得なことに、お通し代や席料を取らない。
ところが顧客の会計が3000円を超えると、テーブルバイキングへと切り替わり、それ以上いくら飲み食いしても3000円以上(消費税を除く)取られることはない。つまり、3300円の食べ放題となるのだ。
ただし、食べ残しや飲み残しがあった場合には、“定額中”であっても正規の料金を請求されるので、注意が必要。食品ロスを極力出さない「もったいない精神」が貫かれたシステムでもある。
このビジネスモデルは、携帯電話のパケットシステムと似ている。一定の金額以下ならばかかった分だけの値段にすればよく、顧客から見ると「分かりやすくて親切」という考え方が根底にある。
しかし、飲み代に3000円も出せない場合もあるだろう。そういう顧客には“午後8時以降、飲み放題上限1000円”という飲み放題に特化したプランもある。フードは別途、通常料金で注文する。2軒目、3軒目として、もしくは1軒目に行く前に軽く飲む「0次会」でこのプランを活用する人も多い。
また、“午後8時以降、飲み放題付き2000円、料理4品食べ放題”というコースもある。これは結婚式の2次会などを想定。飲み放題にプラスして、枝豆または塩ダレキャベツ、自家製から揚げ、ポテト(味4種類)が食べ放題で、1人1個ずつ雪見大福が提供される。
ほとんどのお客は5000~6000円分食べている
「8~9割以上のお客さまが3000円分を超えてご飲食いただいています。平均して1人当たり5000~6000円分くらいはご飲食されますから、実質半額というケースが多いです」と語るのは、運営会社「Style(スタイル)」定楽屋ブランド統括マネージャー 第一事業部店舗責任者の前田真実氏。
スタイルは、京都市中京区に本社がある資本金1000万円の飲食ベンチャーで、2015年に設立された。全国に50店ほどを展開して急成長中の企業である。同社は、宇治茶を使った創作和食「煎右衛門」を京都駅前に創業して以来、多くの業態を展開するが、ヒットした定楽屋は最大の店舗数を持つ主力業態となっている。
前田氏によれば「たいていのお客さまはお腹を空かして来店されます。中には1人で1万2000円分ほども飲み食いをしていく方もいらっしゃいます」とのこと。定楽屋に行く日には気合を入れて、朝食や昼食を抜いてお腹をペコペコにして、元を取りに来ようとする顧客が珍しくないそうだ。
採算面を聞いてみると「正直、ギリギリ。厳しいです(笑)。でも、普通の食べ放題よりも質を良くしてお客さまにご満足していただけるように、努力しています」(前田氏)と薄利多売の様相。
定楽屋では、顧客は5000円分くらいの飲食をしているようだ。一方、たまに3000円以下、ごくたまには1万円分以上の飲食をする人もいるとのこと。そこでどう採算を合わせるか。
1ついえることは、店舗の改装にはお金をかけていない。訪問した名古屋金山店は大手チェーン店の跡に、ほぼそのまま居抜きで入っていた。
これまでの店舗では、平均して80~90人分の席数であったが、最新店となる10月1日にオープンした西鉄久留米駅前店(福岡県久留米市)は180席。通常の2倍の広さを有している。
名古屋金山店は、連日2回転近くするほど盛況とのこと。夜が早く、1回転すれば繁盛店とされる名古屋の居酒屋事情を考えれば、集客は好調だ。高い集客力を背景としての大箱への挑戦である。
また、6割の顧客がリピーターとなっており、料理・接客を含めた顧客満足度の高さがうかがえる。顧客層は20~60代と幅広いが、立地によって異なる。名古屋金山店ではオフィス街に近いこともあり、40~60代が多い。一方、天神大名店(福岡市)など九州の店舗は20~30代が主流という。
飲み放題・食べ放題でも手は抜かない
「食べ放題にありがちな『どうせ適当な料理を出すのだろう』というイメージを払拭したいとの思いがある」と、前田氏は定楽屋のポリシーを強調する。
接客面では、お酒を顧客にセルフで注ぎに行かせたりはしない。しっかりとフルサービスで、料理の提供時間もできる限り迅速にする。顧客には制限時間内で目いっぱい楽しんでもらいたいのだという。
また、無料のサービスとして、誕生日・記念日といった“お祝いプレート”の提供も行っている。ただし当日の午後4時までの事前予約が必要だ。
100種類ほどある料理は、9割近くがキッチンでの手作りだ。1番人気の「だし巻き」(4種類)は、オーダーが入ってから1つ1つ丁寧に焼き上げる。その中には明石焼風のようなユニークな味付けの商品もある。1人で2~3個を食べる人もいるほどの看板料理。
ひき肉をよくこねてつくる「王様つくね」(月見照り焼きなど3種)はサイズも大きく、ハンバーグを食べているかのような錯覚に陥る。
また、「7種の味から選べるやわらか焼鳥」(自家製ネギ塩ダレなど7種)は、コンフィの要領で、最初に鶏肉を油に浸しているので、肉が非常にやわらかく仕上がる。串に刺すのではなく、お皿で提供され、バラエティに富んだ自家製のソースが選べる料理だ。
さらに「自家製唐揚げ」は、独自製法のタレにしっかりと鶏肉を1日漬け込んでいるので、味の深みが増している。
定楽屋はリピーターが主たる顧客なので、これらのような人気のメニューに加えて、飽きられないように旬の食材を使った季節メニューにも力を入れている。
秋のメニューだと「秋刀魚の塩焼き」や「焼きナスチーズ」などといったものが提案されている。19年は不漁だったサンマがリーズナブルに食べられるだけでなく、焼きナスもナスを丸ごと1本使った迫力あるサイズで提供される。
他にも、特製ダレで一晩寝かせた「うずらの味付けたまご」、女性に人気の「チョレギサラダ」、これから冬のシーズンには各種の鍋やおでんもあって、盛りだくさんの内容である。
名古屋金山店では顧客からの要望もあって、名古屋飯のメニューも提供している。「どて煮」「鶏ちゃん焼き」「きしめん」「手羽先」「小倉トースト」といったものだ。
ドリンクも品ぞろえが非常に豊富で、200種類ほどもあるので、どれを飲むか迷ってしまうほどだ。お酒では、レモンを自家製のはちみつに漬け込んだ「はちみつレモンサワー」があるなど、手間ひまかけたメニューが目立つ。
また、氷の代わりにガチガチに凍った冷凍のレモンを入れた「冷凍レモンサワー」(1人1杯限り)は、飲みほした後に追加のサワーが注文可能で、レモンをつぶしながら、徐々に融け出す濃厚なレモン果汁の風味を味わうことができる。同チェーンはレモンサワーを特に推しており、10種類もある。
30種類あるサワー類、4種のウイスキーが選べるハイボール、72種類もそろったカクテルは特に充実しており、お酒の主力をなしている。もちろん、ビール、日本酒、焼酎、ワイン、梅酒などの果実酒、ジン、ウオッカ、テキーラもそろっている。ハイボールなら、超炭酸でウイスキーを割った商品や、メーカーズマークのバーボンを使ったものもある。カクテルでは、女性が飲みやすい自家製のサングリアを提供するなど、お得に感じるメニューも紛れている。
さらに、お酒が飲めない人でも楽しめるようにノンアルコールも50種類を用意している。
本当に3000円でもうかるのか?
さて、これだけの手間ひま・人件費をかけて、定額3000円でもうかるのか?
前田氏は「キツい」と笑いながら泣きを入れるが、本当に採算が合わなければ多店舗展開しないだろう。しかし、東京や大阪の都心部では家賃が高すぎて厳しいようだ。県庁所在地クラスの規模がある地方都市の中心街を今のところ狙っている。
だが、鳥貴族のように、大阪の郊外でしか成り立たないと思っていたのに、試しに大阪のミナミに出店してみたら大当たりしたケースもある。
スタイルは社歴が浅く、28歳の金山洋明社長以下、従業員の大部分が20代の若者だ。ITならともかく、外食では今時珍しい急成長中のベンチャーである。金山社長は同志社大学生命医科学部在籍中に、居酒屋でアルバイトをしていたサークル仲間を誘って起業した。
店づくりは飲食コンサルタントで、中小企業診断士の河野祐治氏からサポートを受けている。料理は、ごはんクリエイト代表の野口利一氏の講習を社員が受けて、日々技能を向上させている。定楽屋は、金山氏や前田氏といったスタイル幹部の発想ばかりでなく、そうした先達の知恵によってブラッシュアップされているのだ。
それにしても、コストパフォーマンスを売りにした「やきとり○金」、「それゆけ!鶏ヤロー!」、どのメニューも298円均一の「鳥貴族」、いずれも鶏肉がメインの業態である。
そして、定楽屋の人気商品をいま一度見てみると、焼鳥、つくね、から揚げといったように鶏肉を使った料理が上位を占めている。それに加えて、だし巻き、うずらといった卵料理。ざっくりと、鶏やら卵やら「物価の優等生」を巧妙に使った料理を磨き上げて、もうけを出している気もしないでもない。
さて、今日は元を取るぞと張り切って、朝から絶食してきた常連たちは、果たして何人がその望みを達成できているのか。最新の久留米の店舗が、今までの2倍の大きさであることから考えると、どうやら撃沈率が高くてお店の方が優勢のようだが。
(長浜淳之介)