「平和への思い訴えて」広島で被爆の男性信者、ローマ教皇に期待

広島で被爆したキリスト教カトリック信者の吉野映司さん(86)=広島市東区=が、24日に広島、長崎の両被爆地を訪れるフランシスコ・ローマ教皇のメッセージを心待ちにしている。38年前に当時の教皇、ヨハネ・パウロ2世が広島を訪れた際には地元の教会から写真撮影を頼まれ、被爆地から発した力強い言葉に胸を打たれた。「改めて平和や核兵器廃絶への思いを聞かせていただけるとうれしい」と期待する。
くすんだ写真には、歓迎する信者らに手を上げる白い法衣姿のヨハネ・パウロ2世が納まる。1981年2月、爆心地にほど近い広島市中区の世界平和記念聖堂(カトリック幟町(のぼりちょう)教会)で撮影した。その直前に訪れた広島平和記念公園で、カトリックのトップがたどたどしい日本語で発した言葉を、吉野さんは忘れない。
「戦争は人間の仕業です。戦争は人間の生命の破壊です。戦争は死です。この広島の町、この平和記念(聖)堂ほど強烈に、この真理を世界に訴えている場所はほかにありません」
45年8月6日。広島市立第一工業学校に通う12歳の吉野さんは爆心地の南東約1・8キロにいた。空襲で延焼しないよう家屋を取り壊す「建物疎開」に動員され、川沿いに整列していたときだった。閃光(せんこう)を浴び、爆風に吹き飛ばされた。左がひりひりと痛み、自宅に帰る途中、自ら皮膚をはいだ。今も喉元に残る細長い傷は、被爆時に着ていた学生服のカラーの痕だ。

高校卒業後、針などを製造する地元の工場に技師として就職。ある日、知人に誘われ、完成した聖堂を訪ねた。「こんな立派な、ええもんが建っとったんか」。教会の催しを手伝ううちに信者たちとの交流が深まり、22歳のクリスマスイブに洗礼を受けた。
48歳の時にヨハネ・パウロ2世が来日。工場の旅行でよくスナップ写真を撮っていたことを知った教会から依頼を受け、教皇の写真を撮る「写真係」になった。信者で混み合う聖堂の敷地内で、夢中になってシャッターを切った。帰宅後、教皇が発した「戦争は人間の仕業」との言葉をテレビで知った。
「ええこと言うのう。全くその通りじゃ」。当時、信者の間では「被爆は神が与えた試練」との考えが根強く残っていた。戦争は神が起こしたのではなく、他ならぬ人間が犯した過ち――。人間の業に向き合う強いメッセージに、一人の被爆者として、そして信者として深く共感した。
フランシスコ教皇は24日午後、広島平和記念公園で開かれる「平和のための集い」に出席し、世界に向けて語りかける。「来てくださることに感謝し、おっしゃる言葉に耳を傾けたい」。直接、言葉を聞き、胸に刻み込むつもりだ。【小山美砂】