トラックはなぜ踏切へ?京急事故、直前の様子

9月6日午前に始まった京急線の車両撤去作業(写真:時事)
9月5日、横浜市神奈川区の京急本線神奈川新町第1踏切で電車がトラックと衝突して脱線し、トラック運転手が死亡、乗客ら33人が重軽傷を負った事故。その直前の様子が、京急電鉄など関係者の話から少しずつわかってきた。
横浜方面に向けて青砥発三崎口行きの下り快特列車(8両編成)が進行中、トラックは列車とは反対に、東京方面へ向かって線路に並行する側道を走っていた。トラックは荷台の架装が左右に開くウイングタイプで全幅2.4m、積載量13t(総重量25t)、通常より長い全長13mのロングボディだった。
トラックを運転していた67歳の男性は、当初は踏切とは反対に左折しようとしていたという目撃情報もあるが、結果的には右折して踏切への進入を試みた。
京急が公表するのはここからだ。側道は幅が狭く、大きなトラックは1回では曲がりきれない。なんとか踏切に進入しようと、約4分間にわたって前後に切り返し、車体の方向を変えようとした。断続的に踏切警報機のカンカンという音が鳴り響く中で、遮断機のバーが下がったところで停車、バーが上がったら再び動き始めるという運転操作を3回繰り返した後、運転席の部分だけを踏切に突っ込んだ。
踏切を渡り切るまでの長さは19.4mある。「(運転手が)どういう心理かわからない」(京急)が、トラックは遮断機が荷台に当たって下がりきらない状態にも関わらず進み続け、遮断機をくぐり抜けるようにして踏切内にすっぽりと車体全体が入ってしまった。その間は20秒以上あった。
踏切事故の中には、踏切に進入したものの前方の車に妨げられて前進できないまま列車と衝突するケースがあるが、今回はトラックが何度か切り返しを繰り返したため、他の車がトラックの前に出ようとしても出られず、踏切の先は空いていたという。さらに前進して遮断機を折ってでも踏切の外に出ていれば、最悪の結果は免れた可能性は残る。
京急によると、事故のあった区間では通常、快特列車は最高時速120kmで走っており、事故直前の列車も同じスピードだったと考えられる。トラックが右折を試みてから約5分、踏切への進入から10数秒足らず。列車はトラックの後部荷台に突っ込み、約90m引きずって停止した。
立ち往生するトラックを列車は見つけることができなかったのだろうか。
京急の踏切事故防止対策は、機械で事前に障害物を検知して列車に知らせ、運転士が列車を停めるのが基本だ。踏切にはミリ波(電波)を照射して障害物を検知する3Dセンサーが設置されており、検知すると線路脇の発光信号機が激しく点滅して列車に異常を知らせる。
事故現場の踏切では、発光信号機は踏切の340m手前に設置されており、運転士はこの信号機をさらに260m手前から目視できるという。つまり、踏切から600m離れた地点で異常を確認できることになる。列車が時速120kmで走っていても、踏切に到達する前に止まることができる距離だ。
しかし、結果的に列車は踏切の手前では止まれなかった。すると、1秒間に33m進むスピードの中、運転士は何らかの理由でブレーキを決断できなかったということになるが、この点は今後の調査が待たれる。
3Dセンサーによる検知とは別に、誰でも押すことができる踏切の非常ボタンも危険を知らせていた。カメラの映像ではトラックの運転手が車外に出た様子はないが、車両後方に人が映っていたため、衝突の危険性に周囲の人が気付いて操作したことになる。ただ、非常ボタンも3Dセンサーと同様に発光信号機を明滅させ、運転士の判断で列車を止める仕組みだ。
一方、列車の速度はATS(自動列車停止装置)が設置されているため、時速120km以上は出せない仕組みになっているという。速度超過になると、自動的にブレーキが作動する仕組みだ。
事故を受け、運輸安全委員会は鉄道事故調査官3人を現地に派遣した。また、国土交通省自動車局は、トラックの運転手が所属する千葉県香取市の運送会社に監査に入った。さらに、同省の事業用自動車事故調査委員会の調査官5人も調査に向かった。京急は7日始発の運行再開を目指して復旧を急いでいる。