ネットで生卵がメチャメチャ売れる驚きの理由

売れないと悩む前に、まずは「売り上げの正体」を知ろう(写真:gontabunta/PIXTA)
インターネット通販の売り上げをどうすれば上げられるのか。どんな商品が売れるのか。楽天のECサイト「楽天市場」の元プロデューサーで、『4000万人の購買データからわかった! 売れない時代にすぐ売る技術』の著者、大原昌人氏が解説する。
楽天市場のプロデューサーを務めていた頃は、「4000万人の購買データ」を利用していました。
リアルタイムで4000万人がショッピングをする場など、現実世界ではありえません。日本最大級のショッピングモールであるイオンレイクタウンでさえ、来場者数は年間約5000万人、1日当たり13万~14万人にとどまります。集客力に定評のある東京ディズニーリゾートも、来場者数は年間3000万人強にすぎません。
そんなケタ違いの「お化けデータ」は、私に多くの真実を教えてくれました。ひとつは「売り上げの正体」です。
売り上げ=訪問数×転換率(コンバージョン)×客単価
ネットでもリアルでも、すべての売り上げはこの公式に集約されます。つまり、売り上げを上げたければこの3つのどれかを改善すればいいわけです。今回は「客単価」についての売り上げを伸ばすヒントをお伝えしたいと思います。
4000万人の購買データを見続けて興味深かった発見は、同じ人間でも、ネット上と現実世界とでは行動パターンが異なるということです。ネット上では、いい意味で犁卉渦舛狂う瓩海箸あります。どういうことかというと、リアル店舗ではまず売れないような高値でモノが売れることがあるのです。それに加えて、ネット上では旧来の思い込みや常識をくつがえすような事態もたびたび起こります。絶対に売れないと思われていたモノが爆発的に売れたりするのです。
そんなネットならではの現象を体現して売れまくっているのが「生卵」です。生卵がネットで売れるとは、最初は誰も思いませんでした。楽天社内の人でさえ、楽天市場で生卵を初めて売ることになったときは「絶対に売れないよ」と断言していました。割れやすい、配送しにくい、単価が安い、生ものであるなど、いかにも売れなさそうな条件が揃っていたからです。
ところが、大方の予想に反して生卵はめちゃめちゃ売れました。それも1セット1000~3000円という、生卵としてはかなりの高値で飛ぶように売れたのです。
実は、生卵の流通には問屋や販売店など複数の業者がからむため、鶏が卵を産んでからスーパーの店頭に並ぶまで1週間くらいかかることがあります。
一方、楽天市場の生卵は生産者から消費者に直送するため、産卵の翌日には届けることができる。ネット通販だからこそ、今までは手に入りにくかった新鮮な生卵を買えるようになったというわけです。
卵の鮮度はおいしさに直結するようで、私も実際に楽天市場で「産直の生卵」を買ってみたことがあるのですが、黄身をお箸でポンッと簡単につまむことができて、スーパーの生卵とはこれほど違うものかと驚かされました。同じように感動したユーザーが多かったのでしょう、生卵はまたたく間に楽天市場の人気商品となりました。今では「生卵」で検索すると数千件近い商品があります。
しかもスーパーの生卵が1パック10個入りで200円(1個20円)程度であるのに対して、楽天市場で売られている生卵は、よく売れている価格帯のもので1セット40~80個入りで3000円(1個37~75円)程度、高級なものになると1個当たり100円以上になるものもあります。
安くて当然と思われていた生卵を市価の2~5倍の価格で、しかもまとめて大量に買ってもらうことで、客単価を大幅にアップさせることに成功しているのです。ネット直販の生卵が高値で売れるのは、鮮度や「〇〇農場直送」というように、メリットを訴求しやすいからでしょう。それにより、ふつうの生卵とは一線を画す「産地から直送される新鮮な生卵」という新しいジャンルを築いたのです。
このように、古い常識に縛られることなく新しい価値観を提供できれば、客単価を大きく上げることができます。なんらかの事情で訪問数や転換率を伸ばしにくい店でも、客単価が2~5倍になれば十分勝負できるはずです。
いうまでもなく、客単価は高いほうが嬉しいものですが、単純に値上げをするだけでは消費者の理解を得られず、かえって売り上げが悪化する可能性があります。そこでおすすめしたいのが「合わせ買い」の促進です。主力商品が3000円だとしたら、それ単体ではなく1000円の関連商品との「合わせ買い」を提案する。これで客単価を4000円に上げることができるうえ、ユーザーが合わせ買いをするかどうか検討する時間の分だけ、滞在時間も延ばすことができます。
とはいえ、なんでもかんでもまとめて売ればいいというわけではありません。合わせ買いを成功させる第1のポイントは「価格」です。合わせる商品の価格は、メイン商品の3~4割がベストで、それ以上になると高すぎて、合わせ買いしようとは思わなくなります。メイン商品より高い商品を提案するなどもってのほかで、それはもはや合わせ買いとはいえません。
第2のポイントは「ストーリー」です。例えば「もつ鍋」と一緒に「野菜セット」もいかがですか、と提案するのはストーリーとして自然なので受け入れられますが、「もつ鍋」と「お刺身」では、合わせ買いをする必然性が薄くてユーザーも購買意欲がわきません。
合わせ買いを促すキャンペーンを打つ際にも、ストーリーは重要です。以前、楽天で「1000円のものを3つ買ったらポイント2倍」という企画がありましたが、ほとんど反響はありませんでした。なんのストーリーも用意せず、単に「今まとめて買うとお得ですよ」というだけでは、消費者の心に響かないというわけです。
つまり合わせ買いの成功率を高めるには「3000円のもつ鍋に1000円の野菜セット」「7000円のビール飲み比べセットに1500円のグラス」というように、値段とストーリーのバランスが取れていることが大事なのです。
なお、合わせ買いと「リコメンド」は似て非なるものなので、分けて考える必要があります。合わせ買いが、1回の買い物かごに関して「こちらも一緒にいかがですか」と提案して客単価を高める施策であるのに対して、リコメンドは「次回はこちらもご検討ください」と提案してリピート購入をうながす施策です。

具体的に言えば、合わせ買いは「もつ鍋を買うなら、野菜セットも一緒にどうですか?」という提案であり、リコメンドは「来週は水炊きにしませんか?」と、同質のモノをべつの機会に買うことを提案するわけです。
リコメンドには、合わせ買いのようなストーリーは必要ありません。価格も、今回買ったものより高くても安くてもいい。購入履歴などに基づいて、その人がよく買うジャンルの商品をおすすめできればそれでOKです。購入後のページなどに表示されるリコメンドは、基本的にはシステムが自動で判断するので、それに任せておけば間違いありません。
ストーリー性のある「合わせ買い」を上手に利用することで、客単価は思ったより簡単に上げることができるのです。